今の私達
「ぜぇ、ぜぇ」
「はぁ、はぁ、た、助かったぁ・・・」
茜と水希は長い間戦ったが、結果は引き分けだったな。
茜が水希の攻撃を完全に防いでいたし、無理矢理勝敗を決めるとしたら、茜の勝ちか。
「くそぅ・・・ま、また負けたぁ・・・」
「そ、そんな事・・・ひ、引き分け・・・だよ」
「いや、か、勝てなかったら、あたいの、負け・・・ぜぇ、ぜぇ」
「まぁ、茜は防ぐのがもの凄く得意だからな、水希と違って」
水希は6年間の修行の結果、ひたすらに攻撃することが得意になっている。
逆に、茜の方はと言うと、防ぐことに特化している。
2人は真逆の接近能力があると言えるだろうな。
「しかし、茜、何でそんなに守るのが得意になったんだ?」
「私は守るために強くなるって、決めたから、だから、守るのを鍛えたんです」
「はぁ、全く、前から攻撃もしないと守れるものも守れないって言ってるのに、強情な子ね」
「私は守るために強くなる、どんな攻撃も防げるようになったら、きっと、私も誰かを守れる筈です!」
茜は守ることを極めるつもりなんだろうか、まぁ、確かに俺がくれてやった刀だと
守るだけで相手を倒せる可能性もあるからな、相手が妖怪や幽霊だったらな。
「・・・なぁ、茜、1つ聞いて良いか?」
「何ですか?」
「俺がくれてやった刀、効果は覚えてる?」
「勿論です、妖怪と幽霊に対して絶大な威力があるんですよね、お祓い棒と同じで」
「確かにそうだな、でも、もう一つある・・・覚えてるか?」
「も、もう一つですか・・・」
茜は真剣に思い出そうと努力している、でも、さて、覚えているだろうか。
もう、7年も前の事だったし、覚えていなくてもおかしくはないな。
「・・・お、思い出せません、何でしたっけ?」
「そうね、確か切りつけた人間の戦意を削ぐんだったかしら?」
「正解だ、流石は睦月、良く覚えてるな」
「あ、あぁ! そう言えば! そんな効果があるって聞いた気がします!」
茜は完全に忘れていたようだが、睦月は覚えていたのか。
流石は茜と一緒に居ただけはあるな。
「じゃあ、人間相手に使っても!」
「そうそうだ、相手は傷付かない、戦意を削がれるだけだ」
「な、なるほど・・・なら、今度水希ちゃんと戦う時は、攻撃もしてみますね!」
「あぁ、それで良い」
これで、茜は少しは攻撃に転じることもあるだろうな。
「便利な物ね・・・じゃあ、私も水希に軽く聞いてみましょうか・・・何で攻撃しかしないの?」
「あたいが攻撃しかしない理由は・・・守るって言うのがよく分からないから! あ、です!」
水希が普段使わない敬語を使い、少しだけ失敗して、すぐ訂正した。
やっぱり、普段使わないと失敗するんだな・・・それにしてもだ。
6年も一緒に居るのに、まだあまり敬語は上達していないと。
しかし、時音はそんな事は良くあるのか、特に訂正させることなく話を進めた。
「守るって言うのがよく分からないって言うのはどういう意味かしら?」
「師匠が言うには、守りなんていらんのや、攻撃や! 攻撃こそ全てやで! って言ってたからです!」
水菜・・・師匠としてそれはどうなんだよ・・・
「どういう意味かしら? 水菜?」
「う、うちは自分の戦闘の仕方を教えただけなんやって! そないな目でうちをみんといてぇな!」
「私も茜に攻撃こそ全てって教えたら、変わるのかしら?」
「私は変わらないと思いますよ? 守るのが大切だって思ってますから」
「まぁ、それもそうよね、もしそれで変わるんなら、もう変わってるでしょうし」
「そうですよね」
茜と葵が少しだけ笑い始めた。
「まぁ、そんなに深く追及しないでも良いだろう、さて、そろそろ次だ、依頼に移ってくれ」
「はい!」
「分かった!」
俺の指示を聞き、茜と水希は急いで依頼を確認して、神社から出て行った。
「なんで水希まで一緒なの?」
「あぁ、競争させてるんだよ、依頼の解決速度を、その方がはかどるだろ?」
「まぁ、確かにそうね」
「ふんふん、あの2人はライバルなんだね!」
「そうだ、やっぱりライバルはいた方が面白いだろ? まぁ、あの2人はライバルっぽくないけど」
「そうか? 私としては、出会って1度は戦ってるから、十分ライバルって感じだけど?」
「それは水希が一方的に喧嘩をふっかけてるだけで、茜は戦おうとはしていない」
