忙しすぎる屋台
「ポテト3袋ください!」
「こっちは2袋!」
「あ、あわ、あわわぁ! ぽ、ポテト! 出来ましたか!?」
「で、出来てるぞ! ポテト5袋!」
ヤバい、凄まじい数の人がここに来てる! 流石にこんなに来るとは思わなかった!
こんな状況になると腕が何本か欲しい! いや、出せそうだけどさ!
でも、出したら正体ばれるかビビって客が逃げる! 祭りが崩壊したら大変だ!
あれだな、こう言う祭りとかで屋台やってるおっちゃんが凄いて事がよく分かる。
こんなに大量の客を捌いてるんだ、それも平気そうな顔でマジスゲーよ。
「はい、えっと、3袋です! 150文になります」
「ありがとう」
「こちらは2袋です、100文になります」
「ありがとうねぇ」
「ポテトください!」
休めねぇ! 休む暇がまるで無い! 何かずっとポテト揚げてるから妙に熱いし!
これがもし夏だったと考えると地獄でしかねぇ! いや、今の状況でも地獄だが!
「しょ、少々お待ちください! えっと、出来てますか?」
「あ、後2分は掛かるぞ」
「2分!? う、うーん、長いですね」
「仕方ないだろ? 揚げ物は時間が掛かるんだよ」
それから2分の時間を掛けて、何とかポテトを新たに5袋作った。
しかし、本当に短い間にそのポテトは無くなってしまう。
同時に沢山のポテトを作ってるのに、それでも追いつかないとはとんでもないぞ。
「いやぁ、このポテトって美味しいね、塩味が絶妙だし外はカリッと、中はフワッとで凄い美味しい」
「あぁ、これが1袋50文だからな、誰だって買うさ」
ポテトを揚げていると、前を歩いている参拝客の会話が聞えてきた。
何だかこんな風に評価されると素直に嬉しいと感じるな。
まぁ、凄まじく忙しいから、喜んでる暇は無いんだけど。
「えっとポテト4袋です!」
「マジかよ、結構時間掛かるぞ…待ってて貰えるか?」
「わ、分かりました、えっと、済みませんしばらくお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
「分かりました、美味しいポテトをお願いしますね」
客の数が凄まじく結構長い間待たせてしまっているが、それでも痺れを切らして帰る客はいない。
待って貰えるってのは結構楽で良いな、でも、急がないと行けないから大変なのは変わらないが。
「よし、ポテト5袋出来た」
「分かりました、えっと、はい、ポテト4袋で200文です」
「わぁ! 美味しそう!」
「良い匂い、食べたい食べたい!」
「えっと、お熱いので急いで食べ過ぎないでくださいね、火傷しちゃいますから」
「はい、分かりました、この子達にも良く言って聞かせます、ありがとうございました
頑張ってくださいね」
「はい! ありがとうございました!」
応援されるのは普通に嬉しい物だな……うん、応援してくれる人が居るのは良いことだ。
こう言う声があれば辛くても頑張らないとって思えるからな。
「…応援されるのって、嬉しいですね」
「そうだな、やっぱりそう言う声が無いとやってられないだろう」
「そうですね、私もクタクタですし、これ以上はちょっとしんど」
「済みません、ポテト1つください」
「あ、はい! 50文です」
さっきまで弱音を吐いていた茜だったが、お客さんが来た途端表情を変え、笑顔でポテトを渡した。
流石茜だ、営業スマイルは完璧だ…いや、茜の事だし心の底からの笑顔だろう
さっきまでお客さんがラッシュで来てた時は笑顔を見せてなかったからな。
でも、今は笑顔で対応している、さっきのお客さんに応援して貰ったのが嬉しかったんだろう。
「圭介様! 私、やりますよ! 絶対に祭りの間めげずに接客します!」
「そうか、じゃ、俺も負けてられないな、巫女が必死に頑張ってるのに
俺が府抜けてたらいかんだろう、よし、ドンドン揚げるぞ!」
「おー!」
それから俺達はこの山明祭りが終わるまでずっと必死にポテトを揚げたり
接客をしたりして、山明祭りを全力で盛り上げた。
ま、客足は増える一方だったが、それでもやる気があれば何とかなった。
「はぁ、はぁ、はぁ、そ、そろそろ山明祭りも終わりですね」
「そ、そうだな」
「あはは、私話しすぎて少し喉が嗄れてる気がします」
「安心しろ、大して変わってないから」
「あはは、圭介様がそう仰るならそうなんでしょうね、勘違いでしたか」
でも、きっとそう感じるくらいに頑張って声を出してたって事だな。
だが、俺が聞いた感じ声はいつも通りだった、何だかんだで茜は結構喋るからな
そう簡単に喉が嗄れるなんて事は無いだろう。
「ポテト4袋お願いするわ」
「あ、はい、ただいま…って、時音さん?」
「ふふ、お疲れ様、大分疲れてるようね、お二人さん?」
「そりゃ疲れるさ、休む暇も無くポテト揚げたり、お客の相手をしてたんだから」
「凄い人気だったからね、この屋台、圭介ってバレてるわけでも無さそうだったのに」
「お、やっぱバレてなかったか? この姿」
「そりゃそうでしょ、あの人達はあなたの事を男だと認識してるのよ?
