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勝負は辛うじて茜たちの勝利と言う事になった。
だが、茜が言っていたとおり、花木と久里は本気を出しては居ない。
特に水希の時だ、あいつ自身が言うとおり、あの時倒していれば
茜はあの2人の信頼を回復する手段を失うことになる。
そうなると、茜はあの2人を排除するしか無い。
排除し、疲弊したところに近くで待機していた花木と久里が
同時に攻撃を仕掛け、排除することも出来ただろう。
そして当然、茜と藜達が合流した場面でも同じく
あの2人に化けていれば、あの切羽詰まっている状態だ。
流石の茜でも看破は困難、勝利することが出来た。
だがそれをせず、あの2人は最初から最後まで
4人の成長を見るように立ち回ったと言う事だ。
勝利への執念は無く、ただ4人の成長を見届ける為の姉として動いた訳だ。
「いやぁ、負けた負けた、成長したね~」
「嫌味にしか聞えないわよ?」
「成長したのは事実だよ~」
「それはそうだと思うけどね」
「しかし、恋歌はあまり成長したと思えませんね、全く。
最初から最後まで掌の上で踊らされて、情けない」
「も、申し訳ありません」
「情報が無かったのが大きいと思うがな」
どれだけ頭が良くても、情報が無いんじゃ戦術は組み立てられない。
「しかし何というか、兎と狸はいがみ合ってる気がするのですが
あなた達2人は全くいがみ合ってない所か異常に連携に秀でてますね」
「いがみ合ってるの~?」
「昔話でも良くいがみ合ってますよ」
「案外そうでも無いと思うけどね~、カチカチ山とか~?」
「あれだと、あたしが花木に追い込まれてるって感じになるのかな」
「あはは、でも久里さんの方が翻弄しそうですね」
「……いや、ちょっと…自信ない…かな」
「え!?」
「久里の方が絶対に頭が良いよ~」
「はは…花木、君はもう少し自分の実力を把握した方が良いと思うなぁ…」
「え~?」
でもどうだろう、久里と花木の心理戦…何故か花木の方が上手に思える。
普段はのほほんとしてるけど、本気を出せば豹変するからかもな。
そもそも、久里の場合は化かす術で翻弄するが
花木の場合は純粋な心理戦で相手の動きを読んだり
相手を圧倒したりするスタイルだ。
相手の心を能力無しで読め、狙いも完璧に把握。
耳も良いから化けて移動しても足音で看破されそうでもある。
声真似も上手いし、能力では無く完全に素のスペックが圧倒的だ。
兎の妖怪とは思えない程に圧倒的な能力。
「いやなんかさ、花木って異常だと思うわ」
「妖怪でも上位なのは間違い無いが、ただの兎がここまでとはね」
「恐らく、四宮神社に通い詰めているからではありませんかね。
四宮神社の修行も無き崩し的に受けているようですし」
何だかんだで付き合って貰ったり、修行させたりしてるしな。
「なんでサラと四季にはなにもしないのに
私と茜にばかり修行させるのか不思議だよね~」
「茜は巫女だからで、お前はただサボってるだけだからな。
結構キツい修行をくれてやれば大人しく帰るかと思ってな」
「…まさか花木が圭介の第2の弟子とは思わなかったわ」
「しかも茜さんよりも苛烈な修行とは、通りで」
「け、圭介様! わ、私にもその修行を! 苛烈な修行をお願いします!」
「いや、流石にお前には可哀想だし辛いだろうし」
「私なら可哀想じゃないって言うのが嫌だなぁ~」
「元々、お前への修行はさっさと帰るように仕向けた修行だからな…
それを乗り越えて来るのは恐ろしいが」
「どんなことをさせているんですか?」
「超重たい重りを背負わせて、大好きな兎跳びをさせたり
近くの森で、その重りを背負わせたまま木の枝を飛び回らせてる
重量は、最初は50で、今は200位」
「なにその修行、厳しいを通り越してほぼ不可能じゃ…」
「足が枝に付いた瞬間に跳べば落ちないんだよ~、最初は失敗ばかりだったけどね~」
「でも、心理戦の方は…」
「それは元々の能力だ」
「…流石花木さん」
「花木の身体能力にはその修行が…何でその修行は受けるのに団子屋はサボってばかり?」
「サボってないよ~、ちゃんとみてるよ~?」
見てるだけなんだろうだが、それでも顧客全員を把握してるんだろうな。
「け、圭介様、わ、私にもその修行をお願いします!」
「修行内容を聞いてもやりたいと?」
「はい! 私はもっと強くなるんです!」
「……分かった、良いだろう、根を上げるなよ」
「は、はい!」
「それならあたいも!」
「いや、あなたは私流で鍛えるから駄目よ」
「えぇ!?」
「茜に負けないように鍛えていくから、壊れないようにね」
「何か恐そうだけど! あたいは何だって来いだよ!」
「…では、私の方も巫女を鍛えましょうかね」
「いや、私はこのままでお願いします、ちょっと肉体ろうど」
「駄目ですよ、身体が壊れかねない程に鍛えます。
他の巫女に負けてはなりませんよ」
「無理ですってぇ!」
「…わ、私も茜と修行する…!」
「私は反対したいわ…そんな無茶をして…もし2人に何かあったら…
私はあんな気持ち、もう2度と味わいたくないんだから…」
「……大丈夫ですよ、圭介様が付いてます」
「…そうね、でも! 自主的な修行は無しよ! 本当に!」
「わ、分かってますよ」
「うん…もうあんな失敗は」
「…お願いね、まぁ、不安だから私も付き合うわ。
と言うか、このままだと負けそうだし、それは私の意地が許さないわ」
「うん!」
これはまた、かなり大変な修行になりそうだが…ま、成長を見届けてやろう。




