私に似合う服
「まぁ、あれだ、さっさと茜の着物を買うか」
「そうですね・・・おしゃれか・・・少し楽しみです」
「そうだね~、茜のおしゃれ、楽しみだな~」
「・・・まぁ、おすすめの店を聞いたが・・・何でお前までここにいるんだよ!」
あの店の会話の後、俺達が着物を買いに行こうとしたら、何故か花木の奴がついてきた。
自分がやっている店を部下達に完全に任せきってだ。
「そりゃぁね~、茜の新しい着物ってなると~、私が気にならないわけ無いからさ~」
「だからってな! てめぇ、自分の店を放棄してくるな!」
「大丈夫だってばぁ~、皆、笑顔で送り出してくれたじゃんか~」
「あれは、半ば諦めた笑顔だ、呆れられてるんだよ、お前は!」
何というか、花木を送り出すときのあいつらの目からは光は消えていた。
あの表情から察するに、こいつは毎日の様にやらかしている。
それでも、慕ってくれているというのだから、あの兎たちは凄い。
あれが花木の魅力とは思いたく無いが。
「ものすごく、諦めた表情でしたからね、みなさん」
「何というか、肉食獣を前に、逃げることを諦めた兎みたいな表情だったぞ?」
「そんなリアルな例えは良いよ~、きっと、大丈夫だよ~」
「確かにあいつらは優秀だが、川の濁りの元凶は水源にあるものだ
つまり、水源たるお前がしっかりとしてなければ、その内あいつらも濁るぞ!」
「大丈夫だよ~、その水源は私じゃ無くて、圭介達だからね~」
「いや、お前だろうが、どう考えても、妖怪兎の頭領!」
「だって~、私に影響を与えちゃってるのは2人じゃんか~、だから、水源は2人なの~」
完全に責任転換してきやがったぞ、この怠け兎!
何か知らんが、若干イラッときた。
「少しは、自分の地位を自覚しろ! 間抜け!」
「まるきゅ!」
「変わった悲鳴ですね、花木さん」
「い、いきなり頭を叩くのは良くないよ~、うん、それは駄目だと思うな~、私は」
「うっさい、お前はもう少し自分が誰かの上に立っている存在だと言う事を自覚しろ!
お前は少なくともその兎たちの一生を握ってるんだ、それを深く自覚しやがれ
てめえの行動全てをお前の部下は見てるんだからな」
「だ、大丈夫だよ~、皆、怠け者の頭領様でも一生付いていきますからって言ってくれてるからさ~」
部下にまで・・・怠け者だと言われているのか、こいつは・・・
「はぁ・・・それなのに治ってないのか・・・重傷だな、これは」
「あはは・・・そうですね、せめて、他の妖怪兎さんに言われたんなら、治してくださいよ」
「治してるよ~、今までは四宮神社でお昼は過してたけど~、今は主にお団子屋さんで過してるよ~」
「そこでグッスリと寝てたら・・・まるで何も治っちゃいないだろ、それに、今日に至っては出てきてるし」
「今日は~、私は頑張ったからね~」
こいつ・・・本当にもうそろそろ駄目かも知れないな・・・
「はぁ・・・お前、本当に大丈夫かよ、その内、マジに愛想尽かされるんじゃね?」
「そ、それは無いよ~・・・た、多分・・・きっと・・・」
「あまり自信が無いなら、しっかりとお仕事をすれば良いんじゃないですか?」
「でもなぁ~、今日はもう頑張ったし~、茜の新しい着物を見たいしなぁ~」
「・・・そう言えば、お前もあまり服装替わらないよな、相変わらずの服装だし」
「そうだね~、だってさ~、新しい服を買うのは~、面倒くさいし~」
「ファッションの欠片も無い兎だ・・・ってか、その服、どうやって集めてるんだ?
