茜の料理!
そろそろ晩飯を作る時間帯だな・・・さて、茜も丁度近くに居るし、頼んでみるか。
「なぁ、茜、頼みたいことがあるんだが」
「どんな頼みでも、どんと来て下さい!」
茜は自分の胸に力強く手を当て、そう堂々と言った。
「じゃあ、茜、今日の晩飯、お前が作ってくれ」
「!!」
茜は俺のお願い事を聞き、もの凄く驚いたような表情を見せた。
それはもう、頭の上にビックリマークでも出ているような勢いでビックリしている。
声には出していないが、表情だけで分かってしまう程にだ。
「い、良いんですか?」
そして、茜はその後すぐにキョトンとした表情で俺に上目使いで良いのかを聞いてきた。
こいつ、いつの間にこんな行動を覚えたんだ・・・っと、思ってみたが、考えてみれば
結構な頻度で上目使いで色々と聞いてきてたな、茜は、それは幼い頃から変わってない。
まぁ、身長的に考えて、上目使いになるのは仕方ないんだけど・・・今回もな。
「あぁ、お前も結構長い間料理の勉強してたし、そろそろ作れるのかどうかを知りたいしな」
「はい! 任せて下さい! 今まで、避けられてきた私の料理! 今まで避けてきたのを後悔するほどに
とっても美味しい料理を作って見せます!!」
睦月が居なくなって以来、ここまでテンションを上げていなかったが、
やっとこんなテンションになってくれたか、ま、睦月が帰ってきたからだろうな。
それにしても、やっぱり茜はこの笑顔がよく似合う・・・そりゃあ、軽く罪なくらい眩しい笑顔だしな。
久々にこの笑顔を見られて、俺は何だか嬉しいと感じてしまった。
「それでは! 最高の料理を振る舞って見せます!」
茜はそう言い、すごい勢いで台所の方に走っていった。
少し不安だが、茜に全部任せてみるかな。
「茜、随分と嬉しそうに走って行ったわね・・・」
「あぁ、多分、俺達に料理を振る舞えるのが嬉しいんだろう・・・当然、その中にはお前も居るぞ、睦月」
「当たり前じゃないの、私は茜のお姉さんよ・・・まぁ、今は見た目は妹なんだけどね」
「じゃあ、私もあの茜って人の妹だね」
睦月は茜が料理をしてくれるとわかり、かなり嬉しいようだな。
「・・・あ、茜の・・・りょ、料理か・・・茜の・・・ねぇ・・・」
しかし、刀子は茜の料理にトラウマがあるせいか、あまり嬉しくは無さそうだな・・・
「大丈夫だって、もう、あれから6年だ、流石に茜の料理も上達してるはずだって」
「でも、その6年の間で、実際に作るのは、今日が初めてだろ? だ、大丈夫・・・か?」
ここまで、トラウマになっていたとは・・・自分がやったことだとは言え、可愛そうな事をしたな。
「まぁ、大丈夫だって! 多分、今日がそのトラウマの最後に日だろうし」
「くぅ・・・だと、良いんだけどな・・・」
やっぱり、不安は拭い切れていないようだな、まぁ、うん、炭だからな・・・あの時食べさせられたのは。
ま、まぁ、流石に今回ばかりは炭になるなんてあり得ないだろう。
「あれ? 火加減ってどうだったかな・・・確か、圭介様とお師匠様はこうしてたような・・・
あぁ! 火がぁ! な、何とかしないとぉ!」
「なんだ! 火がどうした!?」
「あ、いえ、大丈夫です! すぐに元に戻りました・・・はぁ」
「あ、あぁ、そうか、それは良かった・・・」
・・・大丈夫・・・だよな・・・。
「大丈夫・・・なのか?」
「き、きっとあれだ、最初、火を付けたときに凄く火が出ることあるし、それだろ・・・多分・・・」
「だと・・・い、良いんだけどな・・・」
・・・だ、大丈夫だ、きっと大丈夫だ、あれだ、多分ちょっとだけ最初の火加減を失敗しただけだ。
