怪我の功名
俺は久里が好きそうなたぬきうどんを作り、食卓に並べた。
で、そのおかずとして、エビの天ぷらに、ついでに刺身も用意した。
刺身は鉄則だよな、俺は刺身が大好きだ、くたばる前は毎日刺身でも良いと思ってたほどに。
でも、金の関係上、それは出来なかったが、こっちなら、捌き放題だしな。
「わぁ! 今日は、おうどんなんですね!」
「あぁ、油揚げものせてる、まぁ、あれだな、たぬきうどんだ」
「たぬきうどん、そんなうどんがあるのね」
「あぁ、あるぞ、うどん屋なんてここら辺には無いけどな」
そろそろ、村も発展してきたし、うどん屋くらいあっても良いだろうに
うどん屋は無いんだよな、と言うか、店や全般が無い。
花木の団子屋くらいしか、村には料理屋が無いんだよな、何でだろうか。
「なんで私の団子屋さん以外にお店は無いのかな~?」
「村の人達は、皆料理が上手いからな、外食は必要ないんだろう」
「へぇ、そうなのか、知らなかったな」
でも、いつか食事処は出て欲しいな、その方が、村も賑わうだろうし。
まぁ、無理言っても仕方ない、最悪の場合は神社で店屋でもするかな。
にしても、屋台はあるのに、食事処が無いのは何でだ? 全く分からん。
「理由は分からないが、その内出来るだろう、さて、キキ達を呼んでくる」
「あ、私が行きます、圭介様は座っていてください」
「ん? いや、別にキキ達を呼ぶくらいだし、俺でも」
「あれだよ、多分、自分は料理が出来なかったから、働きたいんだろうさ」
「あぁ、そう言う事か、じゃあ、茜、呼んできてくれ」
「はい! では、行ってきます!」
茜は元気よく立ち上がり、キキ達を呼びに、2人の部屋まで小走りで移動した。
そして、2人の部屋に入り、ご飯だよ! と、元気よく言うと、部屋から2人が出て来た。
2人の服は、結構ボロボロで、かなり乱れてしまっている。
「ご飯なのじゃ-!」
「わっちが最初に行くんだ!」
「無駄じゃ! 馬鹿犬では、キキの足には追いつけぬわ!」
「ぐぬぬ! たりゃぁ!」
「ぬぉ! ぬぉおお!!」
キャンがキキの足に飛びつき、2人は盛大にずっこけた。
相変わらず、喧嘩ばかりしてるな。
「喧嘩ばかりするんじゃ無い、全く、お前らは本当によ」
「すみませぬ、ご主人」
「は、反省しています」
「そんなに急がなくっても、ご飯は逃げないよ?」
「そうですな! さぁ、速くお食事をしましょう!」
「そうだね、でも、その前に皆を呼ばないと、後は刀子さんだね」
「呼ばれないでも来るよ、大きな物音がしたし」
「あ、刀子さん、じゃあ、これで揃いましたね!」
俺達は全員席に着き、一斉に挨拶をして、食事を始めた。
皆、相変わらずガツガツ食うな。
「美味しい! すっごいあっさりしてる!」
「あぁ、お前らはあっさりしたのが好きだろう?」
「うん! やっぱり、濃い味よりも、この方が良いよ!」
「そりゃどうも」
サラはすごい勢いでばくばくと食べて行っている。
「止めろ! キキ! お前は油揚げは十分食べたじゃ無いか!」
「足りぬのじゃぁ! お主のもよこせい! キャン!」
「ふざけるなぁ! お前だけ、油揚げ4つあったじゃないか! 何でわっちのまで取ろうとしてるんだよ!
