第25話 猫は鼠を追いかける
ノアールを他の魔物と区別するために、という事で首に赤いリボンをつける事になりました。野営の用意の中に、裁縫道具一式を持っているゲオルグさんの女子力が凄いです。
そしてノアールは、可愛いのがさらに可愛くなりました。
ちなみにそのリボンは、私の髪が伸びたら結ぶのに使う予定で持っていたそうです。
ゲオルグさん、そんなすぐに髪の毛は伸びないですから……
その日の夜は、アマンダさんや女性騎士さんたちと同じテントでした。
セリーナさんと同じ部屋だったらどうしようとドキドキしていたので、アマンダさんと一緒な事に安心しました。
セリーナさんがああいう風に思うのは仕方がないんだって分かってても、やっぱりあんな言い方をされると、ちょっと苦手って思っちゃいます。
その点、アマンダさんと女性騎士さんたちは、サッパリした性格の方が多いので気が楽です。
それに、ご飯も一緒に食べたのですが、女性騎士さんたちは普段の凛々しさはどこへやら。ノアールにお肉をあげたりして、しっかり餌付けをしてメロメロになってました。
ノアールもお肉をくれる人はいい人だと思うのか、思う存分甘えています。
さすがにゃんこ。天性の甘え上手さんだ~。
ノアールは子猫だからミルクを飲むのかと思ってたけど、ちゃんとお肉を食べれるんですね。ここにはミルクなんてないから、良かったです。
ちなみに、食材のお肉は魔物の物です。
魔物によってはキュアで浄化しないと食べれないお肉もあるそうだけど、魔の森で取れる額に小さな角のあるホーン・ラビッドや、猪に似た魔物のボア・ファングなんかは、そのまま食べても大丈夫なんだって。
砦で出たご飯のお肉も、実は魔物のお肉だったみたい。
ちょっとびっくり。
でも砦で牛とか飼うのは無理だし、近くの村から運ぶのも大変だろうし、一番近い魔の森から調達するのが手っ取り早いんでしょうね。
それにしても、プレイヤーが選ぶ職としての神官以外に、必ず町とか村に小さくても教会があって神官さんがいたのは、キュアで飲み水や魔物のお肉を浄化する役目があるからなんですね。
王都なんかでは牛肉も食べれるみたいだけど、地方ではお肉といえば魔物の肉なんだそうです。
だからどこの町でも神官さんは一目置かれているわけです。なるほど~と、納得しました。
そして夜寝るときはもちろん、しっかりノアールを抱いて眠りましたよ。
翌朝起きた時はなぜかノアールごと、アマンダさんに抱え込まれてましたけど……謎です……
そして翌日から、魔物にキュアを当てて大人しくなるかどうかの実験をする事になりました。
昨日の探索の様子だと、やはり全体的に魔物が増えて群れをなしているらしく、昨日だけでもゴブリンやワーウルフ、そしてダークパンサーの群れを騎士さんたちが倒していたそうです。
その群れは一つではなく複数ではあるものの、さすがにまだ王が出現した時のような統制の取れた動きはしていないとの事。
魔物の王の出現が避けられない事なら、早くその種類が分かるといいんですけどね……
今回もアルゴさんはお留守番して情報整理なので、今日はレオンさんと同じ班で行動する事になりました。レオンさんと野営地を出る時に、一瞬セリーナさんから鋭い視線を向けられた気がしましたが……気のせいだといいんだけどなぁ。
野営地を出てしばらくすると、ゴブリンが数匹こちらを襲ってきました。もちろんすぐにレオンさんが斬り倒しましたが、1匹だけ残して騎士さんたちがその両手足を拘束しています。
「ユーリ、キュアを」
「はいっ。キュア、対象はゴブリン!」
ヒールと同じく銀色の光がゴブリンへと向かう。でもゴブリンの様子に変化はないです。
「離せ」
レオンさんたちがゴブリンの拘束を解くと、グゲゲゲゲと叫びながら歯をむき出しにして私の方へ向かってくる。
これ、どー見ても懐いてませんよねっ。殺そうとしてこっち来てますよねっ。
迫ってくるゴブリンにひるみそうになったけど、なんとか踏み留まります。
そしてゴブリンは私に辿りつく前に、騎士さんの一人に斬り倒された。
だ……だいぶ、魔物が倒されていくのを見るのにも慣れてきました。
まだ心臓がバクバク言ってるけど。
「ゴブリンに変化はないな……」
レオンさんはチラリと私の後ろにいるノアールにも目を向けました。
今の戦いでノアールが魔物の本性に目覚めるかどうかっていうのも、実は確かめたかったのかもしれません。
私もちょっぴり心配だったのですが、変わらずに愛らしいノアールの様子にほっとしました。
「キュアが原因ではないという事か……?それとも獣型の魔物にしか影響がないのか……」
レオンさんの言葉に応えるように、ノアールが「にゃぁん」と鳴きます。
そんな事ないだろうけど、なんだか言葉が分かってるみたい。
会話のような一幕に、ついつい笑ってしまいました。
「もう少し試してみよう」
