無題
逃げた。逃げ続けた。
どこまでも、どこへでも。
走り、飛び、転び、のたうち回りながら。
時には叫び、声を上げた。
自身を鼓舞する為か、または、威嚇の為か。
あてもなく。そして、果てもなく。
私は、走り続け逃げ続けた。
そう、あの変質者から。
パンツ見せろオォォオォ
若しくは、ブラ見せろオォ!
謎のバイタリティを発揮し、自らの欲望を満たす為奴は追い続けた。
何がそこまで奴を突き動かすのか?
何故、たかだかパンツの為己の全力を発揮しているのか?
お前の人生で全力を発揮する場を間違えていやしないか?
様々な考えが去来し、忘却の彼方へ過ぎ去っていった。
奴は声の限り叫び、吠え、追い続けた。
もう、胸チラでいいから見せろオォ!
もうの意味がわからない。
胸見せろオォ!尻見せろオォ!乳首見せろオォ!ま◯こ見せろオォ!
要求のレベルが上がってきている。
クソったれがぁー!逃げるなんて卑怯だろうがぁ!
初対面でパンツ見せろと言われれば誰だって逃げるだろう。
クソがぁー〜!俺を見ろオォー!
目的が変わってきている。
そろそろ体力限界だろオォ!
生憎、ランナーズハイだ。
止まれよオォ!泣くぞ!
泣きたいのは、お前じゃない。
どれだけ走ったろう、どこまで来たのだろう、もう見知った所はどこにも無い。空があんなにも明るかったのに、もう逢う魔が時らしく空の美しいコントラストがとても綺麗だった。
そうか、もう秋になるのだろう。
不思議と頭の中は清々しく、気持ちが良かった。
こんなに走ったのは、何時ぶりだろう。
幼い時は、疲れを知らず無我夢中で走っていた。
何故、あんなにも楽しかったのだろう。
ふっ…ふはは…ふははは、アーッハハハ!
笑いが止まらない。こんな非日常の状況で笑える事があるだろうか。
気づくと奴も声を上げ笑っていた。
この瞬間だけは、奴も同じ気持ちだったのかもしれない。
二人で声を上げ笑い叫びながら全力で追い、追われ続けた。
思えば遠くへ来たものだ。
海が見える。
私は、走るのを止め海を眺めた。
息切らし、心臓は今まで感じたことのないほどに鼓動していた。
気づくと奴が、隣で同じように海を眺めていた。
お互いに顔を見合わせ、無言で握手を交わした。
それは、熱い握手だった。
言いようの無い感情だった。
握手を交わすと、奴は去っていった。
全力をかけて、欲求を満たそうとした男の背中がそこにはあった。
熱い奴だった。
奴は、自分に正直に生きている数少ない人間なのかもしない。
帰ろう。
とぼとぼと歩き出した私に奴は、何かを思い出したかのように声をかけてきた。
パンツくれ。
私は、笑みをこぼし奴の顔面に拳を叩きつけた。




