第8話 VSスライム
異世界生活2日目の、九条悠里改めユーリ・クジョウです。
あれから疲れてしまって、ご飯も食べずにすぐ寝ちゃいました。目が覚めたらアマンダさんに抱えこまれてて、しかも大きなお胸さんがドーンと目の前にあって、それはもうビックリ。
なんていうか、起きたら元の世界に戻ってるんじゃないかなって淡い期待も思いっきりブチ壊すくらいの迫力でした。
そんな風にアワアワしてるうちにアマンダさんが起きて、寝起きのちょっぴりハスキーな声で「おはよう」って言ってくれました。
はぅぅぅぅ。美人って寝起きでも美人なんですねぇ。
ちょっぴりドキドキしたのは秘密です。
まだ慣れてないだろうからってアマンダさんが部屋に持ってきてくれた朝ごはんをおいしく食べて、今日からさっそくLV上げです!
しかもね。
なんと、アマンダさんだけじゃなくて、アルゴさんもついてきてくれるそうなんです。いくら魔法が使えると言っても、魔の森の近くにはスライムより強い敵も多いし、私がどれくらい魔法を使えるかも見たいんだそうです。
本当に、この世界に来てから会う人たちがいい人ばっかりで良かったです。だって運が悪かったら誰にも会わないで魔物に襲われたりとか、もしかしたら盗賊にさらわれてたかもしれないしね。
うん。なんでこの世界にきちゃったのかは分からないけど、でもこうやって優しい人たちに出会えた事は素直に感謝しよう。
帰りたいって気持ちはたくさんあるけど、嘆いてたってどうにもならないから。
だから前向きに行くんだ!
がんばるぞ、私!
二人の案内で四十分ほど歩くと、目の前にうっそうと茂る森が現れた。初めてこの世界に来た時にも見たこの森が、魔の森と呼ばれる森だ。
都会っ子には徒歩四十分はきつかったです。ぜーはー。
「ここら辺にね、スライムがいるんだけど……。あ、いたいた」
アマンダさんの指さす方を見てみると……
おおおおおお。
第一スライム発見です!!!!!
プルンとして丸くて、ぷにぷに動く青い体。
頭の上はとがってないし、目も口もついてないけど、あれぞまさしくエリュシアオンラインでお世話になったスライムさんです!
よし!
いざジンジョウニショウブだー!
「ユーリちゃん、がんばってね~」
「ユーリちゃん、ファイト!」
アマンダさんとアルゴさんの声援で元気百倍です。がんばります!
私はひのきの棒を持ち直すと、思い切ってスライムを叩いてみた。
「えいっ」
スライムはプルプルしている。
攻撃が効かなかったみたいなんで、もう一度叩いてみる。
「えいえいっ」
スライムはまだプルプルしている。
「えいえいえいえいえいっ」
スライムはこっちを無視してプルプルしている。
段々、叩いている私の方が疲れてきました……
おかしいなぁ。なんで攻撃が効かないんだろう。
「あの、さ。ユーリちゃん」
なんだか疲れたようなアルゴさんの声に、私は振り返った。
「ユーリちゃん、魔法使いなんだよね?どうして魔法を使わないの?」
よくぞ聞いてくれました!海より深くて山より高い理由が、ちゃんとあるんですよ。
「それはですね、LV上げにA連打ペチペチが夢だったからなんです。それに魔法使いとか神官って剣が装備できないから、ひのきの棒も装備できなくて、ひのきの枝なんですよ?ひのきの枝でペチペチするのってなんか変じゃないですか?!だからやっと装備できるようになったひのきの棒で叩くのが、夢だったんです!」
よしっ。言い切った!
「……うん。何かよく分からないけど、ひのきの棒で叩くのが夢だったんだね。うんうん。それは良かったね。でもさ、全然攻撃が効いてないみたいなんだけど」
「そうなんですよね。なんでだろう?」
「いや、あの叩き方じゃ無理だと思うよ?」
「えー」
「えー、って……可愛く言っても無理なものは無理だよ」
アルゴさんが額に手を当てていた。その横ではアマンダさんが「かわいいからいいじゃない」とか喜んでいる。
でも、う~ん。そっかぁ。ひのきの棒じゃ倒せないのかぁ。
「じゃあ仕方ないから、魔法で倒すとして……火だと森に燃え移って火事になるかもしれないからダメで、風だと木が切れるくらい?水は……スライム元気になりそうだよね。雷……あ、水は雷に弱いんだっけ」
確か、ポケットに入るモンスターはそうだったはず。
じゃあ雷の魔法だ!
「サンダー・アロー!」
腕を振り上げて詠唱してみた。
すると指の先の方に力を感じる。
雷でできた矢をイメージしてそれを振りおろす!
いっけぇぇぇぇ!
その直後。
ドオオオオオオオオオオンという音と共に無数の雷の矢がスライムに降り注いだ。光と音の乱舞に、目も耳もおかしくなってしまいそう。
多分、魔法が発動されていたのは実際には三秒ほどの短い時間だったんだと思うんだけど、その時の私にはすごく長く感じられた。
そしてようやく魔法が鎮まると……
そこにスライムの姿はなく、半径5メートルくらいのクレーターのようなものができていた。
あ……あれぇ?
もしかして、やりすぎた……?