信じろ、自分の巫女を信じるんだ・・・俺があいつを信じないでどうするよ・・・
「圭介、顔が真っ青よ」
「あ、あぁ、うん、気にすんな」
「・・・何か騒がしいと思ったら・・・もしかして、茜に料理を?」
俺達が話をしていると、後ろから葵の声が聞えてきた。
「葵、ま、まぁな、茜にも料理に挑戦して欲しかったし」
「ま、まぁ、姉としては嬉しいんだけど・・・大丈夫かしら」
「まぁ、あれだよ~、きっと、茜ちゃんも頑張るってばぁ~」
「あぁ、そうだな・・・所で花木、葵、なんでお前らはここに居るんだ?」
「私は勿論お泊まりだよ~」
「許可したっけ?」
「許可はきっといらないって思ってね~」
・・・た、確かに、花木は毎日の様に四宮神社に泊まってるからな、今更許可はいらない気はするがな。
「いや、一応一言くらい言えよ、なんでさらっと奥の部屋にいるんだよ」
「あはは~、私のお部屋まで作ってくれてるのに、何を今更~」
「そう言えば、お前の部屋を作ってたな、いつも兎状態で俺の寝処で寝てるから忘れてた」
「あそこが1番落ち着くからね~」
しかし、流石に泊まった日には例外なく潜り込んでくるのは困るんだよな。
寝返り出来ないし、何か熱いしな、特に夏場とか。
「兎は体温が高いんだ、せめて夏場は自分の部屋でだな」
「無理だね~、9年間の癖だからね~」
そう言えば、9年前からこいつは結構俺の布団に潜り込んで居やがったな。
まぁ、人間状態で潜り込んでないだけ良しとするかな。
「くわぁ~~・・・ご主人、おはようございます・・・む! き、貴様! 兎め! またご主人の近くに!」
「キキちゃん、おはよう~、あ、こんばんはだったね~」
「ま、またしてもキキを侮辱して! 許さないぞぉ!」
キキの奴、やっぱり喧嘩っ早いな、特に花木とキャン相手だとすぐに喧嘩になるし。
「喧嘩をするなよ」
「は! し、失礼しました!」
「全く、すぐに喧嘩してよ、あと、キキ、今のは侮辱じゃないだろ、あれは普通に言い直しただけだ」
「す、すみません・・・またキキは早とちりをしてしまって!」
キキが深々と俺と花木に頭を下げた。
それにしても、今回は人型で起きてきたんだな、練習か?
まぁ、まだ人型にはなれていないみたいだがな。
「キキ、少し汗かいてないか?」
「だ、大丈夫ですよ! 人型でいるのが辛いとか、全然そんな事ありませぬ!」
俺は汗を書いていることを聞いたんだがな、やっぱり、隠し事が下手な奴だ。
にしても、あれだな、きつね色の長い髪、きつね色の目、外側はきつね色、内側は白くて
何かもふもふしている耳、根元がきつね色で、先端が白色のもふもふしている尻尾。
そして、茜が幼少期に着ていた巫女装束・・・・・・完全に狐である事を隠せていないな。
「ま、人型で居るのは辛いだろうし、戻っても良いんだぞ?」
「いえ、だ、大丈夫です! キキはこの程度乗り越えて見せまする!」
無理ならゆっくりと練習すれば良いのにな。
「・・・え? 何この幼女、え?」
「むむ! 幼子に幼子などと言われる筋合いな・・・こ、この・・・この、何処かで嗅いだような匂い・・・
も、もしや、あなたは! 睦月さんでありますですか!?」
「おぉ、よく分かったわね、やっぱり野生の勘という奴かしら?」
「では、や、やはり、睦月さんと!? お、おぉ! キャンが気付いたら喜ぶに違いない!」
「もう気が付いてるよ、馬鹿狐」
キキが出てきて、少ししてから、その後ろからキャンが姿を現した。
しかし、寝起きでいきなりキキに対して喧嘩を売るか。
「キャン! お主も起きていたのか! それよりもだ! 馬鹿狐とはなんだ馬鹿狐とは!