茜はいっつも先に攻撃されているからな、もしかしたら、それもあって防御が得意になったのかもな。
まぁ、弟子と師匠は似るって言うしな、水菜と葵もいつも水菜が先に攻撃してるし。
「ようし、2人の戦いも終わったし、うちらも戦おか?」
「いやよ、私は茜の修行をしてあげたから、少ししんどいの」
「修行って、ちょっと攻撃しかけただけやないか、あの程度でへばるわけ無いやろ!」
水菜が葵に対して攻撃を仕掛けたが、葵はその攻撃をすんなり回避した。
そして、手に持っていたお茶をもう一度啜った。
「私は今はのんびりお茶を飲みたいの、戦いたい気分じゃないし」
「何や、つまらんなぁ・・・」
「変わらないわね・・・そう言えば、花木達はどこにいるのかしら? お店?」
「あぁ、花木は店だな、傘下の兎たちがドンドン人間になれるようになって来て大変だって嘆いてる」
睦月がいなくなってから、1年後辺りかな、あいつの傘下の兎たちがドンドン人間になり始めたのは。
今では殆どの傘下が人間状態で活動していて、色んな奴が団子屋を開いている。
そして、その団子屋の売り上げの殆どは花木に来ているらしいな。
「ふーん、そうなの」
「今じゃ、花木は大金持ちだ、殆どの兎が進んで花木に売り上げを渡してる」
「売り上げ? なに? その子達がお店でもしてるの?」
「あぁ、団子屋だ、村も結構大きくなったし、色んな場所に店があるんだよ」
「え? あまり村の全部を見たわけじゃないけど、多いの?」
「あぁ、文月山の近くまで村が広がった、まぁ、これは花木のお陰なんだけどな」
「ど、どういう意味よ」
「花木が金を村に使って、ドンドン大きくしてるんだ、花木が言うにはお金なんていらないからね~
とのことだ、全く、変な事を言う兎だよ」
「相変わらず、変なところが大胆なのね・・・流石は変な兎・・・」
まぁ、実際花木って優秀なのか無能なのか分からないんだよな。
指揮能力はあまり高くないけど部下には心底好かれていて。
普段馬鹿っぽい口調の割には、たまに難しい事を言うし。
やっぱり、花木ってイマイチつかみ所が無くて良く分からない奴だ。
「じゃあ、久里は?」
「あいつは花木のお願いでドンドン家を建ててるんだ」
「へぇ、そんな勢いだったら、いつか周りの木が無くなりそうね」
「うん・・・まぁ、そのな、普通ならそうなんだけどな・・・実はもう1人おかしな奴がいてだな」
「おかしな奴? そんなのいたかしら、6年の間に増えたの?」
「いや、お前も会ってる、そのおかしな奴ってのは・・・賢子だ」
「え? あのケロケロうるさい蛙が?」
「まぁ、その事は私が話すわ、私の方がよく知ってるし、同じ山にすんでるし」
時音が賢子の事を睦月に話してくれるようだ。
じゃあ、俺はのんびりとしておくかな。
「実は賢子がいくらでも成長するって言う木を作ってね」
「はぁ!? あの蛙が!? そんなわけ分からない物を!?」
「えぇ、それも完璧でね、ある程度水をあげるとすぐ成長して、一定で止まるって言う・・・」
「そ、そうなの・・・随分と凄い物を発明するわね、あの蛙」
賢子の奴がまさかそんな物を発明するなんて、俺も想像もしていなかった。
もしもこの植物があれば自然破壊なんて絶対に起きないんだよな。
まぁ、開拓とかで壊れるかも知れないけど、妖怪がいるかも知れないのに
自然破壊は無謀でもある、多分、この世界では自然破壊なんぞ起きないだろうな。
「は、はぁ・・・随分と変わったのね・・・6年間で・・・」
「まぁね、でも、皆性格とかは全く変わってないわ、妖怪ですもの、6年程度で代わりはしないわ」
「まぁ、そうね・・・じゃあ、次の質問、サラと四季は?」
「あぁ、あいつらか、大丈夫だ、何一つ変わっちゃいないさ」
「何処で何をしているの?」
「神社の外で盛大に遊んでるよ、多分今頃はくるみと遊んでるんじゃないか?」
サラと四季は5年ほどで神社の外を盛大に動き回れるようになった。
とても楽しそうに飛び回って、本当に元気が良い。
まぁ、四季は振り回されて、大変だろうがな。
でも、まだここから文月山の間程度しか飛び回れないんだよな。
結界も大きくなって、広くなったんだけど、そこまでの浄化は出来てないって事だろうな。