わっちの油揚げは2つしか無いんだぞ!?」
「どうせお主は油揚げは好きじゃ無いのじゃろう!? 前も言ってたではないか!」
「あれは! お前をからかうためであって! 本当に嫌いって言う訳じゃ! あぁ! 取るなぁ!」
「取ったのじゃ! キキの勝利じゃぁ!」
「止めろぉぉ! わっちの油揚げを返せぇ!」
うーん、キキの奴には油揚げを多くしたのに、それでもまだ足りないのか。
どんだけ食いしん坊なんだか。
「あぁ、駄目だよ、2人とも、喧嘩しちゃぁ」
「ですけど! こいつがわっちの油揚げを!」
「大丈夫だよ、はい、私のをあげるから、喧嘩はしたら駄目だよ?」
「あ、茜様! ありがとうございます!」
自分の油揚げをキャンに渡して、この場を沈めたか、あいつも油揚げは好きなはずなのにな。
いやぁ、何というか、お姉さんって感じがするな。
「茜は優しいね~」
「そうだな、お姉さんって感じだ」
「そうだね~、世話焼きのお姉ちゃんって感じだよね~」
「よし、っと」
「あぁ! 久里~!? 何で私の油揚げを取ってるの~!?」
「そうだな、あたしも好きになったからな、油揚げ、初めて食べたけど、美味しいし」
「そんなぁ~! それは、私の油揚げだよ~!?」
「今日、仕事をさぼっていた罰だ」
「あんまりだ~!」
うん、花木にはこれ位の罰が無いと駄目だろう。
サボりをすれば、それなりの罰を与えるべきだし。
「やれやれ、賑やかなこった」
「そうだな、相変わらず、ここは賑やかで飽きないな、これも、お前がいるからか?」
「違うだろう、こいつらが賑やかなだけさ」
なんせ、俺はこの会話に一切介入してないし、少し相づちは打ったけどな。
「そうか? そうは思えないけど、この料理をお前が作ったから、こんなに賑やかなんじゃ無いか」
「ふ、そうかもな、さて、じゃあ、俺達も食うか、ほら、刀子もしっかり食えよ」
「分かってるさ」
俺達は自分の食事を再会した・・・・・・・それから、しばらく時間が経ち。
俺達は全員食事を完食し、ごちそうさまと挨拶も終えた。
「それじゃあ、食器は私が洗ってきますね!」
「あぁ、頼む」
茜は食器をお盆に入れて、食器を洗いに行った。
「さてと、それじゃあ、俺は風呂の準備でも」
「圭介~・・・・」
「ん?」
久里は、いきなり俺の腕を掴んできた、それも、顔を真っ赤にしながら。
何だ? 明らかに普段通りじゃ無いな。
「どうしたんだ? 顔が真っ赤だぞ? 調子が悪いのか?」
「あはは、よく分からないけど、目の前がクルクル回ってるんだよ・・・・うへぇ」
久里は確実に表情が緩んでいる・・・・本当に、どうなってるんだ?
「もしかして、酔ってる?」
「そんなわけ無いじゃん! だって、お酒なんて飲んでにゃ~い!」
これは、確実に酔ってるな、あのクールな感じの久里がここまで感情表現豊かになるわけが無い。
だって、あの言葉だって、ものすごい笑顔で言ってたし。
「どうなってる?」
「あぁ~、そう言えば~、化け狸って油で酔うんだよね~、だから油揚げの影響かもよ~」
「あ、油揚げの影響だと? と言うか酔うんだな、油揚げで」
「正確には油だけどね~」
「うにゅぁ~、えへへ~」
う、うーん、久里が普段と様子がおかしいせいで、どうも調子なぁ。
こう言うとき、俺はどうすれば良いんだ?
「どうすれば良いんだ?」
「とりあえず~、布団に運べば良いよ~」
あぁ、布団にね、寝床に運べば良いんだな。
俺は久里を抱き上げて、部屋まで連れて行った。
そして、布団を敷き、そこに久里を寝かせた。
「うし、これで、後は布団を掛ければっと、お?」
俺が布団を掛けたとき、久里は俺の腕を思いっきり掴んでいる。
「どうしたんだ?」
「うーん、実はね-、あたし、悩んでることがあるのだ~」
「な、悩んでること?」
「うん、あたしは、あの子達の立派な頭領なのかな~って」
あの子達って言うのは、あの化け狸達のことか。
「あたしには、花木みたいな不思議な魅力も無いし~、皆には厳しい
皆、いっつもあたしの言う事を聞いてくれるけど、本当は内心怒ってるんじゃないかってね~」
「お前、そんなどうでも良いことを悩んでたのか?」
「どうでも良いとは何さ~、あたしにとっては、とっても大切なことなんだよ」
「あのな、あいつらはお前の事を慕っているさ、慕ってなければ、お前の体を心配してくれてない
慕ってるからこそ、あいつらはお前をよく見て、お前の為を思って、四宮神社に止まった方が良いと
そう言ってくれたんだ、だから、自信を持て」
「そうか~、そうだよね~、えへへ、楽になったよ、ありがとう」
久里は真っ赤な顔でそう言って、目を瞑り、眠った。
すぐに眠ったな、俺に悩みを相談して、気が楽になったのか?
まぁ、何だ、完全に事故だったが、結果オーライだな。
酔ってる状態での会話だし、覚えていないかも知れないが、こいつの悩みがこれで無くなれば良いな。
もし、記憶が無かったら、後で俺の方から言ってみよう
少なくとも、こいつがこんな悩みを抱えていたことは確かなんだしな。




