小さな祭り
桜は舞い散り、楽しそうな複数の声がこだまする。
そこまで大きくない境内だが、その境内だからこそ全員の様子が分かるのだろう。
楽しそうに踊っている妖怪達、美味しそうに料理を頬ばる妖精達。
その光景を見て、ゆっくりと楽しんでいる神と人間、こんな光景を見ることが出来るのは
多分、一握りの存在だけだろう、多種多様な種族が1箇所に集まり
全員で最高の時間を過している、こんな光景を見れるのはな。
「楽しそうね、あの子達」
「そうだな、全員楽しそうにしてる」
俺はその光景を見ながら、珍しく時音が入れてくれた酒を飲んだ。
こう言う光景は、酒の肴に丁度良いからな。
1人酒も悪くは無いが、やはりこっちの方が美味い酒が飲めるもんだ。
「そう言えば、茜は何処に行ったのかしら?」
「あいつか? あいつならあそこだ」
茜は水希に引っ張り回され、料理を無理矢理食べさせられている。
その料理は真っ黒焦げだ・・・・あの料理は多分、水菜かイーリア作だな。
「・・・・辛そうなんだけど?」
「そりゃあ、あんな暗黒物質を食べさせられてたらな」
どうすればあそこまで炭に出来るのか、どんだけ超火力で焼いたんだか。
あんなの、食べなくても罰は当たりそうにないが、それでも茜は必死に頬ばっている。
だが、半分泣いてるようだ、目の近くで小さな輝きが見えたからな。
無理しなくても良いのに、でも、あいつのことだし全部食べるんだろうがな。
「茜! 別に食べなくても良いのよ!? お腹壊すわよ!」
「だ、大丈夫です! 食べて見せます! 折角作ってくれたのですからぁ!」
大きな声で残さないとハッキリ言い、再び暗黒物質を頬ばった。
茜の目から大粒の涙が流れたのが見えた・・・・健気な奴だ。
「健気ね、少し泣けてくるくらいに」
「あぁ、我が巫女ながら大した精神だ」
「・・・・それにしても、良い奴ほど先に行くと言うけど、その理由がよく分かったわ
あそこまで純粋だと、その内本当に死にそうよね」
「大丈夫だ、俺が守るから」
無意識にこの言葉が出た、不思議な物だ血も繋がっちゃいないのに
それなのにここまで守ってやろうなんて気持ちになるなんてよ。
「あら、自然に言うわね、ふふ、四宮の神から加護を受ける何てね
でも、加護があっても無理かも知れないわよ? あの子、自分から厄介ごとに首を突っ込みそうだし」
そうなんだよな、あいつは確実に自分から危険に走り込んでいくタイプだからな。
まぁ、優しいからこそなんだろうが、それでも無理をしすぎだよな。
このままだと、マジに早死にするって、でも、三つ子の魂百までって言うし、変わらないだろうな。
例え俺がどれだけ説得しようと、あいつはあいつのままだろう。
「分かってはいるんだが、変えることは出来ないだろうよ、あいつは何処まで行ってもあいつだ
そんな簡単に変わるような奴じゃないって」
「そんな気はするわね・・・・ま、見守りましょう」
時音はそう言い、俺の盃に酒を注いでくれた。
「そうだな」
俺はその酒を一気に飲み干した。
「さて、それじゃあ、そろそろやりましょうか?」
「そうだな、そろそろ本番と行くか」
「そう来なくっちゃね!」
俺の返答を受けた時音はすぐにその場から立ち上がり、全員に大きな声で呼びかけた。
「それじゃあ! あなた達! 行くわよ! 神社対抗! お洒落大会!」
「待ってました!」
時音の大きな声に反応し、全員が歓喜の声を上げた。
どうやら、あいつらもこれを楽しみにしていたようだ。
その歓喜の声がそれを物語っている、そしてすぐに用意が出来た。
「それじゃあ、行くわよ、前回は花木で止まったのよね、と言うわけで花木から初めて」
「分かったよ~」
花木は時音の言葉に応え、舞台の裏側に入り、服を着替えて出て来た。
「おぉ! やるじゃないの!」
花木の服は着物だ、こいつは普段から洋風な服ばかり着ていたからな。
だからこそ、こんなときくらい和服を着てみて欲しいからな。
服装は真っ白く、金色の兎が至る所に刺繍された和服だ。
そして、杵に似せたかんざしを頭に着けている、作るの大変だったんだよな。
「頭領様! 可愛いです! 新鮮ですよ!」
「和服って、大きさがあってたら良い感じだね~、でも動きにくいかな~」
「和服はあまり戦闘向けじゃありませんからね、因みに私の巫女装束は動きやすいですよ?」
「それは四宮神社の巫女は代々妖怪退治を生業にしていたわけだからね
当然、戦闘向けの衣服になっているわ、ただ、茜には派手に動くものじゃなく
