兎と狸の戦術
さて、花木と久里が姿を消し、茜たちも捜索の開始を始めた。
茜は花木達の狙いを大体把握しているだろう。
「皆さん、私の話を聞いてください、恐らく…いや、間違いなく2人のね」
「危ない!」
「うぇ!?」
茜が花木達の狙いを告げようとしたとき、空から複数の剣が降ってくる。
水希は急いで茜をその場から動かし、その剣を回避させた。
あぁ、このタイミングでの攻撃、共有行動を阻害しているのだろう。
それは勿論、花木の合図で、あの2人は既にどんな合図で行動するかを決めている。
会話をしている素振りは無かったが、姿を消してすぐに伝えたのかもな。
この短期間では不可能だろうから…きっと、言葉以外の方法だろうな。
「うぅ、きっと声を聞いてるんだ! お話しをしたら作戦がバレる!」
「待って! それ、うわ!」
茜が静止をしようとすると、再び剣が落下してくる。
茜は急いで身を引き、その剣を回避した。
だが…既に花木達の掌の上って事は間違いないだろう、完璧な作戦だ。
「やっぱり声が聞えてるんだ…会話は駄目!」
「だからそれは」
「それに、向こうはこっちの位置が分かってるようだし…
どうするべきなのかな…あ! 危ない!」
作戦会議をしている間に、集中的な攻撃が茜たちを襲った。
藜は恋歌を急いで逃がし、茜と水希は素早く動いて避けた。
「ま、纏まっては不味いかも知れませんね…二手に分かれましょう」
「でも、それでは」
「また来たよ!」
「や、やはり固まってたら危ないですし…二手に別れて行動すれば
攻撃をしにくくなるはずです、1部隊に集中攻撃をされたとしても
遠くからなら相手の位置が分かるかも知れません、危険ですが」
「それだと向こうの、ひゃう!」
茜の足下から、刃物が飛び出してくる。
茜は反射的に後方に飛び退き、その刃を回避した。
「狙いは茜なのかも!」
「では、私達が囮になりますので、茜さん達は逃げてください」
「え?」
「…うん」
会話が聞かれていると言う事を想定し、嘘の話をしたって所かな。
本来は茜たちを囮として、恋歌達が花木達を仕留めるという作戦。
だが、その行動その物も、既に花木達の思惑通りだろう。
「やっぱりあの2人、結構やるわね、お互いをよく分かってるわ」
「あぁ、お互いの長所を生かした正確な妨害、見事だな」
「別行動は危険だと、私は思うのですが」
「流石のあなたも別行動は危険だと見抜いたのね」
「甘く見ないでください」
だが、恋歌達はその思惑には気付けていないのだろう。
既に掌の上だとは思っていないだろうからな。
そう、既に掌の上に居ると分かってるのは、茜だけだ。
だが、茜が何かを口に出そうとするタイミングで攻撃を仕掛けている。
花木が音を拾って、久里が妨害を仕掛けているのだろう。
「っと」
茜たちが結局別れることになって、少しした時に花木が動いた。
狙いは茜だという事にしているようだ。
「来たな妖怪兎! あたい達の作戦の前に跪けー!」
「そこ!」
「あ」
「やった!」
恋歌が放った矢は、確実に飛びだした花木を貫く筈だ。
恋歌達は自分達の作戦が成功したと誤認したようだった。
だがまぁ、そんな易々と突破できるほど、あの2人は甘くない。
「あれ!?」
花木に刺さる筈だった矢は、花木をすり抜け花木の向こう側の樹木に当る。
それと同時に、花木の姿が揺らめき、少し大きめの葉がそこにはあった。
「残念だけど、私達はそこまで甘くないよ」
「な、いだ!」
「恋歌!」
花木の影が消えてすぐ、恋歌達が動揺している間に本物の花木が恋歌を蹴った。
花木は恋歌を蹴ったと同時に後方に飛び退き、再び姿を消す。
「なんで!? どうして!?」
「く、久里さんの能力…まさかここまで距離が広いなんて…」
「じゃあ、あの花木は偽物!?」
「うん…やっぱり一緒に行動した方が」
「うわ!」
だが、既に別れてしまってる以上、早々合流はさせてくれないだろう。
茜が合流を促すとほぼ同時に、大量の剣が降り注ぎ
水希、茜チームと恋歌、藜チームを裂いた。
「合流させてくれるつもりは無いみたい…」
「うぅ…な、何とか合流しないと」
4人は合流する方法を探し、その場から別れた。
しかし、あの剣はどう考えても偽物なんだよな。
「しかし、あれはかなりの精度ね」
「あぁ、間違いない」
それなのに茜たちが騙されるのは、その騙しの演技力だろう。
剣の光沢も本物と大差は無く、剣が地面に落下すると
低く鈍い音も聞え、まるで本物の剣が地面に刺さったかの様に土が周囲に軽く飛び散る。
しかも、しばらくはそのまま戻るし、恐らく触れる事まで出来る。
そこまでの高精度の剣をこれほどにまで作り出し、地面に落下させ
更に少しの間持続させるのは相当の力が必要だろうに。
「ああなると、かなりの妖力を使いそうだけど」
「あのたぬきさんはかなりの妖力を持っていると言うことでしょうかね」
「そうなるわね、職人技よ」
そして、更に合流まで阻まれた…ここからが本番になるだろう。
果たしてあいつらはお互いを信頼する事が出来るか。
そこが最大の見所になるだろう。




