戦いへの招待
ホワイトデーも終わって、しばらく時間が経った。
茜の成長は著しく、ドンドン成長している。
そしてだ、当然この日がやってくる。
「茜! あたいと勝負だ!」
「えぇ!? 今日はまだ修行が残ってて!」
「ふっふっふ、逃げるのかしら!」
「時音…お前も無駄に便乗するなよ」
どうも今回は時音まで便乗し、マジの状態らしい。
一応、この時が来るのは覚悟していたが
まさか時音まで全力で動くとは思わなかった。
それだけ修行の成果に自信があるという事だろう。
「俺としても茜と水希の戦いは気になってたんだ
と言う訳で、俺からも戦ってくれとお願いするよ」
「ケロケロ! 久し振りケロ!」
「頭領様、お久しぶりです!」
「まさか山の権力者を総出で動かすとは思わなかったよ、神様が」
「でも、私としては久し振りに圭介さんと再会できて嬉しいですよ~」
「沢山沢山! お祭り以来! うちも楽しい超楽しい!」
「当たり前の様に俺の背中に抱きつくな、くるみ。
一応、俺はこれでも神で」
「と、頭領様の邪魔をするな! そんなの僕が許さない!」
「あはは! 追いかけっこ? うちは得意だよ!」
「待てー! 羨ま、じゃなかった! 許さないんだからぁ!」
「ケロケロ、賑やかケロねぇ」
「私はこう言うのはあまり得意では無いんだがなぁ…
まぁ、ここにいる全員の心をどれだけ読んでも
悪意なんて微塵も感じないから問題無いが」
「うん! やっぱりここは過ごしやすい気がするよ! 水気が欲しいけどね!」
「…ふ、普通は来ないんだけど…か、神様に言われて、仕方なく来ただけなんだ!」
「……時音」
「ふふん、観客が多けりゃ逃げられないでしょ」
「なんでそんなに…はぁ、まぁ仕方ないだろう。
とは言え、急にこんなに来られちゃもてなしは出来ないぞ」
「分かってるわ、もてなしを期待したわけじゃ無く、水希と茜の戦いが見たいのよ!」
「ケロも気になってたケロ、茜と水希の戦い!」
「事実、ここに来ている者達は皆気になって来てる者ばかりですからね」
「そんな事は無いけどね、皆というか半分以上は四宮神社に来る口実だ」
「わ、私は違うから! 本当に気になっただけで!」
「1番戦いに興味を持っていないのに何を言ってるんだか」
「こ、この! 心を読むなぁ!」
「悪いけど心を読むのが私の妖怪としての仕事でね、からかいやすい奴の心は
ガンガン読む、人間を毛嫌いしてて、それが茜たちに出会って心を開く。
でもその後、あまり来てくれないからって少し不機嫌だったんだよな?
知ってる知ってる、分かってる、全部読めてる」
「う、うぅ! もう良い! 山童の里に来いよ茜! 圭介!
皆待ってるんだ! 人の心を勝手に変えた責任取れ! 馬鹿!」
「ふふ、そうだね、今度行くよ」
茜が満面の笑みで耶麻の言葉に優しく返事をした。
耶麻はそんな茜の言葉を聞き、顔を赤くし目を逸らす。
はは、最初に出会った時と比べて、本当に丸くなったな。
最初は有無も言わずに襲ってきたのに、はは、変る物だな。
妖怪も人も神も、結構変る、それは当たり前の事だな。
不変な物は無い、些細なことで必ず変る、俺はそう言うのは好きだ。
「ケロケロケロ! ついに言ったケロ! 素直になれて良かったケロね」
「うるさい! この蛙!」
「ケロケロ、蛙はうるさい生き物ケロ、ゲコゲコ~」
「うぅ! からかうなぁ!」
「な、何か利用するつもりだったのに逆に利用された気分…」
「利用されてるんだよ、神様ってのも安い物だなぁ」
「うっさい! 私の目的さえ果たせりゃ、後は何でも良いのよ!
さぁ! 水希と茜を戦わせなさい! 今回は本腰入れて水希を鍛え上げたんだから!」
「本腰入れられて鍛えられたんだから-!」
「あはは、け、圭介様、どうしましょう」
「そりゃおめぇ、ここまで色々と整えられて
逃げるわけにはいかねぇだろう」
「はい!」
「と言う訳で、その勝負受けてやる! こっちも茜は必死に鍛えたんだ!
そう簡単に超えられると思うなよ!」
「私はもっと強くなるんだからね! 水希ちゃん! 私は負けないよ!」
「ふっふっふ! あたいより強い奴は! あんまり居ない!」
「会場も用意してあるわ! さ、始めましょう!」
「ん~…ん? なんじゃ、今日は客人が多いのぅ、犬よ」
「そうでも無いと思うけど、後、犬じゃ無くて狼だ」
「いやいや、お主の目は節穴か! 普段も客人が多い四宮神社じゃが
流石にここまで多くは無かろう! 妖力とかも相当じゃぞ!」
「まぁ、それは分かるけど…でも、祭の時とかこんなだし」
「つまり! 祭りと言う事じゃな!」
「そうなるな、これは参加しないと…いや、祭だとわっちらは
いつも狛犬役だぞ!?」
「ぬぉ! そう言えばそうじゃった! しかし、何故狛犬なのじゃろうか。
狛犬では無く、狛狐とかないのじゃろうか」
「知らねぇよそんな狐、狛犬だろやっぱり、まぁ、狛狐は無くても
狛狼はあってもおかしくないと思うが!」
「馬鹿言え、犬も狼も同じじゃろうが」
「あぁ!? 何度行ってると思ってる馬鹿狐!
