秋の入り口
湖でのお遊びも終わり、しばらく時間も経って、時は秋。
まだ夏も終わってあまり経ってないから、紅葉などはしていないが
空気が涼しくなり、清らかに感じてきている。
「ふぅ、ふぅ、す、涼しくなってきましたね」
屋根の上でのんびりとして居ると、茜が温かいお茶を持って屋根の上までやって来た。
「屋根の上にまで運んでくるのか」
「はい、あ、どうぞ、お茶ですよ、温かくしてみました」
「ん、ありがとうな」
「その、圭介様は何故屋根の上で寝転がっているのですか?」
「1度、やってみたかったからな」
こんな風に屋根の上に寝転がって、周りの景色を見るのはくたばる前に1度やってみたかったことだ。
今回は折角涼しくなってきたし、それにふと思い出したからやってみた、開放感もあって気持ちいい。
瓦も割と冷たいし、結構気分も良い、猫が屋根の上でグータラする気持ちも分かるな。
「そうなんですか」
「そうだ、茜もやってみるか? かなり気持ちいいぞ?」
「え? あ、はい、やってみます、では、失礼して」
茜は俺と同じ様な体勢を取り、空を見上げた。
「あ、冷たくて気持ちいいです、それに凄く良い景色です」
「だろ? 夏場とかは無理だが、秋なら出来るからな」
「そうですね、夏場は暑くて出来そうにありません」
俺達は2人でゆっくりとその開放感溢れる景色を見ながら、グータラと寝転んだ。
1人で見るのも良いが、こうやって誰かと同じ事をするのも悪くない。
「あ、見てください、文月山が見えます!」
「あぁ、ハッキリと見えるな」
文月山はまだ紅葉が始まっていない、もう少し経てばあの山で紅葉狩りをするのも良いかも知れない。
「2人で屋根に登って何してるの~?」
「あぁ、花木」
のんびりと話していると、あの兎が顔を出して俺達の方を見ていた。
いつの間にか来ていたらしい。
「花木さん、いつの間に?」
「ついさっきだよ~」
ついさっき来て、すぐ俺達の場所が分かったのか、ここは神社の端っこだから
鳥居から入ればすぐに俺達を見付けるのは難しいと思うんだがな
なんせ、最初に屋根に誰かいるとは思わないだろうし、鳥居を潜るまで神社の全貌は見えないから
端っこに居たのが見えた、って事にはならないだろうに。
「よく分かったな、ここに居るって」
「そりゃね~、神社の下で全員がジッと見てたら、流石にね~」
「そうなのか?」
花木に言われるまで気が付かなかったが、神社の下ではキキ達が俺達の方を見ていた。
「あ、皆さん見てたんですか?」
「あぁ、まぁ、だけど話しかけれそうに無かったから黙ってたんだ」
「お二人のお邪魔をするわけにもと思いまして」
「別に話しかけたきゃ話しかけりゃ良いのに」
「ですが、茜様と圭介様が幸せそうに空を見ながら寝転がり、語っている姿を見ていたら
邪魔なんて出来ませんよ」
ま、この開放感で少し幸せな気分になってたのは事実だからな。
「そうなんだ、悪い事しちゃったね、それで、何か用があるの?」
「えっと…その…お腹が空きまして」
「私が作っても良かったんだが、今の材料で私が作れそうな物が無かったからな」
「あ、そうか、悪かったな、今から飯作るよ」
「申し訳ありませぬ」
「あはは…ご、ご飯の事、忘れてましたね」
「そうだったな、それじゃ、さっさと作るか」
あいつらの為に食事を作り、全員で食べている間に新しい客人がやって来た。
「あら、今はお食事中だったの、結構遅いのね」
飯を食っているタイミングに時音が文月山のメンバーを何人か連れてやって来た。
これもまぁ、いつもの光景だな、しょっちゅう来るし。
「まぁな、暇だろうから団子でも食っててくれ」
「はい、どうぞ~」
花木がいつも沢山持ってきている団子を文月山のメンバー全員に渡した。
当然全員すぐにその団子に食い付き、美味しそうに食べ始めた。
「悪いわね、毎度毎度」
「大丈夫だろ、この兎がいつも持ってきてるだけだし」
「毎日美味そうに食べてくれて、私は嬉しいよ~」
「実際美味しいからね」
「それで、今日も雑談しに来たのか?」
「そうね、でも今日はちょっと違うのよ、今日は文月山で行なわれる月見の話よ」
「お月見、中秋の名月、毎年楽しみだよ~」
「そう、それでその日は今から5日後の24日になる予定でね」
「15日じゃ無いのか」
「仕方ないじゃ無いの、満月になるのが24日なんだし」
そうか、今月の満月は24日なのか、結構中途半端な日だな。
「その事のお誘いよ、更に山明神社と文月山の全組織を投下してでの祭りにするのよ
本来、月見は静かにする物だけど、今回は全力で楽しもうって事
折角初めての人間を交えての祭りだし、はっちゃけたいからね」
「お、ついに山明神社も祭りで盛り上げるのか?」
「勿論よ、やっと里のメンバーを説得出来て祭りを出来るようになったのよ」
そうか、あの山には人間嫌いの妖怪とかも住んでるしな、その妖怪達の説得に時間が掛かったのか。
「だが、人間達はどうするんだ? 大半は文月山の妖怪を恐れて近寄らないが」
「うぐ…も、問題はそこなのよね、祭りをするっていっても来る人がいるのかどうかが問題よ
もし人が来なかったら…折角説得したのに全部が水泡に帰すわ」
「…じゃあ、私達も協力しましょう、そうすれば!」
「い、いいの!? 本当に良いの!?」
「まぁ、良いだろう、折角の祭りだし、成功させたいからな」
「ありがとう、感謝するわ!」
山明神社の祭り、その祭りの為に人間達を説得することになった。
ただ、説得といっても、結構簡単だったんだけどな。
長い間四宮神社に参拝、祭りに参加していた村人達は妖怪に対する恐怖が薄れていた。
ただ文月山はよく分からない妖怪が多くて怖いという話だったが
その妖怪達の長や主な妖怪達は祭りで出会った妖怪達だと告げると安心したらしく
すぐに行くとテンションを上げて答えてくれた。
それに四宮の神様がいるなら安心だと…信頼されてるって良いな。
さて、後は祭りが始まるまで待つだけだ、楽しい祭りになれば良いな。




