傍観者達
「ふむふむ、なる程、元獣の妖怪達は流石と言った所だね」
まさか、箱庭サイズの結界を召喚して、そこにあいつらを突っ込むとはな。
意外と色々と出来るな、料理の神なのに料理以外も可能とはね。
何か、下手したら時雨よりも能力高いんじゃねーの?
とか思ったが、あいつの実力は未だに分からないからな。
「あれはあの3人が居ないと、どうしようも無かったんじゃねーの?」
「そりゃそうでしょ、ずっと強者の位置にいた人間や妖怪達が
いきなり弱者にまで落ちて、無事なわけが無いわ。
生まれ持っての金持ちの子供が、学びを強要されず
好きな事をやって、好きなものを買って貰って中で
いきなり両親の会社が倒産、一気に底辺に落ちて生き残れるはずが無いようにね」
「ま、色々な学びをしっかりとしていれば、例え底辺に落ちても問題ありませんがね。
多分、そう言う場合は再びのし上がりますからね」
それはそうだろうな、何かを学ぶことが出来ないお金が無い子達と。
何かを自由に学べていたお金持ちの子供、大きな差があるのは明白だ。
どう考えても、色々な知識を学ばせて貰ってた子供の方が上だろう。
「まぁ、この話はここまでで良いでしょう、金持ちと皆さんの状況。
正直釣り合いませんしね、間違いなく恋歌達の方が大変です」
「そう言えば、あんたの巫女も練習に来てたわね、殆ど喋ってないけど」
「来てますとも、私も美味しい料理が食べたいので」
「……自主的に来たわけじゃ無いんだな、恋歌は」
「いえ、自主的ですよ? 料理の探求もちょっとは必要だと考えたみたいです。
まぁ、ただの知的好奇心が強いんでしょうけどね」
流石は叡智の神に仕える巫女、ここに来たのもただ興味があったからだけか。
「水希達は少しは私に楽をさせたいし、料理を勉強したいって理由ね
全く、普段は野蛮なことしかしないのに、たまに良い子になって嬉しいわ」
「表情が自然と緩んでる…本当に嬉しいんだな」
「ま、まぁ…す、少しね」
とても少しには見えないが、そこは深く言及するまい。
下手したら、時雨が言及しそうだけど。
「……いやまぁ、言いたいことは色々ありますが、それよりも
茜さんはどうなんです? キャンさんとキキさんの方が意外でしたが。
茜さんが参加するのは個人的には確定してましたしね、ただ理由がね。
この流れだと、理由を聞きたいという感じです」
「茜は俺達にもっと美味しい料理を作りたいって言う理由だ。
あいつは向上心の塊だからな、修行も料理も何もかも全力なのさ。
ただし、自分に関する事以外だけど」
「あぁ、やはりそう言う…では、キキさん達は?」
「あいつらは、茜に少しでも楽をさせたいからって理由だ。
あいつらも茜の事は大事に思ってるからな。
普段働きっぱなしの茜の為に、何かしたいと考えてるんだろう」
「圭介さんは何もしていないのにですか?」
「前言ったが、俺も実は色々やってる、お前らが居ない間はな。
正直暇なんだよ、何かしてないと、料理もたまにやってたりするんだぜ?
