第7話 アマンダさん
そして引き合わされたアマンダさんは、相変わらずテンションが高かった。
いきなり抱きつかれて、大きな胸に圧迫されて窒息しそうになったのには焦ったけど、本当に子供好きみたいで凄く良くしてくれた。
アマンダさんたち女性騎士がいるのは、最初に見た時には気が付かなかった、砦の奥側の建物だった。あの暗い階段を上がると、手前から男性騎士たちの住居、執務室がある建物、女性騎士の住居、という風に並んでいるらしい。
女性騎士というのは結構珍しいらしく、普通は女性王族の近衛にしかいないんだけど、このイゼル砦だけは昔から女性騎士が常駐しているんだそうだ。
もちろん騎士同士の恋愛とかもあるみたいだけど、前に恋愛のいざこざで決闘騒ぎとかもあったらしくて、私闘に対する処罰は厳しいらしい。
まあ恋愛でギスギスしてたら協力して戦えないしね。それも当然だよね。
そしてそんなアマンダさんの好きな人は、あの超イケメンのレオンさんじゃなくて、なんと熊っぽいゲオルグさんだった!
すっごくビックリ。
なんでも筋肉が超好みなんだそうだ。
いや、モチロン性格もいいらしいけど、一番好きなのは筋肉なんだって。
うっかり聞いていると上腕筋がどーのとか、凄くマニアックな話になったので止めました。胸の周りの筋肉がセクシーとか言われても……。
うん。色んな趣味があるんだなぁ……
もちろん女性騎士の間で一番人気があるのはレオンさんなんだけど、全く相手にされないし、下手にアタックするとイゼル砦から地方都市の警備隊に異動させられてしまうんだそうだ。それでレオンさんは遠くから観賞用として愛されているらしい。
「でもユーリちゃん、最初は男の子か女の子か分からなかったから、何を着せればいいかなって考えちゃったわ。ダボダボのローブ着てたしね。今はどこからどう見ても可愛い女の子だけど」
アマンダさんに女の子?って聞かれてそーですと答えてから、ずっと着せ替え人形になってます。
急遽、イゼル砦で一番裁縫上手のゲオルグさんが服を作ってくれました。
……ゲオルグさんって、一体何者!?
「服作りはゲオルグの趣味なの」
へ~。なんだか見た目のイメージと全然違うなぁ。
「それに付与術師だから、こう見えて、物理防御も魔法防御もばっちりついてるわ」
「ふよじゅつし……?」
「あら、知らない?」
聞き慣れない言葉に聞き返すと、アマンダさんは付与術師について説明してくれた。
「簡単に言うと、装備に魔法陣をつけることができる人のことね。その中でも特にゲオルグは腕利きなの」
武器の場合は持ち手に、防具の場合は心臓の上に組みこまれたミスリルの板の上に魔法陣を書きこむ。
武器の場合は物理攻撃アップしかつけることができないが、防具の場合は物理攻撃防御と魔法攻撃防御の他に耐性もつけることができる。
ただそれを二種類つけることのできる者は少ない。ゲオルグさんはその数少ない優秀な付与師のうちの一人らしい。
「へえ。凄いんですね~」
「そうなの、ゲオルグは凄いのよ!」
迫力美人のアマンダさんは、少女のように頬を染めて胸の前で手を組んだ。
「付与術師だけじゃなくて剣士としても強いのよ。それに毎日鍛錬しているから、凄く素敵な筋肉なの。服も作れるし料理も上手だし、最高の旦那様になるわよねぇ」
アマンダさんが大絶賛するから、エリュシアでは家庭的な男の人がモテるのかと思ってたけど、別にそういうわけじゃなくてアマンダさんの好みがゲオルグさんだってことみたいだ。
私はゲオルグさんお手製のワンピースを着て、くるんと回ってみた。
スカートがひらりと翻る。
肩に斜めがけしている猫のポシェットは、実はアイテムボックスと繋がっている。
あの後分かったんだけど、ステータスとかアイテムボックスのウィンドウは他の人には見えないみたい。ステータスウィンドを見るくらいならともかく、アイテムを何もない空中から出すのはおかしいから、とりあえず持っていたポシェットを活用することにしたの。
なんで猫のポシェットかっていうと、それしか持ってなかったから……。
いや、だって2月22日でにゃんにゃんにゃんな猫の日にイベントがあったんだもん。
猫系の魔物倒すと肉球がドロップして、それを集めるとNPCが各種おしゃれ装備に交換してくれるっていう、猫マニア垂涎のイベントだったんだよ!
もちろん私も参加して装備コンプリートしたけど。
うん。バッグの他にも猫耳カチューシャとか猫のしっぽつきドレスとか肉球グローブとか持ってるけど、さすがにバッグ以外は恥ずかしくて出せないよね。
あ、でもこれなら大丈夫かなぁ。猫耳つきローブ。防御力はないけど、かわいいから後で着てみようっと。
ピンク色のワンピースを着て猫のバッグを持って、まだLV1だからそれ以外装備できないんでひのきの棒を持って。
あれ?賢者ってこんなのだっけ?
なんだかそこら辺に遊びに行く子供みたいなんだけど……。
でもいいんだもん!
これでスライムを倒してLVを上げるぞ!
お―!