第57話 私の冒険、どうなっちゃうの!?
いよいよイゼル砦を出て、土の迷宮に出発することになった。
アルにーさまとアマンダさんは、魔の氾濫が終わった後の一年間の休暇を使って私と同行してくれることになっている。
がんばって一年間の間に賢者の塔へ辿りつかなくちゃね。
そしてフランクさんは、なんだかおもしろそうだからってことで着いてきてくれることになった。もちろん頭の上のルアンも一緒だ。
最近は、フランクさんの頭の上にピンクのちびうさぎが乗ってるのにも慣れてきちゃったなぁ。むしろ、いないと寂しいなと思っちゃうくらい。
ノアールもそうだけど、言われなかったら魔物だって分からないんじゃないかな。新しいペットだって思われそう。
「にゃあ。にゃんにゃあ」
「きゅっ」
うん。ペットの子猫とちびうさぎが会話しているようにしか見えないかも。
あれぇ。ノアールって確か『豹王』だったんだよね。
はっ。
もしかして可愛さが王様級ってこと!?
うん。きっとそうだよね。
そして獣人のヴィルナさんは、土の迷宮の後に獣王国にある炎の迷宮に行くのなら里帰りする予定で行き先が同じだからってことで、一緒に来てくれることになった。
そして皆で門へ向かっていると――
「小娘! 新種のスライムを捕まえに行くぞ!」
えええええっ。
カリンさんも一緒に行くんですか!?
聞いてないですよーっ。
振り向くとそこには、いつもの瓶底メガネをかけてスライム帽子をかぶったカリンさんがいる。
しかも腰に手を当てて、えっへんってポーズをしてるし!
「カリンがどうしても一緒に行くって聞かなくて……」
「世間知らずが一人だろうが二人だろうが変わらねぇしな」
困ったように言うアマンダさんとは対照的に、フランクさんは全然気にせず先に進む。
えーっ。さすがに私、カリンさんほど世間知らずじゃないと思いますよ。
ひどいです!
思わず頬をふくらませていると、ポンポンと頭を撫でられる。
見上げるとアルにーさまの優しい水色の瞳。
「まあ、人数が多い方が楽しいと思うよ」
アルにーさまがにっこりと微笑む。
そう言われると……そうなのかな。
「ところで、新種のスライムってどんなのですか?」
「ふむ。よくぞ聞いてくれたな。……そうだな。ここら辺にいるスライムは緑か土色をしておるが、その中でも特定の葉や土しか食べぬ個体がいるのだ。それを見つければ良い」
「えっと。どうやってそれしか食べないっていうのが分かるんですか?」
「もちろんその匂いをかぐに決まっているだろう。ただの緑スライムなら色々な草の匂いが混じっているが、特定の葉しか食べぬスライムであればその葉の匂いしかせぬからな」
えええええっ。
スライムの匂いで判断するんですか?
でもスライムの匂いなんて分からないですよぉ。
試しに抱っこしたノアールの頭の上にいるプルンの匂いをかいでみたけど……。う~ん。スライムってあんまり匂いがしないなぁ。
ノアールは、なんだかお日様の匂いがするけども。可愛い匂いだから、大好き。
「……そんな芸当ができるのはカリンだけに決まっているでしょう?」
呆れたようなアマンダさんに、カリンさんはショックを受けたように立ちすくむ。
「なななんと! このスライムのかぐわしい匂いが分からぬというのか!?」
「普通はね」
「それでは人生のほとんどを棒に振っているようなものだぞ」
「いえ。そう思うのはカリンだけじゃないかしら」
「人族とは、なんと不憫なのだろう」
「――ヴィルナは分かる?」
アマンダさんに聞かれたヴィルナさんは、一瞬耳をピコッと動かして、それからプルンを見て首を横に振った。
「嗅覚の鋭いヴィルナにも分からないみたいよ。これじゃ、同じエルフのナルルースにも分からないって言われそうね」
「なんということだぁぁぁぁ」
頭を抱えて打ちひしがれているカリンさんをそのままにしたアマンダさんは、ふと視線を上げてイゼル砦の大きな門を見る。
門の上の見張り台に人影があった。あれは……レオンさん?
わざわざお見送りしてくれたのかな。
なんだか嬉しくて、思いっきり手を振った。
同じく気がついたらしきアルにーさまたちも、上を見上げる。
レオンさんは軽く手を上げると、そのまま背を向けた。
ふふっ。相変わらずだなぁ。
えーっと、こういうのってなんて言うんだっけ? クールにデレるから、クーデレだったかな。わざわざ見送りにきてくれてるもんね。デレてる、デレてる。うん。
「さあ、行こうか」
よーし。土の迷宮目指して、出発でーす!
「うむ! 新種のスライムを探す旅の始まりだな! 胸が高鳴るぞ!」
カリンさんが遠くを指さして平たい胸を張る。
って、カリンさんだけ何かちがーう!
私の冒険、どうなっちゃうのおおお!?




