兎たちの過去
や、やっと…お仕事が終わったよ~
「はぁ~…」
初めてかも知れない、こんな疲労は…うぅ~
「頭領様! 本日はありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
「いやいや~、これは本当なら私がするべき事だからお礼は良いよ~
むしろ、私の方が皆にはお礼を言わないと駄目なんだよね~
今までありがとう~、色々とお世話を掛けちゃったね~」
「頭領様、その物いいは何だか今生の別れみたいでいやですよ…
私達は一生! 頭領様の下で働きたいです!」
「う~ん、その言葉は嬉しいんだけど~、なんで私にそこまで~?
こんなにぐうたらの頭領、とてもじゃないけど付いてきたくないでしょ~?」
「そんな事ありません! 頭領様は私達の希望です!
私達に夢を与えてくれて、私達に仕事をくれて
私達に仲間をくれました! 一緒に何かをする仲間を!」
「でも~、私はいつもグータラしてるよ~?
皆が一生懸命お仕事をしている間にのんびりとさ~」
「そんな私に付いてくる価値は無いと思うけど~」
「いえ! 頭領様は私達の恩人! 憧れなんです! だよね!」
「うん!」
配下の兎たちが全員にこにこと笑って頷いてくれた…
おかしいな~、私は何もしてないのに、なんで…
「私達では想像も出来なかった大きな夢を私達に与えてくれて
人間の皆さんの嬉しそうな笑顔を見れるのも頭領様のお陰ですし!
必死に頑張れば頑張るほど、自分達がちゃんとしてるって言う自覚も得られる!
今まで、必死に頑張っても頑張っても…ただ生きる事しか出来なかった私達が
必死に頑張る意味を知れて、今度も頑張ろうって、自分から思えるようになりました。
今までは生きるために仕方なく頑張ってたのが、頭領様のお陰で自分から頑張ろうって。
それで成長の実感も得られて……自分達が必死に頑張る意味も知れて……
だから、頭領様は私達の恩人なんです! 大事な恩人…
きっと、命の恩人よりも尊くて大事な恩人です!
一生を掛けても返しきれないような恩…いや、一生を掛けて行けば行くほど
私達が頭領様に感じる恩は、ずっと大きくなっていきます!
頭領様は…そんな存在です」
「うん! 羽衣の言うとおり!」
「羽衣にしては良いことを言うわね」
「してはって言うのは余計だよ!」
「何言ってるんだよ~、羽衣はいつもドジばかりじゃ無いか」
「そんな事無いもんね! 凄く頑張ってるもん! 皆よりも!」
「お!? その言葉は聞き捨てならないなぁ! 誰よりも頑張ってるだって?」
「いだだだだ!」
……大事な存在、命の恩人よりも…尊くて大事な恩人…
あぁ、まるで……まるで圭介みたいだよ…
私にとっても、圭介と茜は命の恩人よりも尊い存在…
あの2人のためなら、命だって捨てても良いと思えるくらいの…大事な存在。
そんな風になれるはずは無いと思ってたけど……あはは、分からない物だね。
「……ありがとう」
……暗闇、昔の私に合ったのは暗闇だけだった気がするよ。
いつも命の危機に瀕して、いつもビクビクと生きてた。
いつの日か真っ暗闇に呑まれて、私は強くなった。
身体も大きくなって、力も強くなった。
だけど…そんな風になっていけば行くほどに感じていったのは
虚無感や嫉妬だったっけ…楽しそうにしてる人達が羨ましかった
憎たらしかった、命の危機に瀕していて兎だったときの私では
感じる事も無かったであろう感情…そんな感情が目覚めたのを覚えてる。
畑を漁ってたのも、きっと嫉妬から来る復讐が近かったんだはずだよ。
だって、あの時の私は既に妖怪兎だったんだから…食べ物は何処でも手に入るし
ただの肉食獣相手なら、容易に圧倒できるほどだった。
妖怪兎になってから実力を多少は磨いたからね。
それなのに人の畑を襲ったのは、今思えば復讐心だったと思う。
(兎鍋にして食うか)
最初の印象は最悪だったのを覚えてる…だって、兎鍋だもん。
