第4話 言ってみちゃう?
あまりにも理解不能な事態に目をまわしていると、いきなり扉がバーンと開いて、真っ赤な髪の超美人さんが現れた。赤い目も鼻も口も大きめな華やか美人さんだ。まつ毛もばっさばっさで、爪楊枝がいっぱい乗りそう。
「アルゴ!団長の隠し子ってその子?」
「アマンダ。いきなり何を言ってるんだ」
「いや~ん。可愛いじゃないの。団長ったら女に興味ありませんなんて顔しちゃって、しっかりこんな可愛い子作ってるし。ねね、いくつ?お名前は?お母さんはどうしたの?」
矢継ぎ早に聞かれて、ただでさえ回っていた目がさらにグルグルする。
グルグル世界が回って……
ぐらぐらぐらぐら世界が揺れて……
そしてそのままフェードアウトした。
よく、夢から醒めると言うけれど、どの時点で夢から醒めたことを自覚するんだろう。
やっぱり目が覚めてそこが見慣れた自分のベッドの上だったら、だろうか。
じゃあ、もしもその夢がいつまでたっても醒めない夢だったなら……?
夢が現実となって、今まで確かにそこにあったはずの現実が、夢の彼方へと消えてしまうんだろうか……?
はい。自分でも自覚しています。
絶賛、現実逃避中の私です。
だってね、目が覚めたら知らない天井なんだもん。
ぐるりと見回した部屋の中も全く見覚えがなくて、意識がなくなる前に見た執務室とやらにそっくり。
夢だったはずなのに、まだ醒めない……
ジワリと目に涙が浮かぶのを感じる。
でもだめだ。
泣いちゃダメ。
ここで泣いても何の解決にもならない。
考えろ、考えるんだ。私がこれからどうすればいいのか。
まず私はどうしたいのか。
それは決まってる。この世界が現実なら、元の世界に戻る事。
じゃあどうやって元の世界に戻る?
……そこで思考が止まる。
この世界は私みたいに違う世界から人が来たりするんだろうか?もしかして自由に行き来できたりして?
それなら私はすぐ帰れるから安心なんだけど……
もし異世界との行き来が自由にできないのなら、それが故意にしろ偶然にしろ、私がここに来たのには何らかの原因があるはず。その原因が分かれば、帰る方法も分かると思う。
でもその原因を、どうやって突き止めればいいんだろう……?
仰向けになったまま、両手を伸ばしてみる。
本来の私のものよりも、ずっとずっと小さな手。
これ、絶対ちびっこになってるよね。
この世界ってちびっこ一人で何とかやっていける世界なんだろうか……
ステータスとか見れればいいんだけど……エリュシアオンラインでは当然見えたけど、ここでも見えるんだろうか?
でも押せそうなボタンとかないしなぁ。それとも小説みたいにステータスオープンとかって言うんだろうか。
い……言っちゃう?
言ってみちゃう?
旅の恥はかき捨てって言うし、思い切って言ってみちゃう?
「ス……ステータス。オープン」
なんか厨二病みたいではずかしくなったから、思いっきり小声で言ってみる。
すると目の前に半透明な窓が開いた。
「えっ。できた?」
半透明の窓には文字と数字がたくさん並んでいた。もしかしてこれがステータス?
えーっと、どれどれ。
九条悠里。8歳。賢者LV1。
HP 156
MP 125
所持スキル
魔法 100
回復 100
錬金 100
称号
魔法を極めし者
回復を極めし者
異世界よりのはぐれ人
なんかHPとMPは微妙な数値だけど、LV1だったらこんなものかなぁ。
年齢は8歳かぁ。なんでこんな中途半端な年齢なんだろう?
う~ん?
スキルはゲームでMAXまで取ってたからそれが反映されてるとして、問題は称号だよね……
異世界よりのはぐれ人って何だろう……
はぐれた、ってどういう意味だろう?
日本で一番有名なはぐれモンスターなら銀色のアレだけど……
う~ん、う~ん?
つまりはあれかな?
迷子って事かな???
そうだ。ステータス画面が出たって事は、ログアウトもできるんじゃないかな……
と……とりあえず試してみよう。
「ログアウト!」
しーーーーん。
「ログアウト実行!」
やっぱり、しーーーーーん。
「ログアウト、エンター!」
……分かってはいたけど、何も反応なし。
やっぱりダメかぁ……
じゃあフレンドチャットのほうはどうだろう。
「フレンドチャット・オープン」
こっちも反応なし。
反応するのはステータス画面だけって事かぁ……
はぁ……残念。
やっぱり帰れないのかなぁ……
お母さん、お父さん、お兄ちゃん……
また涙がにじんできて、ホロリと頬を伝った。