賑わう湖
「ケーロケーロケロ、ケッケロロー」
賢子が湖に浮かびながらなにやらケロケロと歌っている。
どんな歌だよ、リズムも分からないし
大きさとか高さとかもバラバラだしな。
「随分と下手な歌だな」
「ケロ!? いや、ケロが適当に考えた感じケロが、正直に言い過ぎケロ」
「あ、やっぱり即席で考えた歌なんだな」
鼻歌ってのはたまに適当な歌が出ることがあるからな。
今回のこいつの歌もそれと同じ感じなんだろう。
だが、もう少し考えて歌えば良いのにと思う。
「圭介様、確かに酷い歌でしたが、ハッキリ言いすぎですよ」
「け、ケロ・・・・圭介の言葉よりも茜の言葉の方が強烈ケロ」
「え!? あれ!?」
茜の奴が無意識に賢子の歌にトドメを刺した。
嘘を吐けない性格ってのも中々大変そうだな。
でもまぁ、賢子はその程度でどうこうなる感じじゃないだろうが。
「ケロケロ、まぁ、どうでも良いケロ、2人に言われたって事はケロの歌は駄目駄目だったって事ケロ
仕方がないから、もうちょっと鍛えてみるケロ」
こういう風に、どんな時でも何かと前向きに捉える奴だからな。
ただ、自分ではどうしようもない部分では後ろ向きっぽいが。
「ふーん、何となく気配はしてたけど、やっぱり来てたのね」
俺達がのんびりと話をしていると、奥の方から時音達が姿を現した。
「あ、お前達も来たのか?」
「そりゃくるわよ、あなたみたいなデカい気配があったら確認にはね」
「俺だって分かってるなら来なくても良いんじゃ無いのか?」
「まぁ、そうなんだけど、水希がね、あれ? 水希は?」
「ひゃっほぁぁ! 茜ちゃん見付けたぁ!」
「へぇ!? あぁ! だ、駄目だよ! 飛び込んだ、ぶばふぁぁ!」
水希は茜が泳いでいる場所にいきなり飛び込んできた。
茜はその水希の奇行を回避できずに水希の体当たりを思いっきり食らい
水中に沈んでいく、そんな茜の腕を水希が掴み、力任せに引き上げた。
「あはは! いやぁ、冷たいね!」
「あぅ~、あ、頭がぁ・・・・」
水中から引き上げられた茜は目を回していた。
その表情は何というか、凄い間抜けずらをしている。
「いやぁ、水希は相変わらず元気やなぁ、茜もさんざんやろ」
「そう思うなら、あなたが止めなさいよ」
「ん? 葵もいたのか?」
水菜の隣に葵が当たり前の様に立っていた。
「そうよ、ちょっとこの馬鹿に修行手伝えとか言われてね
折角久々に茜の顔を見ようと思ったのに、ま、不幸中の幸いね
茜のこんな姿を見られるなんて! 水着姿とか超レアでしょ!
それに、あの愛らしい姿! いやぁ、可愛いわ!」
「茜の事になると、たまーにこんな風になるんや、変わっとるやろ?」
それだけ茜の事を大事に思ってるのか、でも、前までここまで酷かったか?