「はいっ」
ゴブリンの死体をそのままにして行くので、アンデッド化防止の為の処理をしないのかと聞いたら、なんと魔の森には『掃除屋』と呼ばれるミミズのような魔虫がいて、死体を全部食べてしまうんだそうです。
その魔虫が出す糞が森の栄養になるので、魔の森はこんなに木が多くて豊かなんだって。なるほど~。
もう少し先に進むと、今度はノアールより少し小さいくらいの大きさの、鼠の魔物のワーラットの群れがいました。向こうはまだこちらに気がついてないようなので、遠くからキュアを飛ばしてみます。
「キュア、対象は手前のワーラット!」
詠唱と同時に、ワーラットの群れが私たちに気が付きました。そしてキュアをかけたワーラットも、目を赤くして仲間と共に一斉にこっちへ向かってきます。ワーラットの黒い目が赤くなるのは戦闘色になった時です、つまり……
あ~。ダメだ、やっぱり効いてないみたい。
レオンさんと騎士さんたちが、向かってきたワーラットを倒します。私もウィンド・アローをワーラットに向けて詠唱しました。
と、その時。
突然足元を黒い影が走り抜けました。
「ノアール?!」
ノアールはワーラットの喉笛に噛みつくと、次々にワーラットを倒していきます。その姿は、小さくてもやっぱり魔物そのもので……
あれ……?でも猫って、鼠を狩って食べるよね。
っていうことは、ゴブリンの時には知らんぷりしてたけど、これは鼠だから追いかけてるって事?
ノアールは猫科の魔物だから、鼠の魔物ってもしかして大好物とか。
つまり、ワーラットって餌?餌なの?!
ノアールの魔物の本性を見た驚きよりも、やっぱり猫だから鼠を襲うんだろうかと考えているうちに、いつの間にかワーラットの群れは殲滅されていました。
あれっ。いつの間に?!
ノアールは……あ、毛づくろいしてる……
ひとしきり体を綺麗にして満足したらしきノアールは、褒めて褒めて~とばかりに私の足に擦り寄ってきました。
「にゃ~。ゴロゴロゴロ。にゃぁ」
こ……これは、ちゃんと褒めてあげないと。
「よくやったね、ノアール。いい子いい子」
撫でて上げると、当然、というように「にゃあ!」と鳴き声を上げました。
本当に、言葉が分かってるみたいだね。
その後もノアールは小猫の大きさくらいしかないのに、自分よりも大きい魔物を倒したりして大活躍でした。
あれぇ?……もしかして、私よりノアールの方が活躍してませんか?!
結局、何度か魔物と遭遇してその度にキュアをかけてみたけど、ノアールのように懐いてくる魔物はいませんでした。
やっぱりキュア以外の何かが必要ってことなのかなぁ?
お昼に砦に戻ってフランクさんにも話を聞いたけど、やっぱり効果はなかったみたいです。
でも何度か色々なシチュエーションでチャレンジしてれば成功するかもしれないという事で、これからもキュアを飛ばしてみるそうです。
「魔物との相性もあるのかもしれませんね」
私は某国民的RPGで、魔物が仲間になる時の事を思い浮かべました。
銀色のはぐれたアレは、なかなか仲間にならないんですよね。
「相性がよくないと、懐かないってぇ事か」
「かもしれません」
「って事は、数打ちゃ当たるのか……?」
どうなんだろう?でもそうなのかもしれない。
「まあ、今までになかった事なんだから、すぐに全部が分からねぇのは仕方ないな。気長にやってくか。幸い、試す魔物の数には不自由しねぇしなぁ。わっはっは」
フランクさんは豪快に笑うと、戻ってきた騎士さんの手当てに行きました。私もそのお手伝いをしますが、ひどい怪我をした騎士さんはいないみたいで一安心です。
イゼル砦の神官はフランクさんだけなので、そんなに大した怪我じゃない場合はHPポーションで治すのかなぁと思っていたのですが、話を聞くとこの世界のポーションはあまり効能がよくないらしく、ランダムで少量のHPを回復してくれるだけ、という物らしいです。
その割に値段はそこそこするので、あんまり使う人がいないのだとか。
もちろん高性能のHPポーションもあるけど、そちらはもっと高価だから、軽い怪我は普通に薬草をすりつぶしたのを患部に塗り付けて包帯で巻いて保護する、というのが常識だそうです。
MPポーションも同じような効能で、しかも材料となる魔草が魔皇国の方にしか生えていないので、更に高価なんだとか。
なるほど~。そういう事なら、ほいほいポーション飲めないですよね……
それにヒールも、ちょっとの傷でもどんどんヒールしてたら、MPすぐになくなっちゃうもんねぇ。
私が持ってるポーションは、HPもMPもそれぞれきっちり30回復してくれて、ハイポーションは50回復してくれる。さすがゲーム仕様って感じだけど、これからこの世界で作っても同じ仕様なのかな?それとも回復量がランダムになるのかな?
今度、時間がある時に試してみようっと。




