第50話 一件落着
頭の上にずっとスライムが乗っているのを想像したらしきアマンダさんは、従魔を持つのを諦めたらしい。
うん。頭の上に乗ってるのがスライムだと、なんとなく、髪の毛がべっちょりしちゃいそうだもんね。
ほら、スライムって体のほとんどが水分だから。
「よく考えたら、ノアールもプルンも、ユーリちゃんと一緒にいれば思う存分可愛がれるものね。それに戦闘中にスライムを落としたら可哀想だし。わざわざキュアを覚えなくてもいいかしら」
「む? このスライムポーチを使えば落とさぬぞ。もしくは頭の上がよければ、ほれ。今このスライム帽子をスライムの保護用として改良するべく研究中なのだ。頭の上にいるのが好きなスライムでも、この帽子の中にいれば落とす心配もない。どうだ、凄いであろう」
えっへんとイバるカリンさんを見下ろしたアマンダさんは、軽く首を振った。
「その帽子をかぶるのは遠慮しておくわ。……遠くから見たら、カリンと間違われそうだし」
……確かに、この帽子はインパクトあるもんね。私も初めて会った時は、大きなスライムかと思っちゃった。
「遠慮などせずともよいぞ! アマンダがキュアを覚えるまでには、帽子の改良を済ませておこう」
「いえ。遠慮させてちょうだい」
「あ、カリンさん! このスライムって目とかないのに、どうして真っすぐ進むんですか?」
このままだとアマンダさんがスライム帽子を押しつけられてしまうと焦った私は、慌ててカリンさんの気を逸らそうと、スライムについて質問する。
「ふむ。それはだな。一切食べ物を与えずにお腹を減らせておいて、レースの時にこのゴールのところへ餌を置いておけば良いのだ」
なるほど~。つまりお馬さんを腹ペコにして、ゴールに人参を置いておくってことですね!
「やっぱり他に比べて速い子っているんですか?」
「うむ。この2番は速いな。他のスライムよりも少し細いであろう? だが持久力で言えばがっしりとした体型のこの3番だな。そしてこの1番は――」
しまった!
カリンさんのスライムトークが始まっちゃった。
しばらく止まらないよ。どうしよう。
助けを求めるようにアマンダさんとアルにーさまを見上げたけど……。二人とも、にこにこして私を見ていて、全然助けになりそうになかった。
「にゃう」
ぷるるん。
ノアールが一声鳴くと、プルンがぷるんっとノアールの頭から降りて、スライムレースのサーキットの上に降りた。そして2番のスライムの前を走る。すると、プルンに釣られた2番のスライムは、一緒にゴールから逆走して走り出した。でも、競争というよりは二匹で遊んでいるような感じだ。
「おおおおおおおお。なんと、従魔ではないスライムもこのように遊ぶのか!?」
「今まで遊んだことはないんですか?」
カリンさんのことだから、てっきり従魔じゃない普通のスライムと遊んでるのかと思ってた。だって、それぞれのスライムの個性をちゃんと分かってるんだもん。
私には皆透明で同じスライムにしか見えないけど、カリンさんにはちゃんと区別がついてるって凄いよね。
マクシミリアン二世みたいに意思の疎通はできないみたいだけど……。でもやっぱり普通のスライムよりも懐いてるのかもしれない。
ってことは、そんなスライムをキュアで従魔にしたらどうなるんだろう?
もしかしてスーパー凄いスライムになるんじゃ!?
「ない。もしかしてプルンと一緒だから、その影響を受けたのか? ならば、マクシミリアン二世ではどうであろう」
カリンさんは腰につけた特製ウェストポーチからマクシミリアン二世を出すと3番のスライムの横に置いた。
でも、マクシミリアン二世がそばに来た3番のスライムは、レースの時よりも素早く移動してマクシミリアン二世から離れる。
「な……。なぜだ! なぜプルンとは仲良く遊ぶのに、マクシミリアン二世はダメなのだ!」
ガーンとショックを受けるカリンさんに、アマンダさんは「もしかしたら」と言いながら、自分の唇に指を当てた。
「マクシミリアン二世の食事は聖水でしょう? それが嫌なんじゃないかしら?」
「なんだとおおおおおおおおおおおおおおお」
頭を抱えて叫ぶカリンさんとは対照的に、アルにーさまとフランクさんたちは「なるほど」と納得している。
「それはともかく、砦内での賭け事は禁止だから、しばらく謹慎を――」
「あー。ちょっと待ってくれアルゴ」
「なんですか、フランク神官。あなたは神殿から派遣されていて厳密にはイゼル砦に所属しているわけではないので、罰則は適用できませんが」
「いや、だからな。最初はカリンがここでスライムにレースをさせてるのを見て、こりゃ面白そうだと思って俺とシモンの二人だけで勝負をしてたんだよ。そしたらいつの間にか見物人が増えちまってな。こいつらも、最初は見てるだけだったんだが、どのスライムが勝つかで熱くなっちまってな。いつの間にか賭けてたんだよなぁ。だから、こいつらに罰を与えるっていうなら、代わり俺が罰を受けるさ。謹慎なら慣れてるしな」
「フランク神官は、いつも自覚なく周りを巻きこみますよね」
「いや、シモンがいるなら安心だしな。お前なら、どうにかしてくれるだろ」
ニカッと笑うフランクさんに、シモンさんは苦笑する。
「まったく……。だからフランク神官にはかなわない。ともかくアルゴさん。責任は全てこのフランク神官にあるので、罰金でも謹慎でも、どちらでも課してください」
「いやちょっと待て、シモン。謹慎はともかく、罰金はないだろう!?」
「これで少しは懲りるといいんですけどね」
シモンさんの言葉に、アルにーさまは大きく頷いた。
「なるほど。では一番反省しそうな罰金がいいかもしれないね」
それを聞いたフランクさんは「ちょっと待ってくれ!」なんて叫んでるけど、アルにーさまは聞く耳を持たない。
はぁ。これで一件落着かな~。
ノアール、良かったね~。




