不思議な雲の正体
山明神社に着くと、そこには山の妖怪達が集合していた。
かなり切羽詰まっているような雰囲気だな。
「何で山明神社に?」
「あ、親分様来てくれたんですにゃ!」
「あぁ、あんな目立つとな、そりゃあ、来るさ、で、あれは何だ?」
「ケロ、それがケロ達にも分からないケロ」
「だから助けを呼ぶためにここに来たんだ、それで、時音達には依頼をしたんだよ」
「それじゃあ、時音様達はあの雲の方に行ったんだね!」
だから、時音達はここに居ないのか・・・にしても、なんで天狗が居ないんだ?
他の妖怪達は集合しているのに、天狗達だけは何処にもいない。
そう言えば、あの雲が出ている辺りには、天狗達の里があった様な気がする。
もしかしたら、天狗達はもう・・・はぁ、急がないとな。
「とにかく、俺たちもあの場所に行くぞ!」
「はい!」
「うん!」
俺たちは急いで山明神社を出て、あの雲が掛かっている場所に急いだ。
この山の道順は何度も来ているからすぐに分かるから、あまり時間は掛からなかった。
そして、到着した天狗の里は・・・特に何も変化が無かった。
「な、何も変化が無い・・・何でだ?」
「よく分かりませんけど・・・そう言えば、あの雲、内側から見ると、結構綺麗ですね」
「そうだね! 何だか、色んな雲の形に見える!」
「・・・もしかして、何も無い・・・?」
俺は別に何も起きていないと言う事を知り、少し安心したが、なんでこんな雲が出ているのかという
疑問の方が、かなり上になった。
俺が頭を軽く抱えながら考えていると、大天狗が住んでいた場所から、擂と楓が姿を現した。
「ふむ、今日は随分と来客が多いですね、あなた達も時音様と同じ理由で来たのですか?」
「あ、あぁ、あの雲が気になってな、で、何だ? あの雲は、訳知り顔だが?」
「はい、全部分かっています、あの雲は、試験です」
試験だと? 一体何の試験だ? あんな変な形の雲を出して・・・
「試験・・・ですか、どんな試験なんですか?」
「そうですね、天狗が大天狗になるための試験です、その結果、あんな雲が出来ました」
「えっと、その、わ、私がやっちゃったんですよ、あの雲は・・・」
楓がかなり申し訳なさそうに頭をかきながら、俺たちに少しぺこぺこと謝罪をした。
「お前が? 何であんな雲を?」
「その、ですね、大天狗様になる試験って、どうやら風を操って、雲を自由な形にする試験でして
それで、私は雲をこの辺り一面に集めて、色々とやってたんですよ・・・」
「本来はこの試験はここまで酷くはならないんですけど、この子の能力が予想以上でして」
「だからこんなに雲が?」
「はい、やはや、かなりの逸材ですよ」
「はぁ、そうなのか・・・まぁ、何か大きな事があったわけじゃないようで良かった」
「あはは・・・その、本当に! すみませんでしたぁ!」
楓が俺たちに向って、全力の土下座をした。
「ちょ! そんな土下座なんてしないでも!」
「いえ、私のせいでご迷惑を掛けてしまって! 何でもします! 何でもしますからお許しください!」
「楓、これは私の責任ですよ、あなたのことを少し過小評価しすぎていたようです
謝罪はこの擂が行ないます、なので、楓のことは許してあげてください」
「そ、そんな! 擂様が謝るような事ではありません! こ、これは私が!」
うーん、2人が自分の責任だと言って、お互い退く気配は無いな。
何か、いい上下関係・・・なのか? まぁ、うん、理想的な上司ではあるな、擂は。
「あっと、そんなに必死に謝らないでも良いさ、大丈夫だ、その事はちゃんと伝える」
「あぁ、すみません、それでは、今回のこの雲はもう終わらせますね、楓」
「はい、分かりました」
楓は擂の指示を聞き、手を合わせ、目を瞑ると、楓を中心に強い風が吹き始めた。
「つ、強い風が・・・」
「おぉ、夏とかだったら涼しいかも!」
そして、その強い風が一気に吹き抜けると、周りにあった色んな雲が一斉に散らばった。
それはほんの一瞬だったが、周りの色んな形の雲が一斉に風に吹かれ
その隙間から太陽の光が差す様は、もの凄く美しく、何処か儚い感じだった。
「雲が・・・一気に晴れた」
「凄いなぁ! 綺麗だよ!」
「うん・・・でも、あんな色んな形の雲がすぐに崩れて・・・何だか、儚さを感じるなぁ・・・」
「形がある物が壊れるのは当たり前なんじゃ無いの? その当たり前が綺麗に感じる最後なら
それはとても良いことだとあたいは思うなぁ」
「・・・そうだね、そんな考え方もあるよね、うん、形は崩れないとまた新しい形は出来ない・・・
もしかしたら、当然の事なのかも知れないね」
「そうそう! だから、綺麗って方を優先してみるのが1番だよ!」
「うん!」
まさか、あの水希がこんな良いこと言うなんてな、やっぱり、考え方って大事かも知れない。
確かに、形がある物はいつか壊れる、だから、その壊れる瞬間が美しいと感じるのなら、それが1番か。
「さて、それじゃあ、俺たちは四宮神社に戻るか、そんで、村の人達に事情を話しに行くとするかな」
「「はい!」」
「ぞれじゃあ、楓、これからも頑張れよ」
「えぇ! 勿論です!」
俺たちは楓と擂に軽く挨拶をして、四宮神社に戻った。
そして、睦月達に事情を説明し、手分けして、村の住民に事情を説明することにした。
山明神社に集まっている妖怪達には時音達が説明してくれるだろうしな。
まぁ、何にしても、何事も無くって良かった。