女の姿に化けてるあなたを見て、あなただって気が付く人はそういないわ」
だよな、やっぱりこの姿で屋台をやったのは正解だったようだ。
もしバレてたら時音に申し訳ないし、客が今以上に来そうだし。
「圭介様のお料理はとても美味しいですからね、何を作っても人は集まりますよ」
「ま、それは分かるわね、美味しいし、どうしてそんなに美味しいご飯を作れるわけ?」
「んー、さぁ?」
俺の料理の腕はそこまで無かったと思うが、いつの間にかこんな事になってるからな。
「あーっと、もしかしてあれかしら、茜とかが圭介の料理は美味しいと認識してるから
それが圭介に影響したとか、はたまた美味しい料理を作る事に憧れてる
誰かの影響か、どちらにせよ色々と便利よね、あなたの信仰は自由な感じの信仰でしょ?
私はあれよ? 軍神ってなってるから戦いの能力しか強くならないのよ?
それなのにあなたに戦闘力で劣るって言う、もうね、色々と酷いわよね
まぁ、ここでは四宮の神は全能の神として崇められてるみたいだし
分かるのよ? 分かるんだけど、本当に理不尽と感じるわ」
「ぜ、全能の神? そんな風に信仰されてたの?」
「えっと、四宮の神様は過去は憧れの象徴として信仰されてました
神様自体憧れで生まれるんですが、四宮の神様は全能の神としての象徴です
それと、元は4つの力があるとされていたわけですが、圭介様の影響でそれ以上になってます」
「その影響かしらね、あなたはあれよ? 他人の憧れの全てを自分の力にしてるのよ?」
よく分からないが、俺は色んな憧れの影響で色んな力を得てるらしい。
で、時音の話から予想すると神は本来憧れで生まれる訳だが
その中でどんな神かと言う対象が生じるんだろう
勉学の神としてなら、勉学の憧れを、軍神として信仰されるなら力への憧れを得るんだろう。
だが、俺はどんな神かと言う対象が無いから、いかなる憧れも吸収する
それに四宮の神自体全能の神として崇められてたらしいから
全部の憧れを吸収すると……うん、よく分からんが俺が何か凄い存在になってるって事は分かった。
「まぁ、そう言う訳だからあなたは色々と出来るのよ」
「そ、そうなのか」
「便利よね、羨ましいわ」
「そうですよ、姿も変えられますし、羨ましいです」
「あ、それは神様になれば出来るわよ? 私も姿を変えられるし、男にはなれないけど
ライオンや龍に変化する事は出来るわ、力の象徴となる動物ね、多分圭介は全部の動物に変化するわ」
「猫くらいしか変化したこと無いけどな」
実際姿を変えるのは便利だよな、他にも千里眼も便利だ、まぁ、あれは千里眼というか
その場所に居る動物の視界と意識を奪って見る力だけど。
と、そんな風に俺達が会話をしていると、腹が鳴る音が隣から聞えてきた。
「あ!」
その音に反応し隣を見ると、そこでは顔を真っ赤にしてお腹を押さえてる茜の姿があった。
……あれだな、さっきの音は茜の腹の音だったのか。
「ふふ、ま、この話は後で良いわ、小難しいし、面倒だしあまり知っても意味ないし
それよりもご飯食べましょう、祭りも終わりだし、後は私達でのんびりと」
「そうだな、茜も腹を減らしてるからな」
「うぅ、も、申し訳ありません……」
「謝ることじゃないわ、お腹は減るって」
「はい」
「あたいもお腹空いた! 茜、一緒に食べよ!?」
「う、うん、そ、そうだね、食べよう」
さて、それじゃ、飯を食うか、俺も腹減ったしな。
とりあえず屋台に出てる食い物とそれに合いそうな物を軽く見繕うか。




