第24話 可愛いにゃんこは好きですか
「にゃ~にゃ~」
子猫は私の足に擦り寄りながら、甘えた声で鳴いていた。
何?! 何がどうなってるの?!
「ユーリちゃん、そいつは魔物だ、離れて!」
アルゴさんの叫びと同時に、私の横に立つゲオルグさんが剣を子猫に突き刺そうとする。でも子猫はひょいっと身を翻すと、その剣をよけた。ゲオルグさんはなおも子猫を狙ったけれど、私の足が邪魔をしてうまく狙えないみたい。
「離れてって言われても……え?魔物?」
にゃ~んって鳴いたのに?
どこからどう見ても子猫にしか見えないのに?
思わず凝視すると、子猫が私を見上げてもう一度にゃ~んと鳴いた。
サファイアみたいな青い瞳が、キラキラと光って私を見つめている。
え……何、この可愛さ。
思わず胸がきゅ~んとして、気がついたら子猫を胸に抱き上げていた。
「猫ちゃんだ~!にゃんこにゃんこにゃんこ~~~~~!!!」
頬ずりすると、子猫がほっぺをペロペロとなめてきた。
あは。くすぐったい。
私は子猫を目の高さまで上げると、目を合わせて話しかけた。
「猫ちゃんはどこから来たの?名前は?どうしてここにいるの?」
じっくり見ると、本当に可愛い顔をしていた。くりっとした青い瞳が愛らしい。
私、猫が大好きなんだけど、お兄ちゃんが動物アレルギーだったから家で飼えなかったんだよね。黒くて青い目の猫って、私が飼いたかった理想のにゃんこさんだ~。
でも……と、お兄ちゃんを思い出した私は、子猫をぎゅっと抱きしめた。
お兄ちゃん、元気かな……。お父さんもお母さんも……
この世界に来てから、本当は何度も何度も家族の事を思い出してる。どうしたら帰れるのかも分からなくて、不安で仕方なくて。
だけど……胸に抱いた子猫のぬくもりが、そんな寂しさをちょっぴり薄れさせてくれた。
子猫もそんな私の気持ちに応えてくれるように、にゃ~んと鳴いて身を寄せてくる。
「えーっと……これ、どうすればいいんだろうねぇ……?」
呆れながら言うアルゴさんの言葉に、私はハッと我に返った。
あ、そうだ、この子魔物だって言われたんだ。
え、でも襲ってこないよ?
それに魔物だったらどうして魔物除けの魔法陣のあるここにいるの?
「この子、ただの子猫じゃないんですか?」
「魔の森に普通の動物はいないんだよね。迷い込んだとしても、普通は魔物に喰われるだろうしね」
「でも……」
「だからそれは魔物だよ。ダークパンサーの子供」
ダークパンサーって……ああ、そんなのいたなぁ。そこそこ強めの魔物じゃないっけ。その名前の通り、黒い豹の魔物だ。
確かに黒いけど……でもこの子は、どこからどう見ても猫にしか見えないんだけども……
それに、普通、大型の動物の子供は体は小さくても足が大きいんだけど、そこまで大きくないよ?