「変わってないわよ、茜は私の大事な家族よ、愛するのは当然でしょ?」
「いや、まぁ、そうかも知れへんけど、流石に度が過ぎるんとちゃうか?」
「ま、まぁ、そんな気はしてるけど、と言うか、あなたは水希の事はそこまで大事に思ってないの?」
「大事や、うちの大切な妹みたいなもんやからな、とても強いしな」
「そう、じゃあ、もしも水希が弱かったらどうなの?」
「強くするだけや」
「強くなりたくないといってたら?」
「う、うーむ、そん時は引き下がるやろ、大事なのは水希の意思やからな」
「じゃあ、その後あなたはどうするの?」
「普通に一緒に暮らすだけやで? それだけや」
「そう、安心したわ」
葵は水菜の言葉を聞いて、少しだけ笑いこちらに歩いてきた。
そんな葵を見て水菜は少し不思議そうな表情を浮かべた。
どうやらあいつは葵の言葉の意味が分からなかったらしい。
単純に水菜が水希の事を大事に思ってるかを調べたかったんだろうな。
あそこで見捨てるとか無理にでも鍛えるとか言ってたら
多分葵は水菜を攻撃するつもりだったんだろう。
「さて、それじゃあ、私達も泳ごうかしらね」
「そうですね~、泳ぎましょう」
「ケロ!?!?!?」
葵たちの後ろからゆっくりと姿を現したのはミルクだった。
賢子はそんなミルクを見て、目玉が飛び出しそうな勢いで目を見開き
水中に沈んで言ってしまった、蛙なのに。
「お、おい! 賢子!? どうしたんだよ! おい!」
「け、ケロ・・・・ケロはもうだめケロ、最悪の化け物が現れたケロ
どうか、ひと思いにケロを殺してくれケロ」
「お、おいおい、何言ってるんだよ」
「見るケロ! あのデカすぎる乳を! 前より5ミリデカくなってるケロ!」
「はぁ!?」
「ケロは全く成長しないのに! ケロ! あれ以上大きくなってどうするケロ!?」
いきなり暴走した賢子がミルクの方まで走って行き、ものすごい剣幕で講義を始めた。
ミルクはそんな賢子を見てかなり困惑しながら、オロオロとしている。
「どうしたの? そんなに怒って」
くるみが後ろの方からチラリと姿を現し、賢子の前に出て来た。
「くるみ! 見るケロ! この大きな乳を・・・・け、ケロ!? そ、そんなぁ!」
「ん?」
「ま、前より3ミリ大きく・・・・ケロぉぉ!」
・・・・あいつ、どんな目を持ってるんだよ、一目見てどれだけデカくなったか鑑定するとか。
地味に凄い能力だよな・・・・必要とは一切思わないけど。
「今日もこのメンバーは騒がしいな」
「イーリアも来たのか?」
「まぁな、たまには羽を伸ばそうと思って、な?」
「そうですね」
「稻、お前も来たのか? てか、随分と仲良さそうにしてるな」
「まぁ、一緒に鍛えたりしたしな」
「そうですね、姐さんは凄いです」
あ、姐さん・・・・何か知らんが純血の鬼に姐さん呼びされるくらい強いのか。
知らない間にイーリアも大分強くなったんだな。
「で? 止めなくても良いのか?」
「良いだろう、いつもの事だ」
「どうしてケロは胸が大きくならないケロ!? ふざけるなケロ!」
「え、えっと、だ、大丈夫ですからね」
「むぐ!」
賢子を励ますためにミルクがあいつを抱きしめた・・・・顔の部分は丁度胸だ。
あれかな、無自覚で相手にトドメを刺す感じなのかも知れない。
「きっと成長出来ますからね、それにお胸の大きさなんてどうでも良いでしょう?
例えあなたがどんな風になっても、きっとあなたを愛してくれる人は見付かりますから」
「むふぁ! このあぐ、ゲロ!」
そして、怒りで興奮しすぎたのか賢子は鼻血を吹き出してしまった。
その状況で急いでミルクは抱きしめていた手を離したが
賢子はクラクラしながら後ろの湖に落下、湖が真っ赤に染まり始めた。
「ケロちゃん!?」
「おぉ! 真っ赤だ!」
「うわぁ! 湖が赤く染まるのじゃ!」
「い、急いで賢子を助けるぞ!」
「あたいはこんな状況初めて見たよ! 湖ってこんなに赤くなるんだ」
「言ってないでさっさと賢子を湖から出せ! 蛙でもこの状況は溺れるぞ!」
「じゃあ、私が助けちゃお」
湖に飛び込んだ香奈が素早く泳ぎ溺れそうになっていた賢子を拾い、陸に登った。
だが、陸に登ってきた香奈は体が結構赤くなっている。
きっと賢子の鼻血で染まった湖を泳いだからだな。
「ケロぉ・・・・」
「ふぅ、大丈夫そうで良かった」
大丈夫・・・・なのか? ま、まぁ、まだ疑問はあるが、現状は命に別状は無いだろうからな
とりあえず鼻血を止めて、ゆっくり休ませておくか。




