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神様に転生したので、スローライフを満喫します  作者: オリオン
青年期、第11章、更なる上を目指して
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汚れていない自分の手

試練と言われて野生での生活を始めて1週間が経過した。

雨の日はすごく寒いし、大きな鳥に襲われそうになったりと

中々に大変だったけど、何とかやっていくことが出来た。

でも、今まで大丈夫だったのは、全て私以外の皆のお陰だった。

私はまだ、動物を殺す事を躊躇う、逃げていくだけの動物を

食べるという理由だけで殺すのを躊躇う。

でも、皆がその辛い思いをして動物を殺して獲たお肉を

何もしていない私が食べると言う事が…少しずつ許せなくなってきた。

私は何もしてないのに、皆は頑張ってるのに

私だけ手を汚さないで、綺麗なままこの野生の世界で生きていくなんて…

なんて無様で情けない…自分だけ白いままだなんて、白々しいにも程がある。


「ほりゃ! うん、狩りも余裕になって来た!」

「水希、躊躇わんなったのぅ、ま、うちもやけど」

「生きていくためには仕方ない事だから、妥協しないとね。

 それに、今までだって動物さん達のお肉を食べてきたんだしね。

 やってることは同じだよ、直接してるだけか、間接的にしてるだけかの違いしか無い。

 結局は同じ事だもんね」


その通りだと私も思う、私も今まで色々な動物のお肉を食べてきたんだから。

結局は食べてる、殺しては居ないけど、殺しているのに等しい。

ただ殺したという責任を誰かに押し付けてるだけでしか無い。

そう、押し付けてるだけだ、今の私も…押し付けてるだけ。

やらなきゃいけないのに、私だけ何もしないなんて…無責任すぎる。


「わ、私も…私だって! 私だって動物を!」

「……茜」

「え?」


槍を強く握ったとき、私の肩を花木さんが叩いた。

少し驚きながら、ゆっくりと花木さんの方を向く。

花木さんの表情は少しだけ怒ってるように見えた。


「茜、競争するために殺そうとしないで?

 私達が殺すのは、生きるために殺してるだけ。

 もしかしたら、自分だけ何もしていないから辛いとか

 そんな事を考えてるのかもしれないけどさ。

 それはやっぱり、動物を自分が楽になるために狩ろうとしてるだけだよ?

 狩るのは最低限、私達が生きていくためだけの命にしよう。

 それが1番だよ? それに、自分には自分の役目があるって気付いて。

 取ったお肉を、皆の為に料理しているのは茜なんだから」


……あぁ、本当にその通りだよ、そう、その通り。

ここで躍起になって、私が動物を狩るというのは違う。

それは生きていくために狩るんじゃ無くて、狩るために狩ってる。

動物を狩り殺すと言う事が目的になってしまう。

それは違う…狩るというのはあくまで生きていくための過程でしか無い。

そんな事にも気付けないなんて…私は何処まで愚かなんだろう。


「はい、分かりました…ごめんなさい」

「狩る量を競争するってのは良い事じゃ無いんだからね。

 あなたには仲間が居るんだから、無理な事は頼れば良いの。

 それに、茜が狩りをしようとしても、絶対に躊躇って失敗するよ。

 もし成功しても、茜はすぐにふさぎ込むと思う。

 自分の手で1つの命を葬ったという罪悪感に駆られてね。

 虫も殺さない茜に、動物を狩るのはそもそも無理なんだよ」

「…そうかも知れません、でも、ずっと逃げるって言うのも」

「無理な事を無理だと受入れる事も大事だと思うよ?」

「……」

「茜、あなたは責任を感じなくて良い、獲物を狩れないという点に関してね。

 あなたはそれで良いのよ、誰もあなたは責めないわ、あなたが必死なのは

 皆分かってるからね、必死に私達の為に頑張ってることも。

 鳥や肉食獣に襲われるときとか、いつも足止めを買って出てるくらいだしね」

「無茶はしないで良い、大丈夫、皆で皆を支えてるんだから。

 当然、私達は茜を支えてるし、茜だって皆を支えてる。

 狩りという行動が出来ないからって、自分が何もしてないとは思わないで」


必死に庇護されても、私はやっぱり自分が許せなかった。

どれだけ言われても、自分は自分が恥ずかしかった。

皆がしてる辛い事を、私がしないのは、やろうとしないのは…

私には許せなかった…自分の行動が、意思の弱さが。

重い罪悪感が私の心を押しつぶそうとしている。

……あぁ、こんな事、前にもあった…覚えてる。

睦月お姉ちゃんが消えちゃったときだ、あの時にこんな気持ちになった。

自分が弱いから、駄目だから、頼ってばかりだったから、だからお姉ちゃんは消えたって。

だから必死に鍛えて、鍛えて……そして今だ。

でもどうだろう、今のこの気持ちでまた同じ事をした場合、私はどうなる?

動物を狩る事を鍛えるの? 殺す力を磨くの? 何を鍛えるの?

どうするって言うの? あぁ、答えはすぐに出た、どうなるかは。

きっと殺す事に躊躇いが無くなる、私はそう言う極端な奴だ。

そうなったら……私は…相手の気持ちをみようとも考えようともしなくなる。

相手の気持ちが分かるのが辛い、感情が読み取れるのが辛い。

怨みの念を感じるのが辛い、だから私はそこから逃げるはず。

そんなの…四宮の巫女じゃ…無い、圭介様に相応しい巫女じゃ無くなる。


「……だけど」


だけど、私はこの気持ちが恐い、嫌だ…辛い。


「こんな気持ちは辛い」

「どんな気持ちかは分からないけど、その辛い気持ちから逃げる為に

 茜は動物を殺すの?」

「そ、そんな事」

「あたいは狩りをすることが余裕になっては来たんだけど、少しは辛いの。

 やっぱり、自分の手で何かを殺すって、仕方ないとは言え妥協できないよね。

 多分、忘れっぽいあたいだけど、この気持ちは忘れないと思う。

 でもさ、あたい達がやらないと皆が困るから、辛い思いをしても狩りをするの。

 でもほら、逃げるわけにはいかないから、あたい、逃げるの大っ嫌いだから」

「逃げるのはようないで、逃げる為に動物を殺すのもようないで。

 なに、大丈夫や、茜はちゃんと活躍しとるんやから。

 誰もサボりめー、とか思っとらんで」

「辛くても受入れなよ、自分でも何となく分かるんでしょ? その先が」


分かる、自分の事はあまり分からない私だけど、これは分かる。


「なら、辛い思いをし続けて成長しなよ、それで良いから。

 自分の罪深さに気付けただけで、茜は十分良い子だから」


罪深い、本当にその通りだ…このままこの罪深さも受入れよう。

この経験を、私なんかの為に犠牲になった動物たちの生々しい死を

無駄にはしないためにも、私はこの罪を受入れて生きていこう。

もう、料理を作る時だって、感謝しながら作らないとね。

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