欺き合戦
うぅ…あの攻撃で水希ちゃんとはぐれちゃったよ…
このままだと花木さんと久里さんの思うつぼだよ。
あの2人の狙いは私達の同士討ち、それは明白。
久里さんと花木さんにある致命的な弱点は攻撃力の不足。
多分、防御が得意な私をどうにかする攻撃手段は無いし
水希ちゃんを止められるほどの防御力も無い。
そんな私達をどうにかするには、同士討ちが最も効果的。
久里さんの力なら、私達の同士討ちを誘発することは出来る。
だから、出来れば速く合流がしたい…そうしないと2人の想定通りになる。
うぅ…叫べば聞えるかも知れないけど…でも、自分の場所を教えることになりそう。
流石に久里さんと花木さんの2人を1人で止められる自信は無いし…
抱けど、多分きっと、走ってる地点で花木さんに私の位置はバレてると思う。
ここは賭けに出るしか無いのかも知れない。
成功しても大きな優位性を得られなかもだけど、やるしかない。
「水希ちゃん! 何処!?」
…返事は無い、やっぱり聞えなかったのかも知れない。
「ここだよ!」
「あ!」
聞えた! 良かった、近くに居たんだ!
急いで合流しよう! 確か、声が聞えた場所はこっちだ!
でも、ここは木々の中、音が反響して正確な位置が分からないかも…
でも、行くしか無い!
「あ! 水希ちゃん!」
「良かった! 合流出来たね!」
「……」
「あれ? どうしたのかな? そんな恐い顔をして」
…違う、水希ちゃんじゃ無い、表情で分かる。
後は声の大さや抑揚の付け方、声調も若干違う気がする。
声の質は似ているんだけど、何処か違う声が混ざってるように思える。
この人は水希ちゃんじゃ無い…久里さんだ。
「……こ、声真似、上手いですね…久里さん」
「…へぇ、一目見ただけで分かるんだ、これは驚いたよ、流石茜だね」
水希ちゃんに変装していた久里さんが、元の姿に戻る。
「やっぱり、茜は私達の天敵だねぇ」
背後から足音が聞え、後ろを振り向くとそこには花木さんが居た。
うぅ、ゆ、誘導された…ただでさえ孤立してたのに、更に…
「あたし達も、この勝負には絶対勝とうとは思って無いんだけど
でもほら、あなた達の姉みたいな感覚だし、出来れば勝ちたいんだよね」
「うんうん、ずっと一緒に居て、ずっと皆の成長を見ていた立場だからね。
茜があまり強くなかった6歳の頃から知ってるから、やっぱり姉って感じだよ。
だから、出来れば勝ちたい、だけど、その勝利に皆の成長が無いと意味は無い」
「今回の勝負は、その成長の見届けと、目の前で皮を破る姿を見たいんだよ」
私達の成長を願ってくれている…それは素直に嬉しい。
「だから、もう分かってると思うけど仕掛けを施したよ」
「あぁ、厄介な仕掛けを施した、君達は…いや、どっちかというと
茜、あなたはその仕掛けをどうにかして打破しないといけない」
「仕掛けというのは…」
「当然、私達が正面から戦って勝てないことは分かるよね?
だから、正面から戦わない戦い方をしただけだよ」
「…同士討ちを」
「その通りだ」
やっぱり、2人の狙いは私達4人の同士討ち。
「そして、君にはすぐに分かると思うから、ここでどんな仕掛けかを教えよう」
「…お、お願いします」
「うん、素直でよろしい、茜らしいね、でもその素直さはその内墓穴を掘るかもだよ?