茜が修行で疲れ切ってるときとかに、それでも茜は自分の身体にむち打って
私がやります、とか言ってるんだけど、そう言う時は説得して休ませてる」
「何だか、容易に光景が想像出来るわね」
「あぁ、足とか震えてそうですね」
実際、そう言う場合は大体足が震えてるからな、恐怖とかじゃ無くて
完全に疲労だけで、修行もかなりキツいし当然なんだけど。
それでも自分がやろうとするから、茜は本当に自分に興味が無い。
あそこまで徹底して、自分を捨ててたら不安しかない。
あれは俺が生きてた世界にいたら、疲労死するタイプだ、間違いない。
会社とかじゃ、スピード出世をするけど、その分疲労困憊で
休みの間はずっと寝てたりして、仕事頑張ろ、とかなるタイプ。
俺が生きてた世界に、あいつが生まれて無くて良かったよ、本当。
あの世界は、自分を捨ててまで頑張る奴を助けてくれる人はそうそう居ないからな。
こっちの世界は神社の面子が助けてくれてるから良い物の。
「へ、へぇ…あの子ってそんなに…少し驚いたなぁ」
「1週間稽古を付けてたんだし、分かるんじゃねぇの?」
「1週間はそこまでキツい修行を与えてないからね、今回が1番だよ」
「ほぅほぅ、あぁ、そうだ、気になったんですが
あなたの巫女の話から考えて、あなたは今まで自分の巫女に
料理を教えては居ないそうですが、普段は誰が作ってるんですか?」
「あたし、里香はいつも私が作りますと言うけど、全部却下してる」
「何でまた…」
「料理の神髄を教えてない奴に料理をされるのは嫌だから」
「…料理の神、徹底してますね」
「あぁ、徹底しすぎてその内、巫女が反乱しそうだな…」
「てか、それならさっさと教えれば良いのに」
「今教えてるのがそれでね、料理の神髄というか、精神を学ばせてるの。
食べられる側の気持ちを考えると言う、大事な事が。
心の底から感謝すること、料理をする時も食材に感謝をする必要があるとか
当たり前が当たり前で無くなったときの動植物達のありがたみを教えてるの。
少しお金を出せば買える命って、やっぱり感謝があまり出来ないと思うの。
ありがたみを感じないから、お金を出せば簡単に買える物に対し
本当に感謝が出来る筈も無い、だから、実際に食べられる側の気持ちを体験して貰って
食べられるかもしれないと生きていき、必死に獲物を追いかけて狩り、美味しく食べる。
これを経験して貰わないと、料理をして貰うのは困るんだよね」
なる程、これが料理の神、徹底してるな。
流石は食を司るだけの事はある、食う側の経験も食われる側の経験もさせようとするとは。
「多分、狩られる側の気持ちを知ってるから、花木さんの団子はあんなに美味しいんだ」
「その花木もこの訓練にぶち込んでるんだが?」
「お助け役って感じだよ、あの人が居ないと生き残れないだろうからね。
今まで、里香にこの修行をさせなかったのは、あの子だけではまず生き残れないと
分かっていたからで、今回は複数人居て野生組もいたから、この修行をさせたんだ。
1人で生き残る事は出来ない、当たり前だけどね」
花木も恐らく、同じ様な事を言うだろう。
ただし、あいつの場合はただ自分が生き残る為の信条を言うだろうが。
それは仕方ない事だ、友情とか、そんな曖昧な物で生き残れる世界では無い。
大事なのは自分が生き残る事、その為に他人を犠牲にしても構わない。
友情や仲間なんて物を大事に出来るのは強者だけだと、弱者はそんな物には頼れない。
でも、そんな経験をしていたからこそ、あいつは友情や仲間の大事さを知ってるのだろう。
ずっとそれを持っていた俺達よりも、ようやくそれをつかみ取ったあいつの方が。
現にあいつは、妖怪兎たちの頭領で妖怪兎達から誰よりも慕われている。
友情や仲間の大切さを誰よりも知っているからこそ、あそこまで慕われているんだ。
「問題は全員生き残れるかね…」
「殆どは花木の統率能力に託されてる感じか」
「おや、あの人は自分の為に周りを犠牲にすると言ってますよ?」
「あれは虚言だろう、折角手に入れた仲間や友情を
そう易々と手放すはずも無いだろうからな
例えこれが箱庭の中の戯れだと知っていたとしても」
命の保証があるお遊び、下手すればあっさり死ぬ世界で生きてきた
花木にとって、箱庭の中は本当にただの遊びにしかならないだろう。
それでも花木は本気でやるだろうな。
実際の野生でもあいつは本気で戦って、仲間を守ろうとするだろうが。
ようやく手にした大事な物をそう簡単には手放せない。
当たり前と言えば当たり前だ、何より価値ある物を捨てるわけが無いからな。
さて花木、果たしてお前はこの箱庭で仲間を守れるのか…楽しみにして見てやろう。
神のようにただ傍観する、初めてかもな、こう言う事。




