迷いを振り切り
「……そうですね、その通りです」
チャイムに散々言われた茜の表情が変った。
下を俯き、少し何かを考えた後、手に持っている槍を握りしめた。
「考えてみれば当然です、当たり前です、当たり前の事ですよね
私が戦わないと、他の誰かが傷付く…当然のことです。
私はきっと、相手を心配しているわけじゃなかったんですよ。
私は…ただ自分が相手を傷付けてしまったって言う罪悪感が嫌だっただけ。
私は私の為に相手を言い訳にしていた…ありがとうございます、覚悟が出来ました。
もう、あの時みたいな思いはしたくない、その為に強くなったんですから!」
俯いていた茜が目から涙を流しながらも良い笑顔を浮かべ前を向いた。
あの時の思い、それは睦月が消えたときの話だろう。
あの後、あいつは泣きながら自分が弱いからと自分を責め
必死に技術を磨いた、その結果が今の茜だ。
だが、そんな茜がずっと克服出来なかったのはあの甘さ。
もうこれ以上、誰かに傷付いて欲しくない。
その願いは今まで相手にまで向いていたのだろう。
だから、茜は攻撃が出来なかった、だが、今回のチャイムの言葉で
茜の決心が付いたようだった、怪我をしている水希を見て、よりハッキリと決めた。
「私は四宮の巫女、四宮神社を守護する巫女。
圭介様の前で、これ以上の痴態は見せられません。
花木さん、チャイムさん、イーリアさん、楓さん。
油断しないでくださいね、私はもう躊躇わない!」
「へ、良い表情だな!」
「これは厄介だにゃぁ…僕としたことが失敗したかも知れにゃいにゃ」
「その割には嬉しそうだね~、猫ちゃん~」
「本気を出した四宮の巫女…楽しみですね」
「とにかく、僕が最初にゃ!」
チャイムが素早く立ち回り、一気に茜へ接近した。
茜はチャイムへ向けて槍を伸ばす。
「にゃ!」
チャイムはその不意打ちに反応し、槍を掴もうと手を伸ばした。
「そこ!」
「にゃぅ!」
だが、茜はすぐに槍をチャイムの下へ落とし
チャイムの手が空振りすると同時に振り上げた。
流石のチャイムもこの不意打ちに対処は出来ず
腹部に茜の槍を受け、飛ばされる。
「にゃにゃ!」
だが、すぐに体勢を戻し、辛うじて障害物へ移動し距離を取った。
「うにゃぁ…これは痛いにゃ」
茜に殴られた腹を少し痛そうにさすりながらも嬉しそうな笑顔を浮かべている。
「…茜さん、さっきまで防御ばかりだったのに」
「ま、茜の才能は元々ずば抜けていたからね。
必死に鍛えていたから技術面も当然出来上がっていたわ。
ただ今までは攻撃の勇気が無かった、だから攻撃が当らなかったし隙が大きくなった」
「だが、今の茜は本気だ、ようやく迷いを振り切れたようだ。
誰かが死んだ後に迷いを振り切ることが出来た。
物語の世界では良くあるが、実際は悲惨でしかない。
何とかそんな事になる前に自分の迷いを振り切れて良かったぜ」
「そうね、もしそんな風に迷いを振り切る事になったら多分水希が死んでたわね」
「後悔しないで成長出来るのが1番だろう」
茜の表情は真剣その物だった、これはただの戦いだ。
それでも茜はもはや手加減をするつもりは無いらしい。
「おら行くぞ!」
「…は!」
次に動いたのはイーリア、茜はイーリアが最も苦手とする場所へ攻撃を仕掛ける。
「ち! だが!」
しかし流石はイーリア、その攻撃を回避し、一気に茜への攻撃を狙った。
だが、茜の本職は防御、攻撃をすることに躊躇いが無くなったとしても
茜が最も得意とするのが防御であると言う事実は変らない。
最初の攻撃をイーリアが避ける事くらい、茜は最初から分かってただろう。
「流石にイーリアさんを甘くは見てませんよ!」
「っつ!」
イーリアの攻撃が当る直後に茜は槍を僅かに動かし
槍の背に付いてある小さな刃でイーリアの腕を貫く。
流石に血は出ていないけどな。
だがまぁ、このカウンターの後の行動も既に想定済みだったのだろう。
すぐにイーリアに蹴りを入れ、勢いで後方に避けた。
「はぁ!」
「ちぃ!」
後方に下がり、すぐに接近してイーリアを貫く。
素早い動きに対処出来なかったイーリアはその攻撃を受け
後方に飛び退き衝撃を逃がしつつ体勢を立て直した。
「ヒュー、動きのキレが今までとは違うな」
「いやぁ~、迷いを断ち切った茜ちゃん、予想通り凄いね~」
「えぇ、恐ろしく強いです」
「にゃはは、流石僕にゃ」
「さぁ、決着を!」
「……あたい、あたいだって!」
今まで悔しそうに茜とイーリア達の戦いを見ていた水希が達がある。
「…おい水希、お前じゃ」
「…イーリア、あたいはやられっぱなしが好きなタイプじゃ無いの。
それに、親友が戦ってるのに何もしないのはあたいじゃ無い!
確かにあたいはイーリアの言うとおり、真っ直ぐ戦う事ばかり
周りに合せることもしない…でも、それがあたいなんだ!」
「水希ちゃん!」
「おいおい、相変わらず頭が悪いな」
「でも、あたいだって…勝つためなら!」
「お!」
水希が初めてイーリアの攻撃を防いだ。
今まで、攻撃をすることばかりだった水希が初めて防いだ。
「茜ぇ!」
「任せて!」
「にゃはは、それを逃がし僕じゃにゃいにゃ!」
「それを見逃す私じゃ無い」
「にゃ!」
茜への攻撃を防いだのは藜だった。
彼女はすぐにチャイムの攻撃を流してのカウンターを仕掛ける。
その間に茜は一気に接近し、イーリアへの攻撃を仕掛ける。
「く!」
だが、イーリアはその攻撃を回避、だがバランスは崩れた。
「そこだ!」
「く!」
絶好の攻撃チャンスを逃すことが無い水希がすぐにイーリアの腹部を蹴った。
この完璧なタイミングに放たれた攻撃、流石のイーリアも防ぐ事が出来ず直撃した。
「でも~、どうしても留守になる人は居るよね~」
「な!」
花木はゆらりと恋歌の方へ攻撃を仕掛けた。
恋歌へ攻撃が当る瞬間だった、目の前に出たのは
「お~!?」
「あんな事を言ったんだ、私が動かないと?」
「あたた~!」
恋歌を庇ったのは藜だった、藜は花木の攻撃を流し、体勢を崩した所を攻撃した。
「うへ~、あはは~、成長したね~、弱点が分かったら豹変だね~」
「へへ、こうじゃ無きゃ面白く無いぜ」
「そうですね」
「にゃはは! これだよね」
「…状況、変りましたね」
「あぁ、予想通りだ」
「さ、ここからが面白いわよ」
弱点を克服した3人…だがまぁ、まだ分からないのが恋歌だな。