「魔物の生態はよく分かってないから断言はできないけど、大きさから見て生まれたばっかりなのかな。という事は、生まれてすぐは魔物といえども凶暴性はないのか……?いや、でも魔物である以上、魔物除けの魔法陣には近寄れないはずだ。つまり、これは、どういう事だ……?」
油断なく剣を構えたまま考えるアルゴさんに、ゲオルグさんがもしかして、と声をかけた。
「さっき、ユーリちゃんが水にかけようとしたキュアを森の方に飛ばしてしまったんですが、もしかしてそれがこの魔物に当たったという可能性はないでしょうか?」
「まさか。そんな偶然があるはずないだろう」
「ですが、魔物がこんなに懐くなどあり得ません。何か原因があるはずです」
ゲオルグさんに言われて、アルゴさんはう~んと首を傾げた。
「ちなみにユーリちゃんは、魔物を従えさせる魔法かスキルを持っているかい?」
「いえ、持ってないです。エリュシアではそういうのがあるんですか?」
「僕もそんなのは聞いたことがないけど。そうか。異国にもないのかぁ」
ゲームでもそんな職はなかったような……
考えていると、子猫がにゃぁと小さく鳴いた。
どうしよう、ホント可愛い。
喉のところをくすぐってあげると、ゴロゴロと気持ちよさそうな声を上げる。
「だとすると、本当にキュアが当たったという事か……?ダメだ。分からない事が多すぎる。団長に判断をゆだねよう」
「そうですね」
結局、レオンさんが戻ってくるまで、現状維持という事になりました。
「あの、でもこの子のお母さんとか大丈夫ですか?」
「お母さん?」
「こういう獣型の魔物って、お母さんから生まれるんじゃないんですか?」
そうだよ、どうしよう。もしもこの子を取り返そうとして魔物の大群が襲ってきたりしたら……
「どうなんだろうねぇ。魔物の繁殖については分かってない事が多いしね。親から生まれるのか自然発生するのか、まだ解明されてないんだ……まあ、いずれにしても弱肉強食だろうから、いなくなった時点で群れから脱落したと思われるんじゃないかなぁ」
それは、その時点で切り捨てられてしまってるって事?だったら、この子のお母さんが探しに来るっていう事もないのかな。
「たとえダークパンサーの群れが襲ってきたとしても、返り討ちにすればいいしね。魔物も減って一石二鳥だよね」
いえ……そういう展開はこっちが悪者みたいなんで、慎んでお断りしたいです……。
レオンさんたちが探索から戻ってくるまで、私はその辺に生えていた猫じゃらしに使えそうな草を使って、思う存分子猫と遊びました。
なんていうかもう、至福の時間でした。
最初は警戒していたアルゴさんや騎士さんたちも、時間が経つにつれ子猫に慣れてきて、じゃれてくる様子に頬が緩みっぱなしです。
やっぱり子猫の可愛さって、異世界共通で無敵なんじゃないでしょうか。
「それで。なぜ野営地にこんなものが紛れ込んでいるんだ」
戻ってきたレオンさんが、私の腕に抱かれた猫ちゃんを見て呆れたように言います。
「いえ、それが……」
アルゴさんの説明に、レオンさんはふむ……と、考えています。
「確かに魔物除けの魔法陣のあるここに、魔物が入れるはずはないな。だがソレはどう見てもダークパンサーの子供だろう。キュアで浄化されて凶暴性がなくなったという事か?」
「分かりません。でもそうだとすれば、ユーリちゃんのようにキュアを飛ばせる事ができれば、離れた場所から魔物を無効化できるって事にもなりますね」
「試してみる価値はある……か。フランク!」
レオンさんに呼ばれてフランクさんがやってきました。
「お前はヒール飛ばしを取得したんだったな。キュアも飛ばせるか?」
「練習すりゃぁ、いけると思いますねぇ」
「では今日中に飛ばせるようにして、明日の探索の際は魔物に最初にキュアを飛ばして様子を見ろ」
「了解」
「そしてユーリ」
「はははいっ」
急に名前を呼ばれて、ぴっと背筋を伸ばす。
「ソレが本当に無害なのかどうか、我々にはまだ判断しかねる。今はまだ子供だからいいが、大人になれば脅威になるだろう」
え?もしかしてこの子、殺されちゃうの?
でも、何にも悪い事してないよ?それにこんなに懐いてくれてるよ?!
「だが魔物の生態は未だよく分かっていない。子供の頃から育てていれば、少しはその生態が分かるだろう。どれくらいの時間で大人と同じ大きさになるのか、知能はどうか。観察できる絶好の機会には違いない。だからもしユーリがソレを育てられるというのであれば、生かしておいてやってもいい。ただし、人に危害を加えたなら、その時点で即刻処分する。どうする?」
どうするって聞かれても、答えなんて決まってる!
「私、育てます!がんばってこの子を育てます!」
「分かった。では皆にもその魔物には危害を加えないように通達しておこう」
「よろしくお願いします!」
私は力いっぱいレオンさんにお辞儀すると、子猫をぎゅうっっと抱きしめた。
「良かったね、飼ってもいいって!あ、名前つけないとね!」
何がいいかな。黒いからクロかな。
クロじゃありきたりかなぁ。
あ、じゃあ、夜みたいな色だから、ノアールにしよう。
「ノアール。君の名前はノアールだよ!よろしくね、ノアール!」
「にゃぁ!」
こうして私に新しい仲間ができました。




