懐かしい戯れ
茜たちが目覚めて1時間後に藜が目を覚ました。
後は恋歌だけなのだが、もうすでに藜が目覚めて
2時間ほどが経過しているという状況だ。
これはマジで死んだんじゃ無いかと疑いたくなる程に長い。
「ちょっと…恋歌が全く目覚めないのだけど…」
「うーん…まぁ、大体検討は付きますけどね」
「ちょっとくすぐってみようよ」
「え!? 何言ってるの!?」
「いやだって…ここまで無防備だとやりたくなる!」
「全く分からないの、その感覚…」
「とにかくやるの!」
そう言い、水希は恋歌の脇腹を擽り始めた。
「……」
必死に堪えているような感じがするが、笑い声を出していない。
だがまぁ、もうすでに変な動きをしているわけだから
大体、どうなってるのかは想像が付いた。
「こしょこしょ!」
「く、くふ…」
「……大した度胸ね」
「その通りですね、散々待たせたあげく、まだ…これ以上粘るというなら
少し…いえ、かなりキツーいお仕置きをした方が」
「ごめんなさいです! あひ、あひゃひゃ!」
「やっぱりたぬき寝入りだった! 良くも騙したな-!
罰として! もっとこしょこしょしてやるぅ!」
「ま、待ってくださ、あ、あは、あはははは!」
あー、何だか懐かしいな…このくすぐり攻撃。
「や、やめてくだふぁ、あひ! あ、あひひゃふぅ!」
「足の裏だ-!」
「やめ、あ、あ、あは、あははは!」
「今度は脇腹!」
「待ってくだ、あはははは!」
「わぁ、凄く懐かしい気がする」
「私も~」
「10年くらい前だな」
「何があったの?」
「この神社に俺、茜、花木しか居なかった頃にな
茜の修行の為に瞑想させてたんだよ、集中力が無かったから」
「あはは、6歳ですし」
「で~、その時に~、私が茜をくすぐったんだよ~」
「あの頃は花木もそんなのんびりとした口調じゃ無かったのにな」
「まぁ~、人型に変化できるようになったばかりだったしね~」
「今からだと想像できないですよね」
「真剣な時は~、こんなにのんびりじゃ無いけどね~」
「のんびり話してる間は、真剣じゃ無いと言う事ね」
「そうなるね~」
殆ど真剣じゃ無いと言う事は間違いないだろうな、花木だし。
「あひ! あ、あひぅ! ま、待ってくらふぁい…!」
「水希、そこら辺にしなさい、辛そうだし」
「そこよりも、こう、巫女装束が少しずつはだけているところに問題が…
ここには圭介さんも居ますし、このままだと不味いでしょうに」
「いや、流石に16歳相手にどうこうはならねぇよ」
「紳士ですねぇ、ですが、この状況を参拝客に見られる可能性もあります。
確かにここは神社の奥ですので安心ですが、声は聞えるかも知れませんし」
「それもそうだな、と言う事で止めとけ水希」
「はーい」
「はぁ、はぁ…し、死ぬかと思いました…」
「痙攣してますね、ま、罰には丁度良いでしょう。
もうすでに罰を受けたようなので、これ以上の罰は無しにしましょう」
「あ、ありがとうございます…」
ま、散々食らったし、丁度良いと言えるかな。
「で、全員目覚めた訳だし、試練再会する?」
「いや…流石にちょっと厳しいです…頭が痛い…」
「あ、あたいは平気だよ! 余裕で余裕で超よ、余裕!」
かなり強がっているが、フラフラとしているし相当キツいのが分かる。
それでもまだまだ戦おうとしているのだし、かなりの戦闘狂だよな。
「私は無理です」
「わ、私も…」
「仕方ないわね、大打撃を受けたわけだし」
「その大打撃を与えたのはあなたでしょう?」
「水希がいけないのよ、私に喧嘩を売るから。
ったく、巫女のくせに、神に刃向かおうとは笑止千万。
やはり身の程をわきまえさせないと」
「十分わきまえました…い、今のあたいでは…時音様には勝てない…!」
「その言い方だとまだ諦めてないようね」
「あたいは諦めない! あたいは自分の限界を決めることはしない!
