兎の団子屋さんのグータラ系店主
「うへへぇ~」
俺の目の前で、花木がよだれを垂らしながらグッスリと眠っている。
基本的に寝顔は可愛いって言うのは良く聞くんだが、こいつは寝ていても間抜けずらだな。
よだれ垂らして、グデーっと眠ってやがるんだから。
「花木さん、随分と熟睡してますね」
「あぁ、スゲー間抜け面だ」
「圭介様、それは言いすぎなんじゃ無いですか? まぁ、よだれを垂らしながら寝てるのは
その、はしたないような気はしますけど」
「むにゅぅ~、今日のご飯は高級お餅~」
で、見ている夢も、実にこいつらしいな。
この寝言から察するに、高級餅を食ってる夢なんだろうし。
「食いしん坊ですね、花木さん」
「だな、夢の中で食い物の夢とか、絵に描いた食いしん坊キャラだな」
「・・・く、くぅ・・・喉がぁ・・・お餅!」
「うわぁぁ!!」
夢の中で何かあったのか、いきなりお餅という絶叫をしながら起き上がった。
そして、すぐにキョロキョロと周りを見渡し始めた。
「・・・あぁ~、圭介~、茜~、今日も相変わらずだね~」
「あ?」
「えへへ~、そんな怒った顔をしないでよ~・・・むにゃぁ・・・」
・・・絶叫と共に起きたと思ったら、すぐにもう一回眠りに付くのか・・・
「・・・花木、起きてるんなら、起きろ!」
ちょっとイラッときたし、俺は軽く渇を入れるために、頭を叩いた。
「羊羹!」
「・・・・・・羊羹?」
「うぅ・・・あ、あれ? 圭介~、何で私の目の前に~? あぁ、そうか~、私、夢を見てるんだな~
きっと、羊羹で叩かれちゃって、気を失ったから・・・」
「それが夢だ、間抜け」
目を覚ますために、もう一度軽く花木の頭を殴ってみることにした。
「痛い! 凄くいたいよ~! 夢? 夢じゃないの~!?」
「夢じゃない、現実だ」
「・・・あ、あれ? 羊羹は? お餅は?」
「全部夢ですよ、花木さん」
「え~!? うそ~ 折角美味しいお餅の作り方が分かったのに~」
「じゃあ、その夢を頼りに作りゃ良いじゃないか、ほれ、あそこで部下達が作ってるぞ?」
「そうだね~、よ~し、折角だし、頑張っちゃうよ~!」
目を覚ました花木の一言は必死に団子を作っていた部下達に聞えたようで
部下達はものすごい驚いた表情と、嬉しそうな表情を見せて、花木の方を見た。
「と、頭領様が本気を出すって!」
「わぁあ! 今日はお祭りだぁぁ!」
「お赤飯で作ったお餅を作るよ!」
「そうだ! 作ろう!」
ちょっと、自分たちの頭領がやる気を出しただけで、この盛り上がり具合か。
凄いな、一体、どんなことになるんだ? 花木の本気って、どんなだ?
「・・・と思ったけど、炬燵から出るの・・・しんどいなぁ~」
「そ、そんな! 折角頭領様の本気を見られると思ったのに!」
「あぁ、もう駄目だ! おしまいだぁ! 私達はもう駄目なんだぁ!」
・・・一体、こいつの本気って・・・何なんだ? 何? 戦争でもしてるのか?
でも、部下達がこんな態度を取っているのを見ると、見たくなってしまう。
「おい、花木、折角来たんだし、ちょっとお前の本気って奴を見せてくれよ」
「そうですよ! 花木さんが考えた新しい作り方ってのを見てみたいですし!」
「うーん・・・分かったよ! 2人が言うなら、私の本気を見せちゃおうかな~!」
「おぉ!」
俺達の言葉でやる気を取り戻した花木は、素早く炬燵から出て、隣の部屋に移動した。
「何だ? 別の部屋?」
「着替えるんだ! 頭領様がお着替えになるんだ!」
「凄いぞ! 本気の頭領様なんて中々見られないよ! 羽衣先輩にも言ってくる!」
「私も! 私は卯実お姉様に!」
「あたしは兎梨様に!」
・・・花木は頭領様、羽衣は羽衣先輩、卯実は卯実お姉様、兎梨は兎梨様・・・
何か、あの3人は結構な呼ばれ方をしているな・・・だが、羽衣、なんであいつだけ先輩なんだ?