そんなまぁ、奇抜な服、ここら辺じゃうってないだろ?」
今更だが、花木の服は結構な洋風の服なんだよな、こっちの世界じゃ和服が基本だから
そんな洋風の服を作っている着物屋なんて何処にも無い。
・・・そう言えば、あの兎たちもそんな服装だったな。
「あぁ~、これはね~、私の部下達が縫ってくれてるんだよ~」
「お、同じのをか!?」
「まさか~、雰囲気は皆同じだけど、兎が刺繍されてる場所は違うよ~
ほら、この服は~、ここに付いてるからさ~」
普段からこいつの服を注意してみたことが無いから、何処がどう違うのか分からない。
「この服は~、羽衣が縫ってくれた服だね~」
「分かるのか?」
「刺繍の位置で分かるよ~、羽衣は~、わかりやすい性格だからね~」
「もしかして、ほ、他の兎の服とかも刺繍の位置だけで分かるのか?」
「勿論だよ~、私は~、皆に作って貰った服を~、しっかりと覚えてるよ~
あぁ~、最初に2人にあったときの服は~、変身したら付いてきた服だよ~」
妖怪は動物の状態から人型に変化したら、その時に服が出てくると。
・・・・・・今更だが、俺も服とかは普段から替えていない気がする。
「へぇ、同じ様な服でも、少しだけ違ったんですね」
「そうそう~、だから~、私は服を買う必要が無いんだ~」
「なるほどな、そう言う考えか」
「・・・そう言えば、修介様、私の巫女装束はどうしてあんなに多いのですか?」
「お前の仕事道具だからな、俺が縫った、お前が小さいときの服は、元々四宮神社に置いてあった奴だ」
「け、圭介様・・・私が知らない間に、私の為に巫女装束を・・・」
「そうだ、一応裁縫も出来るようでな、便利なもんだ」
「わ、私! やっぱり、巫女装束のままで良いです!」
「は? い、いや、お前のために着物をだな」
「圭介様が私の為に縫ってくれたこの巫女装束、私はこの服だけでも大丈夫だと! 今確信しました!」
・・・はぁ、ちくしょう、少しだけうるうるっとした目が俺を見ている。
うぐぅ、こ、こんな目で見られて、それでも無理に別の服を着ろとはとてもじゃないが言えない。
「・・・はぁ、分かった、分かった、だからそんな目で見るな」
「やっぱり、私の着物は、この四宮神社の巫女装束ですね」
「はぁ、そこまで自分のおしゃれを否定する女の子なんて、お前くら・・・いや、結構いたか」
考えてみれば、俺の周りで服を買えてる奴って、あまり居ないんだよな。
時音はたまに服装を変えているけど、あれは、多分神の力を使ってるだろうな。
神は自分の衣も自由に替えられる、それも、ちゃんと布だし、あれ、どうなってるんだろうな。
もしかしたら、最初に身に纏っていた衣が自在に変化して、色んな服に・・・便利だ。
「じゃあ~、結局、茜の新しい服は見られないんだね~」
「まぁ、俺は諦めないがな」
「ん?」
俺と茜は、その後花木と分かれ、四宮神社に戻った。
ちゃんと土産の団子は刀子に渡した、結構喜んでたな。
さて、それから1週間ほど経過した、今日はものすごくそよ風が気持ち良い晴天だ。
「ふぅ、今日も心地よい風が吹いていますね・・・そろそろ、梅が咲く季節ですかね」
「そうなったら~、文月山の妖怪達も集めて~、四宮神社でお花見をしよう~」
「お! それ良いじゃないか! 楽しみだ!」
「お花見! お花見!」
「まだ先だよ!? だから、桜を咲かせようとしないで! それと、梅だから!」
さて、今日も結構楽しそうに全員が遊んでいる・・・さてと、じゃあ、俺の取って置きを見せてやる。
「さて、お前ら! 今日は良い知らせがあるぞ!」
「何々!? お花見!?」
「だから、それはまだ先だよ! 落ち着いて!」
「良い知らせって何~?」
「それはな、ほら、お前らの服だ! お前らに似合いそうなのを、1週間掛けて作ってやったぞ!」
普段、こいつらは服を変えたりしないからな、折角春も近いんだ、ここらで心機一転って奴だ!
「服? 服なんて、適当な物を着てれば」
「馬鹿言え、男はそれで良いが、女がそれはちょっと駄目だ、人並みにはおしゃれをした方が良い」
「ほへ~、あ~、この兎の着物は私のかな~?」
「あぁ、お前は洋風だし、たまには和服でも良いんじゃ無いかと思ってな」
「満月が刺繍されてるね~、凄い力が入ってるよ~」
「とりあえず、お前らに俺が作った服を渡す、少しは気分を変えてみろ」
「そう言う事なら、神であるあなたも少しは気分を変えた方が良いんじゃないの? 圭介?」
背後から、時音の声が聞えてきた・・・何だ、来てたのか。
「あぁ、時音か、どうした?」
「ま、あなたが気分転換してないのに、皆がするわけ無いでしょ?
あ、それと、どうせなら、その服はお花見の時に来てみて頂戴よ、あと少しだし」
「まぁ、それはそれで面白そうだな」
「と言うわけで、文月山の妖怪達の服装も期待しなさい、私の方でやっとくわ」
「時音様、お裁縫できたの?」
「私を舐めないで、これでも裁縫は得意なの、ふふ、楽しみね、お互い」
「そうだな、ま、良い気分転換になるだろうよ」
「それじゃあ、またお花見に会いましょう」
「分かった」
そう言い残すと、時音はものすごい嬉しそうにしながら、姿を消した。
そんじゃ、俺ももう少し、茜達の服を手直しするとするかな。
と言うわけで、次回はお花見編となります、結構気が早い気はしますが
元々時間が色々と飛んでいる作品なので、大目に見てください。
それに、その場のノリで書いている作品でもあるので、もう軌道修正は不可能です。
と言うわけで、次回はお花見編となります! お楽しみに!
・・・まぁ、お花見と行っても、梅ですけどね。




