ぐーたら兎の目標
秋の祭りも終わり、そろそろ冬という時期だ。
ま、こっちの冬は比較的楽だから良いんだけどな。
「うぅ、寒い、冷えますね」
境内の掃除をしている茜が自分の手に息を吹きかけ
寒そうに手を摩っている、そりゃ、寒いよな。
まぁ、比較的楽だから良いんだけども、こっちの住民である
茜にとっては十分寒い温度だろうし。
「圭介様は寒くないんですか?」
「んー?」
のんびりと縁側に座って紅葉が広がっている森を見ているだけだし
別に寒くは無いんだけど、動かない方が普通は寒いか。
「ま、大丈夫だ、これ位」
「それに、この甘えん坊のチビ神も居るし」
俺の膝の上には人の姿をしているキキが座っている。
その尻尾も体に当たっているから、結構暖かい。
「ご主人は暖かい…」
「と言うか、お前は狐状態になれば温いんじゃねーの?
ほら、毛皮とかあるし、わざわざ人の姿にならんでも」
「別にそれでも良いのですが、やっぱりご主人の膝に座りたく」
「狐状態で座ってれば良いだろうが」
「いやぁ、それとこれとは感覚が違うのですよぅ」
個人的には狐状態の方が暖かいし、結構軽いからその方が嬉しいんだがな。
ま、好きなように座らせておくか、なんか娘を乗せてる感覚だし。
「…むぅ」
「茜様」
「ん?」
少し寒そうに掃除をしている茜にキャンが近寄り、茜の手を握った。
「どうしたの?」
「これで、少しは」
「…あはは、ありがとう、でも、大丈夫だから」
「でも、さっきふて腐れてて」
「あれは違うから、心配掛けてごめんね」
茜は妹を褒めるような優しい手つきでキャンの頭を撫でた。
キャンは撫でられて嬉しそうにしているけど
同時に少し恥ずかしそうにもしている。
姉妹って感じだな、あの2人は。
「なんで炬燵に入らないの~? 暖かいよ~?」
そんな俺達を見ながら、炬燵でのんびりしている花木。
こいつはいつも通りのサボりだ、どうしようも無いな。
「はぁ、兎は体温高いだろ?」
「そうでも無いんだよね~」
確か兎の体温は38度~40以上だった筈だし、かなり高いよな。
「まぁ、何よりだ、当たり前の様にサボるな」
「そんな事言われても~、私、寒いの苦手だし~」
「祭りの時はかなりやる気なのにな」
「祭りは~、楽しいからね~、それに目標が無いとさ~
私ってやる気で無いんだよ~、ゴールが無いマラソンとか~
苦行でしか無いでしょ~?」
「そう言う場合は自分でゴールを決めるんだよ、そもそもだ
目標というのは自分で決める物だ、確かに他人に決められる場合も多い
だが、その目標を果たすために自分でその目標に行き着くまでの
目標を自分で決めるべきだろ」
「訳が分からないよ~」
やっぱりこう言うのは実例を詳しく出さないと分かりにくいか。
「例えば、1週間以内に1000個団子を売れと言われるとするだろ?
だが、1週間後の想定はちょっとばかし実感も湧かないし、達成感も無い
だから、そこを小分けにして1日150個売ろうと考えるんだ
で、毎日その目標の達成を目指して、達成感と実績を積み上げて
最終的なゴール、1週間に団子1000個を目指すんだ
ま、この例えだと1週間に団子1050個になるが
オーバーは実績にしかならないから問題無い」
俺が仕事をするときの心構えって奴だ。
大きすぎる目標だけ見てると苦行でしか無いからな。
上ばかり見ていると、自分がどれだけ進んでるかも分からなくなる。
優秀な奴ばかり見ても、抱くのは闘争心か虚無感、敗北感だろう。
だから、基本的に大きな目標に歩む時にはこうやって着実に進んでた。
「良くわかんないけど、私はその間に楽しい事が無いと出来ないね~
この目標を達成したらご褒美~、みたいなのが無いとさ~」
「達成感がご褒美で良いんじゃねーの?」
「それだけじゃ微妙だよ~」
「…じゃあ、例えばお前は目標を達成したとき、どんなご褒美が欲しいんだ?」
「そうだなぁ~、お店拡大~?」
「いつでも出来るだろ」
「あ、そうだ~、目標を達成したら宴会しようかな~、四宮神社で~
兎たち全員集めて、お団子食べながらどんちゃん騒ぐ感じで~」
「……ま、場所を貸すくらいならしてやるよ」
「勿論~、皆も一緒にさぁ~」
「それでお前が良いなら別に良いけど、で、目標は?」
「お団子~、10000個売るのなんかどうかな~」
「随分とまたデカい数字が出たな」
「やっぱり、やるからには大変な方が良いからね~
じゃあ、早速伝えてくるよ~、忙しくなりそうだね~」
さっきまであまりやる気が無さそうだった花木だったが
協力する事を告げると、かなりやる気に溢れた表情に変化し
ぴょんぴょんとそれなりに高いジャンプを連続して行ないながら
階段を降りていった…普段、こんな降り方しないのにな。
ま、それだけ楽しみだって事なんだろう。
「はぁ、やれやれ、お、そうだ茜」
「はい、なんですか?」
「そろそろ紅葉狩り、行くか?」
「そんな事を言ってた気がしますね」
「あぁ、丁度良い感じだろ、紅葉の具合もさ」
「そうですね、それじゃあ、いつ行きますか?」
「お前が好きな時間で」
「じゃあ、明日です、楽しい事は速くしたいですからね」
「分かった」
さて、ま、花木の目標が達成されるまで、結構時間も掛かるだろうし
その間はのんびりと過ごさせて貰おうか。