最初は命の危機を感じたよ~、今思い出すとクスッとしちゃうけど。
だって、殺気とか感じてなかったはずなのにね~
「…何だか昔を思い出すよ、そう言われると」
「昔…ですか」
「そうだよ、皆も同じだろうけどね~」
「……」
この子達もきっと私と同じ感情を抱いていたと思う。
皆、同じ境遇だったんだから、家族が死ぬのは当たり前だった。
仲間が死ぬのも当然だった、大事なのは自分が生きる事だったんだから。
仲間と群れるのもただただ仲間を囮にしやすいからでしかなかった。
だから、仲間が襲われても誰も助けない、ごく稀に勇敢なのが居たけど
そう言う奴は大概返り討ちに遭って食われるのが当然の流れだった。
だから、私達はそう言う奴の事を…勇敢では無く馬鹿と称していた。
その勇敢だった奴に助けられる子は稀だったけど、助けられた場合でも
その助けられた子は結局死んだ…深い傷を負った地点で命は終わっているんだから。
勇敢だった奴は…本当にただ無駄に死んだだけでしか無い。
……たまに助かった子が生き残る事もあるけど、その子は勇敢だった奴と同じ様に
仲間を助けて結局死んだ…当たり前なんだよ、私達からして見れば命が潰えるのは。
目の前で何度だって見た、何度でも見た、だから、仲間は本当は不要だったんだ。
「……」
この子達だって、きっと最初に妖怪になったのが私じゃ無ければ
私には付いてきてはいなかったと思う、生き残る為に私に恩を売って
そして、守って貰おうって…そう、私達からして見ればそれが当たり前。
信頼関係はお互いに利がある関係でしか無かったんだから。
「……だから」
だから、最初に出会ったのがあの2人じゃ無かったら、私はきっと
こんな風にはなっていないはず…きっと今頃、茜か圭介に退治されてる。
暴れるだけ暴れてたと思う、もしかしたらこの姿にもなってなかったかも知れない。
だって、この姿になった理由は…2人に憧れたから。
妬みでは無く、私は憧れでこの姿を手に入れた…あはは、圭介の御利益だったのかもね。
と言っても、最初は2人を見返すために人型に憧れただけだったけどね。
人の姿に変化すれば驚くかもって…それが、今みたいになるとは思わなかったけど。
「頭領様、昔の思い出、確かに私達にもあります、その気持ち、凄く分かります。
人が憎かった、平然と何の危機にも瀕すること無く生きていける人間が。
でも…頭領様について行ってたら、そんな気持ちは無くなって…
きっと皆、最初はただ頭領様に守って欲しかっただけだったんです。
力が強い妖怪に変化したあなたに…だけど、今はそんな理由ではついて行ってません。
今はただ頭領様と一緒に居たいから、それだけの理由ですよ。
本当は恩とか関係なく…こんな毎日を過ごしたいからだと思います」
「……あはは、嬉しいよ~」
…きっと私もそうだ、四宮神社に毎日通ってるのはこの毎日を過ごしたいから。
それだけの理由…いや、十分過ぎる理由だね。
当たり前が当たり前じゃ無い、それはきっと誰よりも私がよく知ってる事。
私達がよく知ってること、当たり前の毎日を得る事が今まで出来なかった私達は
当たり前の尊さを、当たり前を常に持ってた人間達よりも知っている。
「だから! 私達の前から…居なくならないでください、頭領様」
「ふふふ、そんな事を私がすると思う~?
私は全てを受入れる神社で力を得た妖怪兎だよ~?
皆が位無くならない限り、私は居なくならないよ~」
「それならずっとこのままですね、私達は誰1人として頭領様の元からは離れません」
「それはそれで恐いけど~、どうせ付いてくるなら~、一生だよね~」
「はい!」
配下の兎たちが全員で同時に返事をした。
あはは、打ち合わせでもしたのかな~? でも、気分の良い返事だね~
「それじゃ、今日は帰ろー!」
「おー!」
「さて、私は四宮神社、あ、うぎゃぁああああ!」
「と、頭領様!? 頭領様ぁ!」
あぁ…長く棒立ちしすぎたよ…でも…今は良い夢を見られそうだよ……




