怪我をしても安心出来る場所
「さて、茜の治療はこんな物か」
修行から帰ってきた茜の治療をおえ、俺は軽く一息吐いた。
全く、背中を強打するって、どんな状況だよ。
それにしても、俺が見ていない間に茜が怪我するなんてな。
「治療も出来るのか、流石だな」
「まぁな」
茜を運んできたのは刀子と葵だった、正直、葵1人でも十分運べそうだけどな。
「それで? 何で茜は怪我をしたんだ?」
「それが、四宮神社に上ろうとしたら、その近場の森で叫び声が聞えたんだ」
「叫び声? 妖怪か何かの仕業か?」
「それなら茜が怪我をすることは無いでしょうね、私もいるし」
「そうだな、相手が妖怪なら睦月が何とかするか」
睦月は妖怪、幽霊にしか触れる事が出来ない、しかし、睦月は触れられる相手には相当強いからな。
それに、茜には妖怪、幽霊に特攻の刀とお祓い棒があるしな。
「じゃあ、相手は人間か?」
「いいや、相手は狼だった、大きな狼」
「狼だと?」
「えぇ、1匹だったわね、群れる動物にしては珍しくね」
基本的に狼は群れる生き物だ、そんな動物が1匹だけで行動することは珍しい。
一匹狼という言葉があるが、実際に1匹だけで行動する狼なんているんだな。
「そうか、確かに珍しいな・・・それで、その悲鳴を上げた人は無事なのか?」
「えぇ、大丈夫だったわ、私が茜を守るついでに助けておいたから」
「そうか、そいつは良かった、それで、その人は? 怪我とかしてたりするんじゃ無いか?」
「何処も怪我をしてなかったし、大丈夫だったわ、茜が頑張ったお陰でね」
「そうか、茜、頑張ったんだな」
俺は意識を失っている茜の頭を軽く撫でた。
でも、流石に意識を失っているから、反応はない。
ただ、少しだけ微笑んだような、そんな気がした。
「それじゃあ、俺達はここから出るか、茜の体に触るかも知れないし」
「私はもう少しいたいけど・・・仕方ないわね」
「あぁ、じゃあ、軽く俺が茶でも入れて・・・ん?」
俺が立ち上がろうとすると、何かに服を引っ張られるような感覚を感じた。
そして、その感覚の場所を見てみると、茜が俺の服を掴んでいた。
一体、いつの間に俺の服を掴んだんだか。
「これは・・・立たない方が良いな」
「やっぱり、茜は甘えん坊なんだな、じゃあ、私達は戻っておく」
「あぁ、分かった」
刀子は茜を寝かせている部屋から出て行った。
「な、何だか羨ましい! ・・・でも・・・が、我慢するわ・・・」
そして、葵はもの凄く怒りを隠したような表情を見せている。
しかし、殆ど隠せて無いな。
「あんま、怒るなよ・・・」
「可愛い弟子を取られたんだから、怒るわよ・・・でも、茜の為だし、今回は我慢するわ!」
葵は扉をもの凄い勢いで開け、すごい勢いで閉めようとした。
しかし、完全に閉まる瞬間に扉をゆっくりにして、静かに扉を閉めた。
あんな風に怒っていても、ちゃんと茜を起こさない様に静かに閉めるか、やるな。
「結局ゆっくり閉めるんなら、最初からゆっくり閉めれば良いのによ」
さて、どうするかな、茜はずっと俺の服を掴んでいて、行動は出来ないし。
「わっひゃぁ!」
そんな事を考えていると、外から大きな叫び声が聞えると同時に
大きな物音が聞えた、まるで、何かに思いっきりぶつかったような、そんな音だ。
「馬鹿! 何やってるの!」
「茜が怪我してるから! あたしが神社のお掃除をするの!」
「あなたは静かにしてなさい! むしろ散らかってるし!」
「大丈夫! あたしなら問題ない!」
「だぁ! もう! 四季は何処なのよ!」
何だか、部屋の外が大変なことになっていそうだ・・・
どうしよう、もの凄く心配だが、動けないし・・・葵に任せるしかないな・・・
「・・・圭介、見に行かないの?」
「睦月、いたのか」
「当然よ、私は茜に憑いてるんだから、それで? 見には行かないの?」
「見に行きたいが、茜がな・・・」
「そうよね・・・じゃあ、私が見に行ってくるわ」
睦月は部屋の扉をすり抜けて、部屋の外に出て行った。
「なんの騒ぎ?」
「サラが大暴れしてるの! 止めて!」
「あなたが止めれば良いんじゃ?」
「いや、私が止めようとすると、加減が・・・」
「なんだよ! って! サラ! 何やってんだ!」
「掃除!」
「馬鹿! むしろ散らかしてるだろうがぁ! 止めろ!」
「四季! 四季は何処なのよぉ!?」
「四季は買い出しだよ! だからあたしが掃除をするの!」
「止めろぉ!」
会話から考えると、茜が怪我をしたから、サラと四季が代わりに家事をしようとしているって感じか。
それで、四季は買い出し、サラは掃除ではっちゃけて、周りを散らかしてると・・・
もしかして、箒とかを振り回してる・・・とか? いや、まさかな・・・はは、
「えへへ・・・」
そんな会話が聞えているのかどうか分からないが、茜は笑い始めた・・・
まぁ、この騒がしいのがいつもの四宮神社だよな・・・まぁ、神聖さなんて欠片も無いが。
でも、やっぱりこんな環境を気に入っているんだろうな、茜も・・・そして、多分、俺も。
俺はもう1度茜の頭を軽く撫でた、すると、今度は最初とは違って、確かに反応を見せた。
「えへへ・・・圭介さまぁ・・・」
「ふ、早く治せよな、茜」




