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ちびっこ賢者、Lv.1から異世界でがんばります!【Web版】  作者: 彩戸ゆめ
第二章 ちびっこ賢者、がんばります!

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第63話 カールさんの事情

「ところが一年前に父が体を壊して引退することになった時、いきなり兄が吟遊詩人になるから宿屋は継がないって言いだして……」


 吟遊詩人かぁ。

 エリュシアオンラインにはなかった職業だけど、こっちにはあるんだね。やっぱり英雄の歌を歌ったりするのかな。


 英雄といえばレオンさんだから……そうするとつまり、レオンさんの歌を歌うんだよね。


 わぁ。聞いてみたい。


「……お前さんの兄貴は、才能があるやつだったのか?」


 フランクさんの質問に、カールさんは少し考えこんだ。


「さあ、どうなんでしょうか。他の人の歌を聞いたことはありませんから。……でも、僕は兄さんの歌が好きでしたよ。だから夢を追いかけるというなら応援したいと思ったんです。もしダメだったら戻ってくればいいだけですしね」


 それに、とカールさんは後を続けた。


「ただ宿屋を継ぐとなると、一人では宿屋を切り盛りできないので、妻をもらわなくてはいけません。兄は恋人が三人もいるくらいモテていたので相手には困らなかったんですが、僕は全然モテなくて……」


 うーん。宿屋を継がずに歌ばっかり歌っていて恋人が三人いるカールさんのお兄さんって、なんていうかそれは、ちょっとダメなんじゃないのかなぁって気がする。


 吟遊詩人になりたいのも、モテモテになりたいから、なんてことはないよね?


「しばらくは一人でがんばっていたんですけど、やっぱり大変でしたね。それで伝手を辿って誰か紹介してもらおうと思っていたら、隠居した父に幼馴染のメアリを勧められたんです。それで彼女と結婚して、正式に宿屋を継いだんですけど、ちょうど魔の氾濫が始まってしまって結婚式どころではなくなってしまって。その代わりにと二人で贈りあったのが、あの金の指輪なんです」


 なるほど~。それがあの拾った金の指輪なんだ。

 魔の氾濫の前に結婚したってことは、新婚ホヤホヤさんだね。

 きっとお仕事が大変で痩せちゃって、指輪が落っこちちゃったんだね。


 ということは……。これでクエストをクリアしてるってことじゃない?

 でも、どうやって確かめればいいんだろう。


 う~ん。「ステータスオープン」でステータスが見れたんだから、「クエストオープン」って言えばクエストが表示されるとか。

 ちょっと小声で言ってみようかな。


「クエストオープン」


 抱っこしてるノアールに話しかけているフリをして、こっそり言ってみる。

 これでウィンドウが――


 ……ダメだ。出てこない。


 クエストを受けた時はいきなり半透明のウィンドウが出てきたから、クエストクリアした時もウィンドウが出てくるの可能性が高いよね。


 ってことは、まだクリアしてないってこと?


 でも、カールさんに指輪を渡せ、っていうクエストじゃなかったっけ?

 それならもうクリアしてると思うんだけど。


「やっと魔の氾濫が終わると、イゼル砦から戻って来た冒険者たちがこの村を訪れるようになりました。その中に、以前トールの斧を持ってきてくれたタニアがいたんです。最初は僕のことを忘れてたみたいなんですけど、思い出してからはトールの話を聞かせてくれた良い人なんです」

「なるほどなぁ。そんでタニアって子と仲良くしてたら、奥さんが焼き餅やいたってわけだ。しかもそのタイミングで指輪もなくすとは……兄ちゃん、ついてなかったな」

「……その通りです」


 がっくりとうなだれたカールさんの肩を、フランクさんが慰めるように叩く。


「まあ、こうして指輪も戻ってきたわけだし、ちゃんと見せて誤解を解くんだな」

「あ、いえ。お客様をお部屋に案内してから――」

「女がヘソを曲げると後が大変だぞ。謝るんなら、早いうちにしとけ」

「ですが……」

「ほら。行きな」


 フランクさんが扉を開けてうながすと、カールさんはきつく手を握ってから頭を下げた。

 さすがフランクさん。いいこと言うなぁ。


「ありがとうございます!」


 そう言って飛び出そうとしたカールさんだけど、建物に入ってきた人にぶつかってしまう。


「カール、大変だ!」

「どうしたんだ、ジャック」

「甲冑虫が現れた! しかも見たことがないくらいデカイ」


 甲冑虫って、確か、物理攻撃が効かなくて魔法攻撃しないと倒せない魔物じゃないっけ。

 ゲームでは結構大きかったけど、ここではどれくらいの大きさなんだろう。


「なんだと!? どこでだ」

「西の畑のとこだ。頼めるか?」

「ああ。任せとけ」


 振り返ったカールさんは私たちに頭を下げた。


「すみません、お客さん。ちょっと用事ができてしまいました。部屋は二階の奥の二部屋でよろしければ空いていますので、先に休んでいてくださいますか?」


 それを聞いて、どうする、と視線を送ってきたフランクさんに、アルにーさまは頷きを返した。


「君は魔法も使えるのかい?」

「いえ。でも斧の技の『甲羅割り』をトールさんから教わっています」


 ああ、確かに斧スキルの『甲羅割り』なら、甲冑虫にもダメージを与えられるかも。


「そうか……。じゃあ君は、確かにトールの弟子なんだね」


 懐かしいものを見るように、食堂の壁に飾られた斧を見るアルにーさまは、なんだかトールさんと知り合いだったみたいな言い方をしてる。


「あなたは、トールさんを――」

「早くしろ、カール!」

「あ、ああ。悪いジャック。……今行く」


 ジャックさんに()かされたカールさんは、壁に飾られた新しいほうの斧を手に取った。




 ▽連続クエストが発生しました。

 ▽このクエストを受注しますか?

    ▽    ▽

    はい   いいえ




 うわぁ。また半透明のウィンドウが出てきたよ!

 しかも連続クエスト!?


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