犬と狼は違う! 犬は飼い主に尻尾を振るだけだが
狼は誇り高き!」
「いつも茜殿やご主人に尻尾を振っておるだけでは無いか
どうせ、人間にも媚びへつらっておるのじゃろう?」
「なぁ! そんな訳無いし! あの人達だけが特別なの!
この誇り高き狼であるわっちが忠を尽くすのはあの方達だけなの!」
「ふん! 忠を尽くしておるのはキキじゃ間抜けめ!」
「なにぃ! お前なんかよりもわっちの方がお二人に忠を尽くしてる!」
「馬鹿言え! キキの方がご主人達の事大好きなのじゃ!」
「違う! わっちだぁ! わっちがあのお二人の事を1番好きなんだぁ!」
「キキじゃ!」
「わっちだ!」
「……関係ないところで戦争が始まってるわよ、何あの戦争。
何処までも不毛な戦いなんだけど…あれ、意味あるのあの戦い」
「そもそもあれは戦いごっこだから大丈夫だ、戦いじゃ無い
ただのじゃれ合い、いつもの事だよ、あれは」
「まぁ、遠目で見てもお互いがお互いを怪我させ無いようにしてるし
どう考えてもじゃれ合いね、通りであなたが放置するわけだ」
「怪我の心配が無い戯れに口出しはしないよ、それは野暮ってもんだ」
「まぁ~、二人の戦いは良いにしても~、私達の席はあるんだよね~」
いつも聞き慣れた間抜けな声が、上の方から聞えた。
その方向を見てみると、そこには花木が鳥居の上で兎座りで座っていた。
「花木、丁度良い時に来たな」
「花木さん! 鳥居の上に座らないでください! 圭介様に失礼ですよ!」
「あはは~、厳しいなぁ~」
「俺は構わないけどな」
「えぇ、でも…まぁ、圭介様がそう言うなら構いませんが」
「あはは~、ありがとね~」
「け、ケロ、やっぱりあの人…風格凄いケロ…似たような座り方なのに
ケロとは全く雰囲気が…強者の余裕を感じるケロ」
「しかしま、丁度良いところに来たな、お前も」
「丁度良い時に気付いてきたんだよ~
こんなに沢山の妖怪が一斉に移動してきたら流石に分かるよ~」
「ねぇ、お母さん、あの人お母さんに似てる気がする!」
「そうかしらね~? 似てないと思うわよ~? 耳と尻尾も違うしね~」
口調は似てるんだけど、でも、どっちが喋ってるかは分かるんだよな。
声が聞えず、文面だけだったとしても、あの2人には確実な違いがあるし。
「似てる似てないは良いけど~、それよりも席があるかが気になるんだよ~
私も茜を鍛えた1人だしね~」
「あるわよ、全員分、葵の分も刀子の分も、久里の分も、全部ね」
「それじゃ~、呼んでこないとね~」
「そうだな、頼めるか? 花木」
「あいあいさ~、お任せあれ~」
花木は鳥居の上でくるりと回り、ニッコリと笑った後、背中から飛び降り
近場の木に落下、かなりの速度で木と木の間を飛び回りその場から消えた。
「か、格好いいケロ! ケロもああなりたいケロ!」
「無駄に格好付けましたね…」
「多分、賢子にあんな事言われて調子に乗ったんだろ」
「…ま、花木は妖怪の中でも上位だし、憧れるのは自然なのかしら」
「普段の生活から、上位って感じは全く無いがな」
「く、あたいはいつか1人で花木を倒す!」
どうなんだろうな、花木と水希が1対1で戦った場合は…
まぁ、猪突猛進の水希じゃ、花木に翻弄されてお終いかな。
しかしまぁ、花木の伝達としての能力は相当高く
かなり短い間に全員が揃った。
「さぁ、見せて貰うよ~」
「これは…負けられませんね!」
「この場面で熱くなれるなら大丈夫だ」
「さぁ! 茜! あたいと勝負だ!」
「と言うか時音さん、何故私は最後に呼ばれたのでしょうか」
「いや、あなた達って戦いに興味なさそうだったし」
「それでも誘ってくださいよ、傷付きますよ? 私」
「あんたが傷付く姿がまるで想像出来ないわ、ま、来たなら見て行きなさい
一応、あんたら2人の席も用意してあるから」
俺達は時音が用意したというリングへ移動した。
そこは平原、なる程、心理戦では無く単純な実力対決か。
小細工無しの一騎打ち、これはこれで面白そうだ。




