表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/251

抗えない恐怖

動物の相手というのも意外としんどい物だ。

数は多いし、攻撃力もある、なのにこっちは殺しに行くことが出来ない。

相手はこっちを殺す気だって言うのによ。

と言っても、所詮は動物、中型の猛獣なら、群れようが大した脅威じゃ無いね。


「あんだけの数を・・・1匹も殺さずね、やるじゃ無いの」

「たかが5匹程度の狼だ、何の問題も無い」


流石に10匹までなると、少しは苦戦するだろうが、5匹程度じゃ相手にもならない。

それにしても、この狼達、ろくに連携も取れてないじゃないか。

こんなんじゃ、下手したら10匹だろうが苦戦しないかもな。

まぁ、楽なのは良いことだ、数が多いし連携も出来るじゃ、しんどいっての。


「さてと、ここら辺も動物が暴れ出した異変しか無いか」

「全く、黒幕にはさっさと出てきて欲しいものね」

「同意だ、探し回るのはかったるいし」


私と睦月がそんな会話をしている時だ・・・何処からか、何か威圧されるような、そんな気配を感じた。


「う・・・」


今まで、こんな気配を感じたことが無い・・・まるで押しつぶされるような、そんな気配・・・

そう、まるで、全方位から押しつぶされるような・・・そんな恐怖・・・


「刀子? どうしたの?」

「お・・・お前は・・・か、感じないのか・・・?」

「何を? あ、足まで震えてるじゃ無いの、何? 疲れてるの?」


睦月はこんな状況でも、表情1つ・・・変えていない・・・

じゃあ、わ、私だけ? 私だけが・・・この気配を感じてる?

あ、足の震えが止まらない・・・そんな時に、後ろから草が揺れる音がした。


「ひぃ・・・」


私は反射的に叫んでいた、そして、その方向を見てみると、小さな兎が出てきただけだった。


「ん? 兎? こんな物に怯えちゃって・・・どうしたの?」

「ヤバい・・・ヤバすぎる・・・ここは・・・ここはヤバい・・・」

「はぁ? 私は何も感じないんだけど? 何そんなに怯えちゃってるのよ」

「お前は・・・感じないのか! この・・・恐ろしい気配を!」


私がそう叫ぶと同時に、一瞬、変な感覚を覚えた、何故か、自分が死ぬ感覚・・・

そして、走馬燈の様な物が、一瞬だけ見えた。

それと同時に、不思議なことに、私は自分が死んだと言うのを、何故か、受け入れようとしてしまった。


「あぁ、これがその気配ね・・・なるほど、こいつはヤバいわ」


しかし、後ろから聞えた、大きな音と、睦月の声が、私を元の場所に戻してくれた。

私はその声がした方を向くと、そこには、全身が真っ黒で、目だけが赤い。

そして、刀を持っている様な人型の妖怪と、その振り下ろされようとしていた刀を

止めている、睦月の姿が見えた。


「・・・・・・」

「何よ、何か喋りなさい、喋れるでしょ? 人型なんだから」

「おし・・・かった・・・お前、が、いなけ、れば・・・あいつを、殺せたのに・・・」

「やっぱり喋れるのね!」


少しの会話の後、睦月は素早く後ろに下がった、そして、その直後に鋭い風が、周りの木に傷を付けた。


「ふぅ、危ない危ない、幽霊だし、死にはしないでしょうけど、まぁ、痛いでしょうね」

「お前・・・強いな・・・」

「あなたはそこまで強くないわよね、そこでへこたれてる妖怪の本気の時程度じゃ無い?」


あいつ・・・私の事を・・・へこたれてる何て! 馬鹿にしやがって!

でも、確かにあいつが言うとおり、あの妖怪はそんなに強くは無い・・・

太刀筋がよく分かる、なのに、なんで私の足は動かない・・・

何で、私にかかる恐怖は減らない・・・何で足の震えが止まらない!


「くそぉ・・・」

「お前を、殺せば、あの女、を、殺せる」

「残念ね、私は幽霊よ、もう死んでるの、私はもう死なないわ」

「ど、け」

「どくとでも? 一応そこのヘタレは私の友人なの、動けない友人ほっぽり出す訳ないわ」


あいつ、私の事を庇ってくれるのか? くぅ、な、情けない・・・情けない・・・

私は妖刀の妖怪なのに・・・守るための道具の妖怪なのに! なのに・・・守られるなんて!

動いてくれよ・・・震えないでくれよ! 私の足! 私は守る立場の妖怪なのに!


「ぬん!」

「っと!」


睦月はあの黒い妖怪の攻撃を、また受け止めた。


「ふーん、なるほどね!」

「ぐぅ!」


そして、睦月はあの攻撃を流した後、すぐに反撃を与えて、あの妖怪を吹き飛ばした。

あいつ、あんなに強かったのか・・・知らなかった・・・


「まぁ、あんたの能力、何となく、分かったわ」

「ぐぅ・・・」

「あなたの威圧程度で、あの刀子がへこたれるわけ無い、でも、刀子はヘタレてる

 刀子は何故かあなたに恐怖している、でも、それが威圧なら私も同じ事

 でも、そうじゃ無い、なら、あなたはプレッシャーでも与えてるのかしらね、生き物に対してだけ」


その睦月の言葉を聞いた黒い妖怪は、少しだけ反応を見せた。

もしかして、あいつが言っていることが図星なのか?

じゃあ、私の足が動かないのは・・・あいつの能力の影響か!?


「そうだ、貴様の言うとおり、俺、の、力、は、恐怖を、操る力だ」

「あぁ、だからあんなに震えてるのね、ようやく納得いったわ」

「だが、それが分かっても、状況、は、変わ、らない」


黒い妖怪がそう言うと、周囲の草むらが一斉に揺れ始め、そこから動物たちが姿を現した。


「あぁ、だからこの動物たちも暴走してたのね、あなたの恐怖で」

「そう、だ、動物、程度、の、恐怖を、刺激するの、は、たやすい、たとえ、距離が、あろうと、な」

「ふーん、良いこと聞いたわ、でも、だとしたら、この役立たずは邪魔ね」


睦月はそう言うと、私の方に近寄ってきて、小さくさっさと逃げてねと言って

私を思いっきり蹴っ飛ばした、そこまで吹き飛んだ訳じゃ無いけど

私は不思議とその言葉を聞いて、恐怖が無くなり、立ち上がれるようになった。


「う、ごける?」

「さぁ、ちゃっちゃと行きなさい」

「睦月・・・う・・・くぅ・・・」

「私と戦おうとか思わないで、あなたじゃ無理よ、それは明白、だから逃げなさい

 そこら辺にいる動物に殺されないようにね」

「ちくしょう!」


私はひたすらにその場から逃げだした、もう、それしか出来なかった・・・

あの妖怪の方に近寄ろうとすると、どうしても、足が動かなくなって・・・

情けない・・・逃げることしか出来ないなんて・・・情けない・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