第32話 エピローグ そしてこれから
ゴブリンキングが倒されて一週間が経った。イゼル砦に戻って来た私たちは、まだまだ、忙しい日々を送っている。魔の氾濫が終わったとはいえ、魔の森の魔物たちは増えたままだからだ。
でもそれも、しばらくすれば落ち着くだろう。
だから、そろそろ今後の事を真剣に考えなくちゃいけない。
ここから少し南に行くと、土の迷宮がある。そこに行って、賢者の塔への鍵を見つけるのだ。
同行してくれるのは、魔の氾濫の後は一年の休暇をもらえる、アマンダさんとアルゴさん。そしておもしろそうだからついて行くと言ったフランクさんだ。
それからもう一人。
イゼル砦でスライムの研究をしているカリンさんがいる。
実はこの世界のスライムは人々の暮らしにとっても役立っているのである。
昔、とある魔物研究家がいて、スライムの体に入れた物は何でも融解させてしまうという特性に目をつけた。そして人を襲わないようにして、ゴミだけを処理するように品種改良をした。
それをスライム農家が繁殖させて、ゴミとか残飯の処理をしているらしい。品種改良されたスライムは透明のゼリーのような姿で、勝手に増殖することはないんだって。
「でもほら、スライムの日だけは食べ物をあげると増殖しちゃうじゃない?」
それを説明してくれたアマンダさんの言葉に、私は目を丸くする。
「スライムの日……。それって何ですか……?」
なんていうか、予想もしなかったスライム事情だ。
「知らない?」
「……はい」
エリュシアオンラインでも、家の中でスライムを飼ってるなんて誰も言ってなかったよ!
それにスライムの日なんて初めて聞いた。
「スライムの日っていうのは、一年のうちで一番昼間が長い時のことよ」
ほむ。
つまり、スライムの日は夏至ってことだ。
「増殖したスライムはどうなるんですか?」
「それがねぇ。捨てる人が後を絶たないの」
「捨てる?」
「そうすると野生化しちゃって野良スライムになるじゃない? だから町の周りとか砦の周りにはスライムが多いのよねぇ」
「野良スライム……」
しかも食べた物によって、変異しちゃうらしく、それを研究しているんだそうだ。
そのスライム博士であるカリンさんは、なんというか、凄く変わった人だ。
スライムの形の帽子までかぶるくらいのスライムマニアで、研究のしすぎなのか、瓶底メガネをかけている。
年は十七歳とかそれくらいなんだけど、凄く古風な喋り方をする人だ。着ている服も、ちょっと巫女さんっぽい。
そんなカリンさんは、スライムの研究をするために私たちと一緒に行きたいと言い始めた。
えー。大丈夫かなぁ。
そしてなんと、獣人であるヴィルナさんも――
「えっ。ヴィルナさんも一緒に行ってくれるんですか?」
「ああ。そこにいる男が、イゼル砦の神官の職をシモンに放り投げたからな。しばらく『黎明の探求者』は活動休止だ」
肩をすくめて言うヴィルナさんに、フランクさんは豪快な笑い声を上げる。
「はっはっは。すまねぇな、ヴィルナ」
「フランクは、ちっとも悪いと思っていないだろう?」
「でもまあ、お前もいい機会だろうよ。土の迷宮を攻略した後は、ウルグ獣王国にある炎の迷宮に行くからな。お前も久しぶりに里帰りすりゃぁいいさ」
肩をすくめるフランクさんの頭の上で、ルアンがきゅきゅぅと可愛らしく鳴いて同意する。
わぁ。可愛い。
そう思ったのが分かったのか、足元にいたノアールが身体をこすりつけてくる。
「にゃああ」
もうっ。うちの子ってなんて可愛いんだろう。
私はノアールを抱き上げてから「ノアールが一番好きだよ!」と言って、小さな黒猫をぎゅううっと抱きしめる。
よ~し。賢者の塔への鍵を求めて、これからもちびっこだけどがんばるぞ。お~!




