第66話 攻撃は最大の防御
ゆっくりとした動きで甲冑虫がこっちにやってくる。
もう一度ウィンド・アローを放って……。あ、でもここは別の魔法の方がいいかな。
ファイアー・ボールは木とかに燃え移っちゃうからもちろんダメだとして、ウォーター・ボールはまだ食べられてないキャベツを水で押し流しちゃいそうだし、ロック・フォールはゴロゴロした岩が畑に残ってたら邪魔だし……。そうすると、サンダー・アローなら甲冑虫だけにダメージを与えられるんじゃないかな。
そう思って魔法を詠唱しようとすると――
甲冑虫が、いきなりゴロンとあお向けになった。そして足をピクピクと痙攣させている。
おおっ。
これってもしかして、さっきのウィンド・アローでやっつけてた!?
わーい、と喜ぼうとすると、横にいるアルにーさまが感心したかのように言った。
「さすがフランクだね」
んん? フランクさん?
フランクさんの攻撃は効かなかったはずじゃないの?
不思議に思ってアルにーさまを見上げると、「本当に非常識だよね」と言いながら教えてくれた。
「フランクのあの技は『波動掌拳』といってね。波動が身体に伝わって攻撃するから、外側が固い魔物ほど、ダメージが中に伝わる技なんだ。だからあの外殻の中は、破壊されてドロドロになってるはずだよ。効果が出るまでに少し時間がかかるのが欠点だけど、かなり強力な技だ」
あう。
てっきり私のウィンド・アローが効いたのかと思ったのに、違ってた。
は……恥ずかしぃ~。
頬に手を当ててジタバタしていると、甲冑虫が絶命したのを確認したフランクさんが戻ってきた。
「やっぱ硬かったなぁ。その分、技が効いたけどな」
「本当に、どうしてフランクが神官になったのか謎すぎるわ。神官をやるより冒険者をやったほうがいいんじゃないの?」
アマンダさんが感心したような、それでいて呆れたようにフランクさんを見る。
うんうん。私もそう思います。
「フランクさんは神官なのに、なんでそんなに強いんですか?」
思わず尋ねると、フランクさんは私の頭をぽんぽんと叩いた。
「嬢ちゃん、神官の仕事は何だと思う?」
「回復ですよね?」
むしろ回復以外のことをしてるフランクさんの方が、神官としては珍しいと思う。
筋肉モリモリでプロレスラーみたいだもん。
「回復するには、基本的に相手の体に触れてないといけないだろ? だけど、戦ってる最中に怪我をして、後ろに下がれないほどひどい怪我をする奴もいる。そんな時は神官が怪我した奴のところまで行かなくちゃならねぇ。傷ついた人を癒すのが、神官の務めだからな。そしてこっちが神官だからって、魔物は手加減なんざしてくれねぇからなぁ」
確かに、この世界ではヒールするためには相手に触らないとダメなんだっけ。
それにパーティーの存在も知らなかったから、盾を持つ人がパーティーメンバーのダメージを肩代わりする『ガーディアン・シールド』っていう技も知らないだろうし。
あれって盾スキルで最初に覚えるスキルなのに、凄く使えるんだよね。私もよく盾持ちの剣士さんに、ボス戦とかでかばってもらったなぁ。
特に神官をやってた時は、神官が倒れるとパーティーが建て直せなくなるからってことで……。
あっ。そうか。
きっとそれはこの世界でも一緒なんだよね。
神官が倒れたら回復する人がいなくなっちゃうけど、回復するためには前衛と同じ場所まで行かなくちゃいけないから、それで体も鍛えなくちゃいけないんだ。
つまり、この世界の神官さんは、回復だけじゃなくて防御もできないといけないってことなのかな。
そう聞くと、フランクさんはニカッと陽気な笑顔を浮かべる。
「その通りだぜ、嬢ちゃん。でもただ防御するだけじゃ、芸がねぇだろ。それに攻撃は最大の防御って言うしな。サクッと魔物を倒して、ゆっくり味方を回復するっていうのが、男のロマンなんじゃねぇか。アルゴもそう思うだろ?」
いきなり話を振られたアルにーさまは、苦笑しながら答える。
「確かに神官は身を守る術に長けているけど、そこまで体を鍛えてるのはフランクくらいじゃないかな」
「そうよ、ユーリちゃん。神官が、全員こんな非常識な戦い方をするわけじゃないから」
アマンダさんの言葉に、ヴィルナさんも無言でうんうんと頷いている。
「そうかぁ? シモンも強いぞ?」
「それはあなたの弟子だからでしょ」
「それもそうだな。わっはっは」
フランクさんが豪快に笑うと、頭の上のルアンもご機嫌できゅうきゅうと鳴いた。
「いや~。助かりました。お客さんたち、強いですねぇ」
そこへ斧をかついだカールさんもやってくる。
「僕の『甲羅割り』が全然効かなくてどうしようかと思いましたが……。本当にありがとうございます」
頭を下げるカールさんに、フランクさんは「いいってことよ」と手を振る。
そこへ、女の人の声で、カールさんの名前が呼ばれた。
「メアリ!」
あ、さっき宿屋を飛び出していったメアリさんがこっちに向かって走ってくる。
「カール! 甲冑虫が出たって聞いたわ。もう退治したの? 怪我は……怪我はない?」
カールさんの前まで来たメアリさんは、怪我しているところがないか、ペタペタと体に触れて確かめている。
「大丈夫だよ、心配かけたね。旅の人たちが倒してくれたんだ」
「良かった……。甲冑虫と戦えるのなんてあなたくらいだから、もし怪我をしたらって思って、私……」
「メアリ……」
そう言ってカールさんはメアリさんを抱きしめた。
その瞬間、アルにーさまが私の両目を手の平で覆う。
ちょ、ちょっと待って! 感動の瞬間なのに、これじゃ何も見えませんよ!