花木のような動きにくい服装の方が良いわね、それも似合っているのだけど、戦わないし」
「お師匠様、私は最近よく戦ってますよ」
茜は水希の方をチラリと見て、そう言った。
水希はその視線に気が付いたようで、茜の方を向いた。
「あはは! あたいは茜と戦ってばかりだからね!」
「そうだね・・・・あはは」
かなり呆れた様な表情で、小さく答えた、茜、やっぱり苦労してるな。
そんなに戦闘を好まないのに戦ったりしてるし、でも、そのお陰で防御能力が異常な程に高くなったが。
まぁ、それは茜本来の才能かもな、あの先読みの行動力が凄いわけだし。
「それじゃあ、今度は山明神社ね、次は賢子よ!」
「ケロケロ! 楽しみケロ!」
意気揚々に賢子は舞台の裏側に入り、少し時間が経って出て来た。
「ケロ!」
賢子の服はレインコートの様な物に、フードを被っている。
そして、レインコートのポケットに手を突っ込んで出て来た。
「ケロケロ! 動きにくいけど、何だか気分が良いケロ!」
「レインコートだと?」
「レインコート? あれは私がオリジナルで考えた河童衣装よ!」
「え? どういうことだ?」
「ほら、河童って雨に強いじゃない? だからあの服はその河童を真似たのよ
だから、あの服は雨を弾いたりして、雨でも傘が要らないのよ
いやぁ、作るの苦労したんだから、河童の特性を理解してそれを利用して」
「分かった! 分かったって! お前が頑張って作ったって事は!」
このまま話させたら、熱く製作秘話を話しそうだしな・・・・多分。
でも、流石は神だな、本来無い衣装を作るとは、本気だな。
「それじゃあ、次は?」
「そうだな、こっちはキキだ」
「分かりましたぞ! キキにお任せあれなのです!」
指示を聞き、やはり嬉しそうに部屋に入った、しかしだ。
「待てキキ! お前だけじゃ不安だ! わ、わっちも!」
「でぇい! ご主人はキキを指示したのじゃ! 馬鹿犬が出る幕はないのじゃ!」
「だから狼だ! いや、そうじゃなくてだな! お前1人じゃ服着れないかも知れないじゃないか!」
「キキを侮る出ないぞ! 出来ぬ事などあんまり無いのじゃ!」
「不安しかないんだって!」
「じゃあ、キャンも入って良いぞ?」
「あ、ありがとうございます!」
「むぅ、ご主人から許可が下りたというなら・・・・仕方ないのじゃ」
そして、キキとキャンは2人で裏に移動して、なにやら賑やかな口喧嘩の後出て来た。
「ふむ、中々難しいですな」
キキの服はボタン付きのきつね色とグレーを混ぜたチェック柄シャツ
胸当たりには狐を刺繍している、見えないが裏には寝ている狼が居る
ズボンはグレーのハーフパンツと
耳穴が開いているきつね色とグレーのハンチング帽だ。
何となくキキは帽子が似合いそうだったからな。
全体的に洋風チックな服装になっている。
「やっぱりわっちも来て正解だったな」
「む、むぅ、そうじゃな」
キャンの服はグレーときつね色のチェック柄のパーカーと、きつね色の動きやすいガウチョパンツだ、ガウチョパンツの左下には遠吠えをしている狼が刺繍してある、その裏には寝ている狐を刺繍している。
帽子は耳穴が開いているきつね色とグレーのキャスケットだ、キャスケットとハンチング帽は似てるから
こいつらには丁度良い気がしたしな。
「格好いい感じですね、それにしても、色合いが似ていますよね」
「そりゃな、同じ様な服装にしたんだから」
こいつらは普段から喧嘩をしているが、実際は異常な程に仲が良いからな。
それなら、こいつらのイメージカラーを合わせて見たらどうなるかを試した結果だ。
こうやって並べてみると、かなり良い味を出している気がする。
ふふ、俺の試みは成功したと言えそうかな、あの2人も気が付いてないし。
「しかし、この服装は動きやすいのぉ、そうは思わぬか?」
「あぁ、やはりわっちらは動きやすい服が良いな」
「うむ、それは同意するのじゃ」
この2人の服装はお洒落と動きやすさを両立できた感じで良く出来た気がする。
「良いわね、同時って言うのも、それじゃあ、私達もやるけど良いわよね?」
「構わないさ、俺達の方が先にやったんだ、文句は言わない」
「そう、それじゃあ、後半戦! ふふ、楽しみね」
「そうですよね! 皆さんの服装がいつもと変わっていくのを見るのは楽しいです!」
「うん! 楽しい!」
茜と水希も今回のこれはかなり楽しそうに見ている、いや、2人だけじゃない。
この小規模の祭りに参加している奴、全員が楽しそうにしている。
桜の花びらが舞い散っている中でのお洒落大会ね、なんか風流だな。




