第22話 セリーナさん
その日と翌日の魔法の訓練で、ウィンドアローで何とか丸太を薪のようなサイズに切るというミッションをクリアしました。
何も考えられないくらい疲れたけど……充実感はありますね!色々と吹っ切れたような気もするし。
それに、これでこの冬の備えはバッチリですね。って何か違う~~~。
でもなぜかアマンダさんが「次はファイアー・ボールで薪に火をつけて、そのあと更にウォーター・ボールで消火すれば完璧ね」と呟いていました。
あれ?これって魔法の威力制御の訓練だよね?
簡単キャンプファイアーの練習じゃないよね?!
アマンダさんがどこへ向かおうとしているのか、さっぱり分かりません……
もしかして魔の森の探索で、一人だけ迷子になってもサバイバルできるようにという親心でしょうか?
「う~ん。土魔法でカマド作ればいいとしても、雷魔法は使い道がないわねぇ。ああ、でもカマドは難しいかしら?煉瓦がいいかしら?」
……更なる呟きは聞こえなかった事にしましょう!
「セリーナさん、魔法の訓練につきあってくださってありがとうございました!」
私はセリーナさんへ向き直って、ペコリと頭を下げた。
もう少し魔力を濃縮するような感じ、とか、もう少し力を抜いて、とか。セリーナさんの的確なアドバイスには、とっても助けられました。
セリーナさんは土以外の魔法を使う事ができるらしく、しかもどの属性でも中級までの魔法を使えるのだとか。この世界では上級魔法は存在していないか、知られていないかのどちらかみたいなので、エリュシアではかなり高位の魔法使いという事で有名なんだそうです。
あ、そうだ。ちなみに私が最上級魔法を使えなかった理由はあっさり分かりました。LVアップした時にステータス画面で呪文のところをタップしたら、LV50以上で使用可、って書いてあったんです……。
魔法スキルも回復スキルも100なのに、LV制限で使えないって、ひどい~。上級職になっても、スキルをLV1から使えるための魔法スキル100じゃなかったのー!
でも、そういえばギルドチャットで「上級職になるとLV50の壁がぁぁぁぁ」なんて叫びを見たことがあるような気もします。上級職に転職しても、最上級スキルはLV50にならないと使えないみたい。だからだったんですね。とほほ。
まあ、そんな訳で、セリーナさんのおかげで立派な薪を量産……じゃなくて、魔法を対象だけに作用させることができるようになりました。
これで、明日からの魔の森の探索の時も、役に立てるようになればいいんですが……
「いいえ。それにしても賢者というのは、かなり特殊な魔法を使うのね。私も勉強になったわ」
う~ん、賢者が特殊って訳でもないんだけど。今のところ、この世界に賢者って私だけみたいだから、そういう事にしておいた方がいいのかな。
「明日から魔の森の探索へ向かうけど、あなたも行くの?」
「た……多分?」
セリーナさんに聞かれて首を傾げる。ちゃんと要請はされてないけど、多分、一緒に行くんだよね……?
あれ?でもちゃんと言われてないって事は、もしかしてお留守番?
