長期修行
「…何で私がこの神社でしばらく過ごす羽目に…」
「恋歌さん、薪割り出来ました?」
「ま、まだです…」
「早くしないと日が暮れちゃいますよ」
あの後、時音の修行だが、3人に一緒に過ごして貰う事になった。
俺と時音は大事が怒らないように、山明神社で動物に化けて見守っている。
この事は茜たちには伝えては居ない。
「茜-、丸太もってきたよ!」
「み、水希ちゃん…そんなにいらないよ」
「え? 木が欲しいって」
「言ったけど、その太さの丸太は想定外だなぁ…」
修行内容は山明神社で1週間一緒に過ごすというものだ。
食料調達も燃料も自分達で行なう。
非常に時間が掛かる修行ではあるが、まぁ、効果はあるだろう。
「あまり恋歌は積極的じゃ無いわね」
「そうだな」
俺達は山明神社の屋根の上で猫に化けて見守ってる。
茜たちは俺達の存在には気付いていない、バレないようにしてるしな。
「しかし、またかなり時間が掛かる修行を提案したな」
「これがかなり効果的なのはあなたも分かっているでしょう?」
「あぁ、そうだな」
この中で最もリーダーの素質がある茜のリーダーとしての能力を上げる。
お互いに交流することで、お互いがお互いの駄目な所全てを把握。
長所も短所も理解させる。
そして、藜と恋歌、新参2人もより過ごしやすくもなるだろう。
「今回は自分達4人だけで全部やらないと行け無い。
だから、お互いが嫌い合う訳には行かないでしょうしね。
それに、当たり前の生活が最も修行になるとも言うしね」
「楽すぎる当たり前の生活は堕落しか生まないがな」
「少なくとも今の生活は楽では無いでしょうけどね」
「あぁ、そうだな」
「しかし、時雨の奴は見守ることをしないのね」
「仕方ないだろ? 四宮神社と違って留守を任せる事が出来る相手は居ないしな」
四宮神社には花木やキキ達が居るから留守は安全なんだよな。
生半可な妖怪じゃ、あいつらをどうこうできないし。
並の人間では勝負にもならない。
相当な実力があったとしても、殆どは刀子には勝てないだろう。
葵も居るし、一応は水菜も居る、四宮神社は鉄壁だろう。
逆に礼奏神社は巫女である恋歌がここにいるわけだから
留守を任せられる相手は居ない、だから仕方なく自分が留守を守るという感じだ。
「しかし、なんでわざわざ猫に変化して直接見るんだ?」
「それはあなたもでしょう? その気になればあの能力で見れるのに」
「そりゃおめぇ、茜の成長を目の前で見たいからだな」
「良いわね…私の場合は水希がどうなるか心配でならないからよ。
あの子危なっかしいし、本当恐いんだから。
茜は良いわよね、もうすでにしっかりしてるんだから」
「あいつは6歳の時からしっかりしてるからな、ドジだったけど」
「今じゃ、ドジとか殆ど踏まないわよね」
「意外とそうでも無いんだぜ? たまに足下見て無くて躓いてるからな」
「足下を見てない理由は?」
「周りを見てたからだよ、あいつは周囲に気を配りすぎるからな。
そのせいで自分に目が行かないことが多い。
前回の戦いだってそうだっただろう?」
「作戦は確かに素晴らしかったわ、ま、花木の洞察力が洒落にならなかった感じね
その後のとっさの判断も流石よね、で、すぐに恋歌が動いたところを考えても
茜はもしもの場合を恋歌に告げていたという感じでしょうね。
でも、結局自分を過小評価しすぎて敗北を期したという感じだったわね」
「そうだ、あいつは自分をあまり見てない、だから周りが自分にしている評価を
正しく判断できてないんだよ、そこが今の茜にとって1番大きな弱点だろう」
周りに気を配りすぎた結果、茜は自分を見ていなかった。
その結果、茜は自分の存在の大きさを忘れて敗北をした。
あの場面で茜が何とか生き残っていれば、あの勝負は勝てていただろう。
大きな障害となっていた楓を撃破した事で、恋歌が戦えるようになった。
あの場面は実質3対4で戦ってたと言っても過言では無かったからな。
ようやくそのハンデをひっくり返せたというのに
精神的主柱であり指揮官兼軍師役だった茜が抜けたのはあまりにも大きかった。
まぁ、茜に色々と集中していたというのも失敗だった部分でもあるがな。
「と言っても、その点は今回の修行じゃ補えそうに無いけどね」
「そうだな、だがまぁ、お互いを知ることが出来るのは大きいだろう。
周りが茜の弱点にしっかりと気が付けたら、茜も変るかも知れないが」
「確かにね」
まぁ、すぐには変らないだろうが、少しずつ変っていくだろう。
その為に俺達があいつらの修行をしているんだから。
「ふ、ふぅ…や、やっと薪を割れた…んんー!」
「恋歌さん、次は薪運んで下さい」
「え!? まだ何かするんですか?」
「はい、薪を割っても転がってるだけじゃ邪魔なだけですよ…」
「それはそうですけど…そう言う力仕事は水希さんに」
「出来る事はやらないと鍛えられませんよ、生活が修行なんですから」
「うぅ…」
「茜-、丸太割ってきたよ!」
「は、早いね…」
「これをもっと細かくすれば良いんだっけ?
でも、私そう言うの得意じゃないけど」
「それは私がやる」
「お姉ちゃん、えっと…それなら、お願いします」
「ん、茜はそのまま料理を作ってて」
「うん♪」
最初は壊滅的だった料理の腕も、流石に10年も経てば克服された。
必死に料理の腕を成長させようと、周りの技術を吸収していたから当然だがな。
「いやぁ、茜、料理上手くなって良かったわね」
「あぁ、もう俺より料理が得意だな」
「そりゃ無いでしょ、あなたの1番の信者は茜よ。
あの子は向上心の塊、当然、あなたは常にあの子の一歩先に居るわ」
「それは…少し嬉しくないな、茜は必死に努力してるのに
何の努力もしちゃいない俺の方が上ってのは」
「あなたはあの子の親みたいなものでしょう?
親は常に子の憧れで無くっちゃね、特に男親はね。
子供の行く道を背中で語らないと行けないし。
あの子の向上心と憧れが消えないように、あなたは常にあの子の先に居るべきよ。
でも、努力もしてないのにって言うのが気にくわないなら努力しなさいな」
「…は、それもそうだな、あまり力は行使出来ないが、努力くらいは出来るだろう」
「正直、あなたはもうとっくに努力をしまくってると思うけどね」
「そうか?」
「何も知らなかったのに神になって、今じゃ完全な神、十分努力してるわ」
「なに、茜の努力に比べりゃ、ちっぽけなものさ」
でも、そんな茜が信仰してくれてるんだ
茜を幻滅させないためにも、茜以上に努力するか。