キキは馬鹿狐ではない! お前こそ馬鹿犬ではないかぁ!」
「犬じゃないって言ってんじゃんか! わっちは狼じゃぁ! 2度と間違えるな! この馬鹿!」
馬鹿は良いんだな、と言うより、馬鹿よりも犬と言われた方がイラッときたんだろう。
しかし・・・銀色の茜と同じ場所を止めた髪、外側が銀色で、内側は白いもふもふした耳。
銀色の目、銀色の尻尾に、少しだけ白っぽい先端、そして、茜の幼少期の巫女装束
まぁ、色はキキと差別化するために本来白い場所はグレー、赤い場所は朱色なんだがな。
こうみてみると、あれだな、完全に姉妹だよな、この2人は。
顔はあまり似ていないが、性格とか、大まかな格好とかはそっくりだ。
「何を!? 馬鹿って言った奴が馬鹿だって聞いたぞぉ!」
「ならやっぱりお前が馬鹿なんじゃないか! 馬鹿バーカ!」
「なんじゃと! この馬鹿狼!」
「だから狼じゃな・・・! お、狼・・・」
「そうじゃ! この馬鹿狼!」
「・・・ふ、フン、きょ、今日は、睦月さんも帰ってきたし・・・
す、少しだけ、き、機嫌が良いから・・・この辺で、許してやる」
「うーむ、まぁ、そうだなぁ、ご主人の前で喧嘩は良くないものな」
で、何だかんだで仲直りだ、あんなに喧嘩していたくせに、仲直りするときはあっさりだな。
にしても、キャンの奴、少しだけ顔が赤いな、狼と言ってくれたのが、嬉しかったのかもな。
「あ、あれが・・・キャン・・・何だか、心なしか、キキと似ている気がするわね・・・」
「俺も、そう思う」
「私もそう思うよ~、姉妹って感じだね~」
「皆さーん! ご飯出来ましたぁ!」
「な、この声は、茜様・・・もしかして、今日の料理は・・・」
「あぁ、茜の特製料理だ」
茜がかなり沢山の料理を台所から運んできた。
「はい、出来ました! 今の私が作れる最高傑作です! って、あ、2人とも仲直りしたんだ」
「茜様、その、騒がしくしてしまって・・・その・・・」
「大丈夫だよ、私は賑やかな方が好きだから」
「あ、茜様・・・あ、ありがとうございます!」
やっぱり、キャンは人型だろうと茜にべったりだな・・・何か、茜がお姉さんに見えるな。
「ふーん、キャンは茜の事を様付けで呼んでいるのね」
「あぁ、何か、未だになれないんだけどな、茜が様付けで呼ばれているのを聞くのは」
「・・・あと、キキは何であなたのことをご主人って呼んでるの? 様とか付けそうだけど」
「キキもご主人の事を様を付けて言いたいんだけど・・・ご主人が、様付けは何か辞めろと」
「こんな格好で、あんな見た目の子どもが俺にご主人様とか言ってたら・・・何か、あれだろ?」
「ま、まぁ、そうよね、名前の後に様ならまだしも、ご主人様だったら・・・ちょっと引くわね」
「だろ? だから、せめて茜みたいに様付けにしてくれと言ったが、ご主人と呼びたいって言うから」
「なるほどね、だからご主人様じゃなくて、ご主人って訳か、納得したわ」
「じゃあ、納得してくれたところで、茜の飯を食うとするかな」
「そうね、いただきましょう!」
俺達は全員で挨拶をして、茜が作ってくれた料理を食べる事にした。
「どうですか!? か、感想をお願いします!」
「む、むぅ・・・なんというか・・・美味しいと言えば美味しいし、美味しくないと言えば美味しくないような」
「え? つまり、どっちなんです?」
「そ、そうね・・・この味は・・・普通ね、この言葉が1番合ってるわ」
俺と睦月の間の評価は、そこまで高くは無いが、それでも、成長を感じる味だな。
なんせ、ちゃんと火加減できてるしな。
「ふ、普通・・・うぅ、まだまだ修行が足りないなぁ・・・」
「いえ! 茜様のお料理はとても美味しいですよ! それはもうとっても!」
「あ、ありがとうね、キャンちゃん」
「まぁ、最初から比べるとかなり進展したんだ、大丈夫だ、このまま頑張れば、良いさ」
「そうよ、茜、あなたには料理を教えてくれる先生が沢山居るんだから、頼んでくれれば教えるわ
ま、私が料理の師匠もやってあげるわよ」
葵が茜の料理の師匠もやってくれると言っているが、正直、料理は俺が教えた方が良い気がするな。
なんせ、俺は茜と毎日この神社で過しているんだ、時間も余裕がある。
葵は別の家に住んでいるし、毎日通うのはしんどいだろうしな。
「まぁ、茜の料理は俺が教えるって、毎日一緒だしな、修行のついでとかで教えてやるよ」
「け、圭介様・・・あ、ありがとうございます!」
「まぁ、確かにそっちの方が効率が良いのよね・・・仕方ない、ここは譲るわ」
どうやら、葵も納得はしてくれたようだ。
「うぅ・・・お、美味しい・・・これが、茜の料理か・・・人間の成長は、凄い物だなぁ・・・」
まぁ、俺達の評判はそこまで高くなかったが、刀子だけは泣きそうなくらいに美味しそうに食べている。
「と、刀子さん・・・」
「茜、成長おめでとう! これからも頑張ってくれ!」
「は、はい!」
最後に刀子が茜に応援のエールを送った、そして、茜はかなり嬉しそうに返事をした。
うん、これで、茜のやる気も上がるってもんだな、さてと、明日から、茜に何をさせるかを考えるか。
何だか、こうやって何をさせるかを考えるのも、随分久し振りな気がするな。
そう言えば、四季とサラは何処行ったんだが・・・後で、探しに行ってみるか。