あたいは絶対に時音様を超えてみせる!」
「そのやる気は認めるは、でも、何をしても無駄なの。
世の中にはどれだけ努力をしようとも越えられない壁は存在する。
あなたはその壁に遭遇している、本来遭遇する壁を全て先送りにして
最も高い3つの壁に、あなたは直面しているの」
「飛び越えなくても砕けば!」
「砕けると思うの? 鉄よりも鋼よりも何よりも硬い壁よ。
飛び越える方が可能性はあるし、飛び越える方が楽でしょう?」
「あたいの辞書に不可能という文字は無い!」
「あなたの辞書は殆どの言葉が無いでしょう? 頭も悪いようですし」
「がふ! え、叡智の神に言われた…」
「つまり、正しいと言う事です、あなたの辞書など薄っぺらい物ですよ。
なので、不可能という言葉が欠落していてもあり得ますよね」
「でも、あたいは色々と勉強をしているんだから!」
「では、えっと…はい、これを読んでください」
時雨が紙に書いた漢字は饂飩だった。
非常に難しい漢字だが、俺にはこの言葉が分かる。
「!? 何これ!?」
「え!? は、初めて見ました!」
「さ、読んでください、読むだけです、簡単でしょう?」
「え? え?」
しかし、こんな漢字なんだな、ひらがなが当たり前だと思ってた。
「……わ、分からない…」
「え? 何これ!?」
「……う、うーん…!」
「誰か分かりますか?」
「うん、美味しいよね~」
「美味しいの!? 食べ物なの!?」
「うん、美味しい食べ方もあるよ~
美味しいよね~、私達兎がいつもしてる事が名前に使われてる
調理方法もあるよ~」
「何それ? お餅作り?」
「いや、お団子作りだと思いますけど…」
「どれも違うなぁ~」
「……圭介、分かるこれ」
「あぁ、分かるよ」
「く!」
「脳筋であるあなたには分からないかも知れませんねー」
「こいつ!」
「では、残り1分、考えなさい」
「う…くぅ…」
「卵を生ままで入れて、かき混ぜて食べるの美味しいよ~
まぁ~、これがさっきまで言ってた調理方法だけどね~」
「うぅ…卵を生のままで入れてかき混ぜる料理、結構あるよ…」
「人里にもこれ専門のお店があるね~」
「つまり、み、身近な食べ物だと言う事ですね…」
「かなり身近だね~」
そりゃ身近だよな、美味しいし作りやすいし。
「確か小麦粉を使ってたっけ~」
「小麦粉!? つまり、麺類ですね!」
「そう言えば恋歌、あなたは分かるわよね?」
「……もも、も、勿論ですとも!
わ、私は礼奏神社の巫女! こ、これ位!」
「え!? じゃあ、答えを!」
「へ!? あ、いや、こう言うのはやはり自分で考えるべきです!」
「うぅ! ケチー!」
「ッホ」
ありゃ分かってないな、間違いない。
「残り10秒」
「うぅ! 麺類なら! そーめん!」
「それは素麺です、素の麺と書いて素麺です」
「なぁ!」
「じゃあ、う、うど…ん?」
「はい、その通りです!」
「うどん!? これでうどん!?」
驚きだよな、これは…だって、これでうどんだからな。
ひらがなで当たり前だと思ってたのに、まさかの漢字ありだからな。
「くぅ!」
「では、次の問題を」
「待って! もう分かったよ! あたいの知識は大して無い!」
「でしょう? ですがまだまだ続けます、恋歌の勉強も兼ねて」
「え? い、いやぁああ! お勉強はいやだぁ!」
「もう遅いですし、勉強が無難ですよ」
「やだぁ!」
…勉強が苦手な水希にはキツいだろうな、これは。




