成長の把握
茜と水希の戦いは引き分けという結果だった、
本気で勝敗を決しようとしていた2人だが
別にこの結果でも悪くないという感じだった。
正直、茜の成長も凄いが水希の成長も凄いよな。
茜相手に1時間も1対1で戦い抜いたんだから。
「茜ちゃん、凄かったケロね、あれはもう手も足も出ないケロ」
「水希の方は戦い方が変ったくらいで、あまり変化は感じなかったけど」
「やれやれ、まだまだ未熟ですね、楓は」
「え!? どう言うことですか? 私、何か間違ったことを」
「大間違いだろ、そりゃよ…今回の茜は反撃をしてたんだ
相手の行動を、まるで心でも読んでるかのように行動する茜が」
「…え? 何か変な事が」
「駄目ですね、戦いを見てないし相手の特徴も把握してない。
そんなんじゃ、大天狗になってもそこまでですねぇ」
「はぐらかすなぁ、擂は相変わらず意地が悪いで」
「気付かない方が悪いんだ、まぁ愚問だと思うが、そっちは分かってるんだろ?」
「うちを誰だと思っとる、水希の師匠で茜の師匠の親友やで」
「私はあなたの事を親友だと思って無いわ」
「な! 酷いやん! うちと葵の仲やんけ!」
「いやいや、むしろあんたみたいなしつこい戦闘狂願い下げよ」
「酷いわぁ! 流石に心なさすぎやろ!」
まぁ、確かにあれは酷い。
でもまぁ、正面向ってああ言えるだけの信頼はあるのだろう。
「まぁ、手がかりを言うとですね、茜さんの特徴を考えれば分かりますよ」
「茜の特徴…?」
「さっきも言ったとおり、茜はまるで心を読んでるかのように相手の行動を予想する。
だが、実際に心を読んでるわけじゃ無い、じゃあ、何で把握してるのか」
「そんなの、相手の癖を見てでしょう?」
「その通りや、水希は今回の修行で戦い方を変える練習をした訳やが
実際に人間が自分自身の癖を土壇場で変えられるはずもない」
「既に水希は茜と何度も戦っていて、特徴や癖も全て把握されてる。
ここで戦い方を変えても、茜の目を一時的に誤魔化せるだけで
そうね、10分程度で戦い方を再び予想されるようになるわ」
「更には今回の茜さんは完全な反撃での戦いでした。
反撃というのは相手の動きを読んでする攻撃。
相手の癖や普段の生活を完全に把握している茜さんが
相手の攻撃を予想し、更に的確な反撃を行う様になっている。
防御を崩すのも困難で、更には反撃、しかも正確に的確に
相手が苦手とする角度への反撃を行なう事でしょう」
茜は相手の動きを予想する天才と言っても過言じゃ無い。
もはやそれは訓練で身につけることが出来る領域を遙かに凌いでる。
些細な動きも、その圧倒的な洞察力で捉え、何が狙いかを把握できる。
茜は相手と何度も戦えば戦うほど、その相手に対し圧倒的な実力を付ける。
水希は既に何度も茜と戦っているんだ、当然、戦闘時の咄嗟の癖を把握されてる。
そんな状況で、水希は不慣れな防御も多用し、茜と1時間も戦い抜いた。
最大の防御と最高の攻撃を手に入れた茜に対し、引き分けまで持ち込んだ。
それはつまり、水希は戦闘の中で常に自分の癖を殺していたと言うことだ。
それはもう、戦闘している間に自分を自分以外にするのと大差ない。
水希はその術を、この僅かな時間で手に入れていたと言う事だ。
まさしく戦いの天才、軍神である時音の巫女に相応しいだろう。
その戦いの天才対気遣いの天才、こう並べてみると気遣いの天才はダサいな。
それでも茜は戦いの天才である水希と戦い引き分けに持って来たんだ。
あいつも十分、戦いの天才と言えるかも知れない。
何せ、水希が自分を何度も変えているとすれば
茜はあの短期間で複数人の相手と戦ってたと言う事だ。
どれも見覚えはあるけど初めて戦う相手。
その相手の行動をすぐに読み、防御と反撃をこなす。
いつの間にか同じ相手が他人になったとしても
すぐに相手の行動を読み、防御と反撃を繰り返す。
水希が柔軟性に秀でているのに対し、茜は吸収力に秀でていた。
柔軟に変る相手の特徴をすぐに吸収、学習して反撃を行なっていたのだから。
「水希さんはあの短期間で何度も別人に変化した、性格は変らずね。
何度も変則的に変化する相手を1時間抑えていた茜さんも流石ですがね
しかも全て反撃を行なっていた、つまり変わり続ける水希さんの能力や癖を
あの短期間で何度も何度も学習してね」
「…そう聞くと、あの2人が人間なのか怪しいですね…」
「人間だ、紛れもなく、常に変わり続ける人間だ」
茜と水希は実際かなり人間離れをしていると思う。
それでもあいつらは列記とした人間だ。
異常な程の成長性はまさしく人間と言えるだろう。
茜たちは常に成長する、変化し続けるだろう。
間違いなく、この戦いの後だって成長する。
きっと今まで以上に成長する、相手に負けまいと奮闘して
更に成長してまた戦って、相手に負けじと必死に努力をする。
それが四宮 茜と山明 水希の関係だ。
親友にして最大のライバルというのも熱い関係だな。
「ま、うちと葵みたいな関係やな」
「いや、私達はあの2人ほど熱くないわ、むしろ私は冷めてる」
「何か辛辣やなぁ…」
まぁ、お互いの師匠はそこまで熱い関係でも無いけどな。




