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ちびっこ賢者、Lv.1から異世界でがんばります!【Web版】  作者: 彩戸ゆめ
第一章 やっと念願の賢者になった!

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第20話 変異種

 残された私はへにゃへにゃと崩れ落ちそうになり、アルゴさんに支えらる。


「ユーリちゃん、大丈夫かい?!」

「あ……あんまり大丈夫じゃない、です……」


 攻撃魔法どころか、ヒールすらもしていないっていうのに、足がガクガクして立てない。


 これが……戦い。

 ゲームの狩りとは違う、これが本物の魔物との戦い。

 頬をなぶる生暖かい風と、むせ返る血の匂いにめまいがする。


 でも……と、ぎゅっと手の平を握る。


 ここで、この世界でがんばるって決めたから。

 必ず元の世界には帰るけど、それでも今私がいるのはここだから。

 ここで、できる事をがんばろう。


「ちっちゃい子にはキツイわよね。でも、この世界では小さくても強くなければ生き残れないわ。ユーリちゃんも強くなるのよ」


 赤い髪を風になびかせて、真紅の瞳でひたと私を見据えるアマンダさんは、まるで物語に出てくる戦乙女のようだった。油断なく構えたままの剣には、赤い炎が燃えている。


「でも……正直、泣いたり気絶したりするかと思ってたけど……がんばったわね」

「私……がんばってますか……?」

「ええ、とっても」


 まだ手も足も震えてる。

 だけど……

 がんばってるのを認めてもらえて、そこは……嬉しいな。

 身体強化呪文だけしか唱えられなくて、後はこうやって庇われるだけの私だけど、それでももっとがんばって、いつかみんなの力になりたい。


「アマンダ!後ろ!」


 そんな風に思っていると、突然アルゴさんが叫んだ。


「はっ」


 振り向きざまに、炎をまとった剣がいきなり襲ってきたワーウルフを斬る。そして返す剣でもう一度斬る。

 村の奥から逃げてきたらしきワーウルフは、そのままドサリと倒れ伏した。


 アルゴさんの背に庇われた私の頬に、返り血が飛ぶ。

 ひっと息を飲んで固まっていると、倒れたワーウルフの向こうからグルルルルゥという唸り声が聞こえた。アルゴさんの体の陰からそっとのぞくと、そこにいたのは灰色じゃなくて、青みがかったワーウルフだった。


「ちっ。変異種か」


 変異種?それって何?

 こんなワーウルフ、見た事ないよ。


「アマンダいけるか?!」

「ええ。アルゴはそのままユーリちゃん守ってて!」

「おう!」


 アルゴさんは私を背に庇ったまま、ジリジリと後ろに下がった。青いワーフルフは、一瞬だけこっちを見て、すぐに剣を構えるアマンダさんに視線を移す。

 そして頭を低くすると、次の瞬間にはアマンダさんに飛び掛かった。


「!!!」


 私は声にならない悲鳴を上げた。

 

 アマンダさんは炎の剣で喉元に迫った青いワーウルフの牙をはねのける。でもすぐにその鋭い爪が、アマンダさんの左腕をえぐった。


 ザクッ。


 肉の切れる音。

 それと同時に聞こえるアマンダさんの、くぐもった悲鳴。


「ユーリちゃん、ヒールを!」


 そ……そうだ。ヒールすれば!


「ヒール……た……たい……しょうは、アマンダさん」


 アルゴさんに言われて、震える唇で、ヒールを詠唱する。

 銀の光が私の指先から、アマンダさんへと飛ぶ。


 するとアマンダさんはすぐに態勢を整えて、再び剣を構えなおした。

 怪我した左腕は……見る限り、破れた服からは肌色がのぞいている。回復……できたと思う。


 アマンダさんは再び青いワーウルフと対峙した。

 青いワーウルフも頭を下げたまま、視線をアマンダさんに向けたまま低く唸っている。


 青いワーウルフの背中が盛り上がった。

 そしてまた跳躍する。


 アマンダさんは今度は剣を目の前に構えると、そのままその剣を向かってきたワーウルフの目に突き立てた。


 ギャウゥゥゥゥゥゥゥ


 青いワーウルフが断末魔の叫びを上げる。


 ガリィッ、ガリッ


 でもそれよりも、ワーウルフの爪がアマンダさんの肌をえぐる音の方が耳に響いた。


「ヒール、対象はアマンダさん!ヒール、対象はアマンダさん!」


 ワーウルフの断末魔の叫びが、そしてその爪が肌を切り裂く音が聞こえなくなるまで、私は何度も何度もヒールを唱えた。


「ユーリちゃん、ユーリちゃん。もう大丈夫だから。もうヒールしなくて大丈夫だからね」


 気がついたら、アマンダさんに抱きしめられて、背中を優しく撫でられていた。


「ア……アマンダさん……」


 見上げたアマンダさんの体をぺたぺたと触る。


「痛い所はありませんか?どこか痛い所はありませんか?」

「大丈夫よ、ユーリちゃんが回復してくれたから。ありがとうね。でもちょっとヒールしすぎだわ。最後のほうは全回復してるところにヒールしてたわよ」

「アマンダさん、アマンダさん。うわぁぁぁぁん」


 どこにも怪我をしていないのに安心したら、涙がボロボロとこぼれてきた。アルゴさんもがんばったね、って言って頭をなでてくれるから、余計に涙が止まらない。


「ユーリッ、大丈夫か?!」


 村の探索を終えたレオンさんが戻ってきて、泣いている私に声をかけてくれた。その後ろには騎士さんたちも続いている。村人らしき人の姿は……ない。


「っ。変異種か、こっちに逃げていたとはな」


 そしてすぐに倒れた青いワーウルフを見て、眉をしかめた。


「幸い、キングになるほどの強さじゃありませんでしたよ」


 同じようにワーウルフに目を向けたアルゴさんが言う。


「キングが現れるのはまだ先だろう」

「どうですかねぇ……ゴブリンの出現も早かったし、変異種だって普通はこんなに早く森の外へは出てこないでしょう?早くても前兆から2週間ってとこだ」

「確かに異常な早さだな。……魔の森で何かが起こっているのか……?」

「それを調べる為にも、早急に魔の森へ探索に出る用意をしなきゃいけませんねぇ」


 アルゴさんは腰に下げた袋から布を出すと、剣の血をぬぐってから鞘に納めた。


「準備に何日かかる?」

「せめて3日ですかね」

「できるだけ急いでくれ」

「了解しました。ところで村人は……?」


 アルゴさんの問いに、レオンさんは首を振ることで答えた。


「まあ、変異種がいた時点で厳しいですしねぇ。むしろ一人だけでもよく逃げ延びたもんだ」

「そうだな。……ああ、ユーリとアマンダは他の女性騎士と一緒に砦に先に帰っていてくれ。私たちはまだ事後処理がある」


 事後処理って……

 ああ、亡くなった人を埋葬するのかな……


「分かりました。じゃあユーリちゃんは私の馬に一緒に乗って帰りましょう」

「はい。よろしくお願いします」




 そうして私の初めての砦の皆との魔物討伐は、こんな風に終わったのだった。


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