何か知らんが、羽衣は何か不憫な気がするぞ。
で、俺達のいる部屋から出るときに、兎の少女達は何故か、俺達にお辞儀をして出て行った。
それから、少しして、こちらに走って向ってくる、足音が聞えてきた。
「と、頭領様が本気だって!? 本当に!?」
「はい! 凄い本気の目でした!」
最初にやって来たのは羽衣だった、羽衣を連れてきた子は、かなり嬉しそうに羽衣を引っ張っている。
「羽衣先輩! 間に合って良かったです!」
「本当にね! うん、頭領様の本気を見れるなんて、嬉しいよ!」
「え、あ、あの、卯実お姉様」
「何をゆっくり小さな声で話してるの? ほら、速くしなさい、見逃しちゃうでしょ!」
「す、すみません!」
今度は卯実か、しかし、連れてきた奴に少し怒りながら来たな。
そう言えば、あいつはあんな性格だったな・・・羽衣に対しては。
「ひゃふぅぅ! 頭領様の本気! 見られるぞ~!」
「あぁ! 兎梨様! 引っ張らないで! み、耳が~ 耳が取れちゃいます~!」
兎梨は呼びに行った部下の耳を引っ張りながら登場した。
あいつ、嬉しかったら、相手の耳を引っ張る癖でもあんのか?
「よいしょっと・・・あれ? 羽衣、卯実、兎梨、どうしたの? そんな嬉しそうな顔しちゃってさ~」
「と、頭領様! ほ、本気を!」
「うん~、私も、たまには頑張らないとね~」
そう呟きながら、背伸びをして体を解している。
準備体操までしている花木を見るのは、これが初めてかも知れないな。
さて、一体、どんな感じで餅を作るんだ? 楽しみだぞ。
「よいしょ・・・それじゃあ、頑張るよ~」
花木を期待の眼差しで見ている部下達、何故か、わくわくドキドキという感じな物が見える気がする。
「はいはいは~い」
「おお、速いな」
花木は素早い動きで団子をいくつもいくつも分け始めた。
「それじゃあ、この間に、羽衣は他の子と協力してお餅をついてね~」
「あ、はい! 分かりました!」
「で~、卯実は羊羹を作ってよ~」
「よ、羊羹ですか!? ですが、作り方なんて・・・」
「じゃあ、お団子を練ってよ~、私が羊羹を作るからさ~」
「知ってるんですか?」
「夢で見たから大丈夫~」
何だ、その訳の分からない理由は・・・そんな理由で羊羹とか作れるのか?
「分かりました、お団子を練っておきます」
「それじゃあね~、兎梨は羽衣が作ったお餅をえっと・・・ちょっと待ってね」
花木が羽衣が付いている餅間に、少しだけ餅を出して、丸めた。
「これ位で、このデコボコが無くなるまでちゃんと練ってて~」
「わかった! 頭領様の言うとおりに頑張る!」
「うん~、他の子達は、私達の指示に従って、各々で動いてよ~」
「はい! 分かりました!」
花木の指示が一通り終わった後に、すぐ全員が行動を始めた。
3人の指示は結構的確で、かなり効果的に効率的に子とを運んでいる。
だが、1番不安なのは花木だな、夢で見たからって、羊羹の作り方が分かるわけが無い。
「凄い速いですね、でも、花木さんは大丈夫でしょうか・・・作り方は夢で見ただけって・・・」
「だな、不安でしか無い」
「ふんふん、ふふ~ん」
だが、そんな心配は必要なかったようだ、花木は作り慣れているかの様に手慣れた動きで
羊羹を作っている・・・あり得ないぞ・・・これは・・・
「す、凄いです・・・ほ、本当に夢で見ただけなんでしょうか・・・迷いが・・・ありませんよ」
「あぁ、完全に作り慣れた奴の動きだろ、あれ」
そして、花木の指示で始まった料理は、少しの間で完成した。
