何かが足りない1日
うーん、今日も特に何も無く1日が過ぎた…
四宮神社で巫女をしている時と同じで当たり前に過ぎた。
…だけど…何だか、何かが足りないような気がする。
何か、物足りない。
いつも以上に色々な事をしているはずなのに。
いつも以上に皆の動向を考えてるはずなのに。
いつも以上に仕事をしているはずなのに。
何かが足りない、物足りない。
「茜、どうしたの? 考え事?」
「え? あ、うん…その……何か物足りないような気がして」
「あ、茜も? 実はあたいも何だよね!」
「そうなの?」
水希ちゃんがそんな風に言うのは意外だと感じた。
だって、いつもいつも楽しそうにしてて
全部に満足しているように思えていたから。
いつも楽しそうな水希ちゃんが物足りないって意外な答えだった。
「でも、何が物足りないか分からないんだよね。
茜とはいつも以上に色々と遊んでるし。
いつも以上に派手に行動もしてる。
あ、もしかして戦いが無いからかな?」
「いや、それは無いと思うよ…」
「そっか~、じゃあ、何だろう、わかんない」
私も何が物足りないのか、自分でもよく分かっていない。
私は皆から自分の事を全く考えてないとよく言われるけど
きっと、何が物足りないかが分からないのも、その性格が原因なんだろうなぁ…
でも、水希ちゃんも分からないのは意外だと感じた。
「何が物足りないか…それは結構簡単だと思う」
私達2人がそんな話をしていると、お姉ちゃんがやって来た。
きっと、私達の会話が聞えていたんだろうなぁ。
そんなに大きな声で話していたつもりは無いけど
やっぱり予想以上に声が出てしまってたのかも知れない。
「ん? 分かるの?」
「うん…あなた達が物足りないと感じているのは…当たり前が無いからだと思う」
「当たり前が無いから?」
「そう、こっちで修行を始めて2日目、その間、私達は当たり前を一切感じていない。
いつもとは違う1日を過ごしてた、いつも会う人とも会えてない。
だから、何処か寂しいような、物足りない感情になってるんだと思う」
「でも、あたいは皆とこうやって過せて楽しいよ?」
「それは分かる、でも、やっぱりいつも通りが1番良いと思う。
私もそれを1度失ったから分かる」
「……お姉ちゃん」
「でも、あなた達は大丈夫、その当たり前が無くなったわけじゃ無い。
当たり前が必ず帰ってくる保証がある、だから、安心して。
今は寂しいと感じるかも知れないけど大丈夫だから」
お姉ちゃんの話はお師匠から聞いた。
修行をしているときに、運悪く崖から落ちて死んだって。
お姉ちゃんの胸元に未だに見えてる少し大きな穴が
その話は真実だと言う事を物語っている。
そして、その過去に今でもお姉ちゃんが苦しんでいると言う事も分かる。
穴が開いていない服を買って、その傷を隠そうとしてたから。
だけど、今の服はその傷が見える服装だった。
それはきっと、私達だけしか会う相手が居ないから。
私達は自分を受入れてくれていると、全てを受入れてくれると思ってるから。
隠す必要も無い、恥じる必要も無い、そう思ってくれているから。
私はそうだと解釈してる。
「そうだね、あたい達はこの修行が終わったらまたいつも通りだもんね。
でも、その間に何かあったらどうするの?」
「きっと何も無いと思うよ」
「なんでそう言いきれるの? あ、やっぱりあたい達が超強いから?」
「いや、そうじゃ無いけど…何だか安心感みたいなのが私にはあるの。
だから、大丈夫」
「こ、根拠が無いと、ぜぇ…は、ハッキリ、はぁ…い、言ってはどうですか?」
「あ、恋歌さん」
汗を滝の様にかいて、息づかいもかなり荒れている恋歌さんが戻ってきた。
さっきまでずっと薪割りをしていたから、その疲れかな。
一応、必要最低限の薪は用意しているけど
やっぱり、恋歌さんには身体を鍛えて貰わないといけないから
薪割りを毎日担当して貰ってる。
筋肉痛にならなきゃ良いけどと思うけど。
きっと毎日筋肉痛なんだろうなぁ、とも思う。
だけどやっぱり身体は鍛えないと大変だから仕方ないよね。
「もう、薪を割るの遅いよ」
「正直…はぁ、はぁ、か、完全にこもっていた私に…はぁ
こ、この薪割りという、はぁ、苦行は、き、厳しすぎで…す」
「巫女なら戦えないと駄目でしょ? 巫女なんだから」
「巫女が戦わねばならぬと言う、はぁ、決まりは無いでしょう?」
「妖怪退治が出来ないよ?」
「うぅ…そ、それは、た、確かに…しかし、知識で相手を翻弄できれば」
「翻弄するにしても身体能力は要るに決ってるじゃん、馬鹿なの?」
「あなたにだけは言われたくありませんね、脳筋」
「ありがとう!」
「褒めてな…ぃ…」
「あ!」
倒れそうになった恋歌さんをギリギリで止めることが出来た。
あ、危なかった…怪我をされたら大変だよ。
「す、すみません…」
「いえ、気にしないでください」
「さて…助けて貰ったところ悪いのですが、私にこの薪割りを止めさせてください。
あなたが指示をしているのですから、あなたがこれはもう良いと言えば私は解放され」
「それは駄目です」
「なんでですか!?」
「いや、やっぱり力と体力を付けて欲しいですし、それが無いと大変です。
弓矢を使うにしても、位置を変えるために走ったり、弦を引くのにも力がいります。
素早く引くときには大きな力も入りますし、体力と力は必須です。
それを両方効率的に育てられるのが薪割りです。
私も最初、圭介様の修行で薪割りをしていました」
「く、効率的という言葉を使われると…」
「なので、このままお願いしますね。
修行にもなって、資材を有効活用できる、素晴らしいと思います」
「うぅ…もはや明日も明後日も、毎日筋肉痛ですか…」
「神社から1歩も出ないよりは何千倍も健康的だと思う」
「うぅ…わ、分かりましたよ!」
殆ど動けない状態でも強気なのは変らないなぁ、凄いと思う。
少し憧れるよ、こう言う強気に何かを言えるのって。
ふふ、でも何だかこんな話をしていると、少し気が楽になった気がするよ。




