第79話 見えないところで成長してます
勝った……?
そう思ったとたん、へにゃへにゃと崩れ落ちてしまう。
「みぎゃっ」
膝から床に激突しそうになったけど、その直前にノアールの大きな前足が私をキャッチしてくれた。
そしてそのまま、ぽふんとノアールの体にもたれかかる。
「……あったかい」
柔らかい毛並みと体温に、張り詰めていた心がゆるむ。
「癒しの風よ汝に集え、アルゴにヒール!」
安心しきって気の抜けたところに、フランクさんの声が聞こえた。
はっ。
こんな風にのんびりしている場合じゃなかった。
「アマンダさんにヒール。ヴィルナさんにヒール」
足元の氷はリヴァイアサンと一緒に砕け散っていたけど、凍っていた間のダメージは大きいもんね。急いで回復しなくちゃ。
「ごめんなさい。みんなも凍らせちゃって……」
「なに言ってるのよ、ユーリちゃん。あなたのあの魔法がなければ、私たちは全員やられてたわよ。助かったわ。ありがとう」
頭を下げて謝ると、アマンダさんが明るい声で言葉を返してくれた。
「ホントにな。一時はどうなることかと思ったが、あんな強い魔法が使えるなら、もったいぶらずにさっさと最初から使ってくれれば良かったじゃねぇか」
だってレベルアップしてたのを知らなかったんだもん。
もーっ。わたしのバカバカ!
どうして甲冑虫を倒した後にステータスを確認してなかったのよ。
今度からは、忘れずにステータスチェックをするようにしなくちゃ。
でもフランクさんに何て答えよう。まさかレベルアップしたから、新しい魔法を覚えられたんですなんて言えないし。
「私も見えないところで成長しているんです!」
「成長だぁ?」
うさん臭そうに聞くフランクさんに、にへらと笑う。
ここは必殺・笑ってごまかせ!
「まあいいじゃないの、フランク。乙女には秘密の一つや二つあるものだわ。それにしても、さすがユーリちゃんね! 凄い魔法だったわ」
近づいてきたアマンダさんにぎゅーっと抱きしめられる。
あわわ。あの、顔に大きなお胸が当たって、息が苦しいです。
「ところで、ヴィルナはなんでそんなとこに座ってんだ?」
振り返ると、カリンさんの作った枝のドームの上に、ヴィルナさんがあぐらをかいて座っていた。
「無駄な悪あがきなどしない」
「それで瞑想していたのか?」
呆れたようなフランクさんの問いに、ヴィルナさんは無言で頷く。
「……じゃあもう必要ねぇんじゃねえか?」
「今は、諦めるのが早すぎたかと反省しているところだ」
あ。ヴィルナさんの耳がペシャって伏せられて、しっぽがヘニャッと萎れちゃった。
普段は野生的な美人なのに、そんな姿はとっても可愛い。
「ええい、もう戦いが終わったのなら早くどかぬか! そこに居座られては術を解けぬ!」
ドームの中のカリンさんが怒ると、ヴィルナさんは軽い身のこなしでそこから降りた。それと同時にドームを作っていた枝がしゅるしゅるとカリンさんの手の平へと吸いこまれていって、種の形になった。
あの枝のドームって、植物の種からできてたんだ。
「きゅーっ!」
カリンさんの腕の中から、凄い勢いでピンク色のうさぎがフランクさんの元へと走る。
「きゅーっ、きゅーっ」
飛びつくルアンをフランクさんが抱きかかえる。ルアンはフランクさんが無事なことが嬉しいのか、小さなツノを一生懸命こすりつけている。
「約束通り、ちゃんと出してやったろ?」
「きゅうう。きゅう」
「いや。だって、お前は戦えないだろうが」
「きゅううっ」
「強くなるって言ってもなぁ」
ルアンの背中を撫でながら、フランクさんが困ったような声を出す。
ふふっ。なんだかフランクさん、小さい子を相手にしてるお父さんみたい。
「みぎゃぁ」
「きゅっ」
「ぎゃるぅ」
「きゅきゅっ」
そしてノアールとルアンは何を話しているんだろう。
しばらくすると何やら納得したルアンは「きゅふん」と鼻を鳴らすと、いつものようにフランクさんの頭の上に上って、そこで丸くなった。
フランクさんは頭の上のルアンを再び軽く撫でてから、アルにーさまに近づく。
「さっきのは何だったんだろうな。アルゴの右手はどうなってる? 祝福の印……だったか?」
「それが……。しばらくは光っていたんだけど、消えてしまったんだ」
「消えたぁ!? どれ、見せてみろ」
フランクさんはアルにーさまの右手を取って、表にしたり裏にしたりしながら確かめる。
「どこにもないなぁ」
「……魔法陣の形は覚えているから、後で紙に書き写そう」
アルにーさまの言葉に、カリンさんが勢いよく迫ってきた。
「ぜひ私にも見せよ! レヴィアタンの印なぞ、エルフの里でも見た者はいまい」
「レヴィアタンじゃなくてリヴァイアサンだって言ってたけどな」
フランクさんの呟きをスルーして、カリンさんはアルにーさまの右手をフランクさんから奪い取る。
「ふむ。印は見えぬが、確かな力は感じる。しかしなぜレヴィアタンが……。ああ、そうか。青龍の舞を奉納したゆえ、顕現なされたか。あるいは神楽鈴の音に惹かれたか。この場は精霊界に近いからな、そういうこともあろう。――実に興味深い」
うんうんと頷くカリンさんに、アマンダさんが詰め寄った。
「一人で納得しないで説明しなさい。ここが精霊界に近いって、どういうこと?」
「どういうことも何も、精霊界に近い場所には魔素がたまるゆえ、ダンジョンができるのであろう?」
ええええっ。
ダンジョンって、そうなってるのーっ!?




