第3話 元の世界に帰れるの!?
気を取り直して周りを見るけど、灰色の道と草原と遠くの森くらいで、特に見るものはないなぁ。
あ、なんか遠くに建物が見える。
段々と近づくと、ヨーロッパとかにありそうな小ぶりなお城が見えてきた。
周りを石の壁で囲まれて、中央には塔が見える。
「あれがイゼル砦だ。聞いたことはあるか?」
金髪のお兄さんに聞かれて、首をふるふると振る。
「そうか。……まあ、詳しい事は砦に着いてから聞こう」
近くに行くと城壁の周りにお濠みたいなのがあって、入口のとこに橋がかかってた。
そして城壁から声が聞こえて、ガラガラと跳ね橋みたいなのが降りてくる。
跳ね橋が地面に降りて、ドシーンと振動が響くのを、私は不安と共に感じていた。
砦の中へ入るとそこはちょっとした広場のようになっていた。団長さんたちが中に入ると、わらわらと人が集まってくる。
「アルゴ。ユーリを頼む。執務室で待っていてくれ」
「はい、団長」
先に馬から降りたアルゴさんが、私を馬から降ろしてくれた。
トンッ、と地面に足がつく。
足先から伝わる確かな振動。
ううん。そんな事ない。
これは夢。
夢に決まってる……
「じゃあユーリちゃん、こっちにおいで」
アルゴさんに手を引かれて、私は不安で押しつぶされそうになりながらもその後を追った。
広場を抜けると、人が一人くぐれる程度の入口があった。そこを抜けて、薄暗く狭い階段を上に進む。
なんだか心細くなってアルゴさんの手をぎゅっと握ると、アルゴさんは振り返って私を安心させるように微笑んだ。水色の瞳が優しく微笑んでいる。
「ちょっと暗いから怖いよね。すぐに明るくなるから、もうちょっと我慢してね」
私がこくっと頷くと、アルゴさんはまた前を向いて先を進む。
階段を登りきったそこは、建物の屋上のようになっていた。暗い所から急に明るい所に出て、一瞬目がくらむ。ようやく目が慣れて周りを見ると屋上の上にはまた別の大小二つの建物と塔が建っていた。
アルゴさんは大きい方の建物へ歩いて行き、門の前に立つ騎士のような人たちに挨拶して中へ入った。
「さあ、こっちだよ」
大きなホールのような玄関の奥に、右から左にかけて上がっていく階段があった。そこを登って右端の部屋へと向かう。
中に入ると、大きな机がまず目に入った。そして積み重なる書類らしき紙の束。
「さあ、じゃあここに座って。えーと、何か飲み物でもあったほうがいいかな。ちょっと待ってね」
壁際にあるソファを示すと、机の向こうにある紐を引く。
するとしばらくして誰かがドアをノックした。アルゴさんが入室の許可をすると、熊みたいな髭もじゃの人が部屋に入ってきた。
「お呼びですか、副団長」
「ああ、うん。ちょっとこの子にね、何か飲み物を持ってきて欲しいんだ。子供でも飲めるようなものを……ユーリちゃん、飲めないものはあるかい?」
聞かれて首を傾げる。
っていうか、夢の中でそんな事聞かれても、どう答えたらいいの?
「とりあえずリコのジュースでいいかな。ゲオルグ、頼むよ」
「了解しました」
ゲオルグと呼ばれた熊さんが立ち去ると、アルゴさんが私の隣に座った。
「さて、と。う~ん。何から聞けばいいのかなぁ」
眉を下げてそう言うアルゴさんに、私は恐る恐る聞いてみることにした。
「あの……ここってどこですか?なんて言う国ですか?大陸の名前は?」
「えっ。そこから?」
「はい。お願いします」
「大陸の名前はエリュシアだね。でもってここはアレス王国のはずれにあるイゼル砦。魔の森のすぐそばにある砦だけど、聞いたことないかい?」
エリュシア……
その時、私は賢者に転職した時に真のエリュシアに行くかと聞かれた事を思い出した。
でも、まさか、そんな……
イゼル砦という名前に聞き覚えはないけど、アレス王国なら聞いたことがある。っていうかクエストで何度も訪れた国だ。
最近も王位継承のゴタゴタがあって、国王派と王弟派で争ってるのを収める為に協力してくれなんていうクエストをやった気がする。本当は二人は仲が良いんだけど、黒幕がいてわざと仲たがいするように仕向けていたんだっけか。
あのクエスト、報酬が武器で剣か杖か選べて良かったんだよね。
って、そうじゃなく!
え?え?え?
ホントにゲームの世界にきちゃったの?
ここ、エリュシアオンラインの中なの?
え?でも夢じゃないなら、私これからどうなるの?
元の世界に帰れるの?