「完成だよ~、あ、圭介~、茜~、私の羊羹、食べてみてよ~、味は保証するよ~」
「あ、あぁ、分かった・・・」
花木が差し出してきた羊羹は形は完全に羊羹のそれだが・・・
味はどうなんだ? 夢で見ただけという曖昧な状況だから、怖いが。
俺と茜はお互い顔を見合わせて、うなずき、その羊羹を食べてみた。
「う、美味い・・・だと・・・」
その羊羹はかなり美味いもんだった、しかし、普通の羊羹よりも味は若干控え目だな。
「凄いです・・・え? 本当に夢で見ただけなんですか?」
「そうだよ~」
「は? そんな馬鹿な事が・・・」
「あるんですよね、これが、だって、このお店のお団子とお餅以外のお菓子は
全部頭領様が夢でみた物を作ってるんですから」
「はぁ!? そ、そんな馬鹿な事が!」
「凄いでしょう、私達の頭領様は!」
「まぁ、私は夢で見た物を作っただけなんだけどね~」
夢の力って・・・スゲーな・・・俺がそんな事を感心していると
ドンドン他の料理も完成していった、そして、花木はその完成した餅にその羊羹を入れ始めた。
更に、それを団子で包み、そこにチラホラと羊羹を混ぜ、軽くきなこをかけた。
「う~ん、完成だよ~ 私が夢で見た美味しいお菓子! 羊羹団子餅~」
「はぁ・・・本当に新作のお菓子を作りやがったぞ、こいつ」
「美味しいんだよ~食べてみてよ~」
「あぁ、じゃあ、1つ貰おう」
「私もいただきます!」
花木が夢を見て作った団子か・・・俺は少し恐る恐るそれを食べてみた。
・・・最初のきなこが美味しいな、そんで、団子の口当たりも良い。
で、奥まで噛むと、そこから羊羹の味が出てくる、だが
この羊羹の味と、きなこの味が良い感じにマッチしてる・・・
そうか、あの控え目の味はきなことマッチさせるためか・・・
「お、美味しいです! 凄い! こんなの初めて食べました!」
「あぁ、美味いな、きなこと羊羹の味が美味い具合に合っているぞ」
「えへへ~、褒められちゃった、嬉しいなぁ~・・・」
そこまでいうと、花木は一気にガスが抜けたように、気が抜けた表情に戻った。
まぁ、これが普段のこいつだったな、さっきまでのやる気に満ちあふれた表情がおかしいんだ。
「あ~う~、ふへぇ~、眠くなってきたよ~・・・私、炬燵に戻るね~」
「は、はい! ありがとうございました! 頭領様!」
気が抜けた表情の花木は俺の前に座り、再びグデーっと机に顔を付けた。
「・・・まぁ、あれだな、こっちの方が花木らしいな」
「そうですね、やる気に満ちあふれている花木さんも素敵ですけど、やっぱりこんな感じで
あまりやる気の無い姿が花木さんらしいです」
「はぅ~、目の前でそんな照れることを言わないでよ~」
ま、あれだな、ガス抜きって奴は大切だというのが分かったな。
普段から本気じゃ、アイデアが降ってくる夢を見ないかも知れないからな。
「それじゃあ、頭領様! これ、新商品って事にしてきますね!」
「うん~、そういうのは、羽衣に任せてるし、自由にして良いよ~」
「それじゃあ! 商品にしてきます! これでお客さんも喜んでくれるぞー!」
「兎のお団子屋さんは、今日も大忙しだね~」
「あぁ、そうだな、ま、お前はだらけてるが」
「誰か、息抜きしてる方が良いんだよ~、そうしないと、臨時の時に対処できないからね~」
「ま、それもそうだな、ま、お前の場合は切り札っぽいがな」
「じゃあ、切り札は~最後の最後まで温存してる物だよ~」
ああ言えばこう言う・・・まぁ、今日は良いだろう、働いたしな。
それにしても、本当にこいつがいるだけで、兎たちは嬉しそうだな。