「そうね。一緒に行くことになると思うわ」
その疑問にはアマンダさんが答えてくれた。
「そう……」
セリーナさんは一度視線を落とすと、また顔をあげて私を見下ろした。
「ユーリ・クジョウ。あなたがどこの誰で、どこから来たのかはどうでもいいわ。でもね、これだけは覚えておいてちょうだい。もしもあなたがレオンハルト様に仇をなしたら……例え子供でも容赦はしない」
そ……そうだよね。私みたいにどこから来たのか分からない子が、レオンさんみたいな英雄のそばにいるなんて許せないって思われても当然だよね。今まで皆優しかったから、そういうのに気がつかなかった……
「気にしないでいいわよ、ユーリちゃん」
その場に立ち尽くすしかない私の頭を、アマンダさんが優しく撫でてくれた。
「あの子は英雄レオンハルトの熱狂的な崇拝者なのよ。団長はアンデッドキングを倒してエリュシアに平和をもたらした後、まだ16歳という若さでこの砦の団長に任命されたの。それを聞いて、セリーナは団長の力になって一緒に戦いたいと思って必死に魔法を学び始めたんですって」
それにね、とアマンダさんは言葉を続けた。
「あの子、見れば分かるけど、貴族のお嬢様なのよ?魔法使いになんてならなくても、貴族の令嬢として何不自由のない生活を送れるはずなの。なのに、どうしても団長の力になりたいって、無理を言ってこのイゼル砦に来たそうよ」
「そうなんですか……」
「まあ8年前の魔の氾濫は1年も続いたしね。誰もが諦めかけた時に、団長がアンデッドキングを倒してくれたの。ユーリちゃんくらいの年の子供が憧れるのは無理もないわ」
1年……そんなにも長い間、あのワーウルフの群れみたいなものが、街を襲い続けたんだろうか。
「普通はどれくらいで終わるんですか?」
「魔物の王の強さにもよるけど、長くても半年で終わるわね」
「じゃあ1年って凄く長いんですね」
「ええ。だから人も街もかなりの被害を受けたわ。しかもアンデッドキングだったからアンデッドが大量発生して、襲われた街の住民もアンデッド化してしまって……」
今まで仲の良かった人が、殺された後アンデッドになって襲ってきたって事だろうか?
ゲームと同じ知識なら、確かアンデッドは死体をそのままにしておくとなる場合と、アンデッドに殺されてなる場合があったはず。そしてアンデッドに殺された場合はほぼ100%の確率でアンデッドとして蘇る。
それは……たとえ生き残ったとしても、精神的にかなりダメージを受けそう。
「セリーナの住んでいた街も、そんな街の一つだったって聞いたことがあるわ。でも王さえ倒れれば、魔物は一気に統制をなくしてバラバラに動き出すの。そのおかげで壊滅から免れたという話ね」
「そうですか……」
そんな辛い過去があったんだ……。
「まあ、無理を言えるくらい魔法使いとしての力があるっていう事なんだけどね。魔の氾濫まで後二年だっていうのも、無理を通せる理由だったかもしれないわ。ここが魔の氾濫を止める最前線だから」
「他の砦はないんですか?」
「あるけど、ここが一番、動きやすいわね。獣人国側でもエルフの国側でも、どちらにでも行けるから」
つまり、中間地点にあるって事かな。
っていう事は、このエリュシアでは他の国よりも、魔の森のほうが脅威になるって事だ。じゃあ他の国とは仲良しなのかな?
ゲームでの事を思い出してみる。
確かに国同士で戦争をしているような話はなかった。クエストでドワーフとエルフの対立があったけど、プレイヤーの協力でなんとかなっていたはず。
この世界にはプレイヤーなんていないけど、いくら仲が悪くても、戦争するとしたって二つの国の間に獣人のウルグ獣王国とアレス王国があるし。一番近道な魔の森を縦断してまで戦争をするほど仲が悪くないって事なんだろうなぁ。
ああ、魔族と人族もあんまり友好的ではなかったかもしれない。
でも獣人とは結構交流していて、王都にも獣人の姿は結構見られたはず。
獣人かぁ……耳とかぴこぴこ動くのかなぁ……
うわぁ。見てみたい~~~~。
「私だってイゼル砦にくる前は英雄に会えるって胸をときめかせたのよ」
獣人さんに会ってみたいな~なんてのほほんと考えていたから、いきなりのアマンダさんの発言にびっくりした。
「えっ、アマンダさんが?」
てっきり筋肉にしか興味ないのかと思ってたけど、前はそうでもなかったって事かな?
「当たり前じゃない!英雄って言うくらいだから、さぞかし素敵な筋肉を持っていると思って期待して来たのよ。それなのに団長ったら、全然筋肉を披露してくれないのよ?ちょっとくらい見せてくれてもいいのに」
訂正。やっぱり基準は筋肉でした。
「でももう理想の筋肉に出会えたからいいんだけどね。ふふっ」
「ゲオルグさん、でしたっけ?」
「そうよ。名前も素敵でしょう?」
にっこり微笑んでそう言われて。
私に頷く以外の選択肢は残されていませんでした……