私達が本当にどんな仕掛けを施したのかを教えるとは限らない。
相手を信頼し、相手の嘘の情報を元に動いたら敗北しか待ってないんだから」
「うぅ…」
「その上で聞くと良いよ、私達の言葉が本当か嘘かを考えながらね」
こんな事を言わなきゃ、私は素直にその情報を鵜呑みにしたと思う。
でも、あえてその事を伝えた…本気で勝とうとしてないって言うのは本当だ。
本気で勝とうとしてるなら、こんな事を言わず、嘘の情報を流せば良いのに。
やっぱり、私達の成長を願ってくれているのは間違いない。
「それじゃ話そう、あたし達が仕掛けた罠を」
「…はい」
「私達が仕掛けた罠は、分かりきってるけど同士討ちを誘発する物だよ。
最優先で撃破するのは水希だ、あの攻撃力は厄介だからね。
あなたは何とか水希を助けるために動くべきだと思うよ」
「次に厄介なのは恋歌、あの子は頭が良いから、上手く嵌めないと駄目だし。
水希の後は恋歌をどうにかしようと思ってる、その為の罠もおいてきたしね」
「で、その後に茜だよ、茜は頭が良いし、観察能力にも秀でている
だから、茜をどうにかする罠を至る所に仕掛けてきた。
勿論、最後は藜と同士討ちをさせるつもりだよ、姉と妹の戦いも良いからね
その後、疲弊したどちらかを私達が一斉に襲い倒すつもりだ」
「ふふ、さぁ、茜? この問題の答えが嘘か、はたまた真実か…分かるかな?」
……同士討ちは間違いないと思う、最優先で撃破を狙っているのが水希ちゃんなのも
確かに理由は分かる…でも、その後が少し…恋歌さんは確かに頭は良いけど
私達の事をあまり把握できていないし、接近戦には弱い。
同士討ちを狙っての撃破より、孤立させての撃破の方が確実だから
先にお姉ちゃんか私を同士討ちで撃破した方が良いと思う。
だから、これは違う、恋歌さんは最後に倒すつもりだと思う。
「…分かりました」
「うんうん、よく考えてね」
「そして最後に特別な手がかりをおいていってあげるよ」
「え?」
「さて、私達が一番厄介に思ってるのは誰かな?」
「これは大きすぎる気がするね、はは、ちゃんと考えてね? 茜」
そう言い残して、2人は姿を消した…
あの2人が一番厄介に思ってるのは…水希ちゃんじゃ?
さっきの話だと、そんな風に言ってた。
水希ちゃんの能力は本当に高いし、2人がかりでも撃破は難しいはず。
……もしかして、戦闘力じゃ無い?
じゃあ…一番、厄介に思ってるのって。
(やっぱり、茜は私達の天敵だねぇ)
……そうだ! 花木さんが私の背後に出てきた時に言ってた言葉…
あの2人が一番厄介に思ってるのは…私だ!
そうだよ、姿を変化させていても、私なら声の抑揚や声の声調で分かる。
それに、私は皆の癖を把握してる、変化しても私を欺くのは困難だと思う。
流石に物に変化した場合は見抜けないかもだけど、人に変化した場合
私を欺くことは恐らく出来ない…変化を主体に戦う2人にとって私は天敵!
なら、最優先に撃破したいと思うのはきっと私だと思う。
多分、その後に水希ちゃん、次にお姉ちゃん、最後に恋歌さん!
早くこの事を伝えないと…でも待って、私を…撃破する方法って…
「……もしかして」
私を…完全に孤立させるために動いてるんじゃ…
だから、水希ちゃんと私を分断させた。
その後に、水希ちゃんに私の姿で接触して水希ちゃんに不意打ちを仕掛ける。
そうすれば、水希ちゃんは私を信頼しなくなって、話しも聞いてくれないかも。
で…その後に水希ちゃんと私に化けて…いやでも、流石にそれは出来ないかも。
だって、久里さんは1人しか居ない、花木さんの姿を変えられたとしても
花木さんは久里さんみたいに声真似は出来ないだろうから、会話が出来ない。
そこで不審に思った恋歌さんやお姉ちゃんが看破するかも。
だから、この場面で合流したら不味いのは水希ちゃんだけ。
今は恋歌さんとお姉ちゃんに合流しよう!




