第17話 魔の氾濫とは
「そういえば、パーティー組んだ場合って、どこまで魔法が飛ばせるんだろう?」
そのわずかな疑問は、アルゴさんに話しかけられた事によって霧散した。
「う~ん。この部屋の中くらいなら大丈夫ですけど、それ以上はどうなんだろう?」
「ヒール飛ばしもどれくらいの距離まで可能なのか、一度試してみてぇなぁ。明日んなったら、嬢ちゃんの魔力も回復してんじゃねぇのか?」
フランクさん、私の魔力が回復してたら、今すぐにでも飛び出して行きそうな勢いですね……。
そういえば、今思い出したけど、アイテムボックスにMPポーションがあるんじゃないっけ。ちゃんと中身を全部確認してないから断言できないけど、いつも手持ちで5枠は持ってたはずなんだよね。
エリュシアオンラインのアイテムボックスは、道具と装備が別枠で、それぞれ100個ずつ持てる。で、装備は1枠に1個しか入れられないけど、道具類の場合はその1枠に同じアイテムを999個重ねる事ができるの。だから、MPポーションを5枠って事は5×999個で4995個は持ってるはず!
何でそんなに持ってるかっていうと、ポーション類は買わなくてもいいようにってがんばって錬金のLVを上げてて、そのおかげで自作のポーションをいっぱい持ってるから。
目指せ、自給自足!とか言いながら錬金のLV上げしたのが懐かしい。
武器とか防具とかアクセみたいには稼げなかったけど、そっちはギルドで上げてる人がいたから材料渡せば作ってくれたし。ダンジョンでも装備は拾えたから、特に困った事はなかったし。
なんか、せっせと薬草拾ってポーション作って、たくさん作ったのをギルドの皆にあげるのが楽しかったんだよね。
ああ、ギルドの皆にも会いたいなぁ。
はっ。いけない、いけない。
こんな懐かしがってる場合じゃないっけ。
えと、今からMPポーション出して……
そうだ。錬金釜があれば薬草採取してポーションとかMPポーションも作れるんじゃないかな。錬金釜もアイテムボックスの中に入ってるといいんだけど。それも一緒に確認してみようっと。
でも、ここでアイテムボックス出せないから、ダミーにしてる猫の顔カバンから出さないとダメだ。あれってアマンダさんの部屋にあるのかな?
あ、でも待って。まだ魔のハンランの事とか聞いてない。
猫の顔カバン取りに行くのは後にしよう。
「あの、魔のハンランって何なんですか?」
私が聞くと、レオンさんが地図の魔の森のところに指を置いた。
「この、魔の森にはたくさんの魔物がいる。理由は分からないが、約10年に一度、その魔物が異常に増えて魔の森から人のいる場所へとあふれてくるんだ。その前兆として、ゴブリンの異常繁殖が起こる。昨日、ユーリがいた森のはずれのあたりには普通はスライム程度の弱い魔物しかいないが、魔の氾濫が起こると、森の奥から多くの魔物が現れる。そしてゴブリンが森のはずれまで姿を現すと、やがてそれよりも強い魔物、ワーウルフやサーベルキャットのような魔物が森から出てきて、近隣の村や町を襲うんだ」
レオンさんの指が、アレス王国の中の森から少し離れた場所を指す。
何も描いてないけど、ここら辺に村とか町があって襲われるってこと……?
「イゼル砦はその魔の氾濫を瀬戸際で食い止める為に存在する。魔の氾濫の前兆が起きれば、森へと入って魔物たちを殺し、その数を減らすために。もちろん我が国だけでは無理だからな。既に他国には通達を出している」
そこでレオンさんは、言葉を止めた。
「ユーリ。君はまだ子供だ。だが我々にはない力を持っている。今回の魔の氾濫は、予定より早くきていて、まだそれを抑える準備が万端とは言えない。本来ならば我々が守るべき子供の君に頼むのは申し訳ないが、後方支援として共に魔の森の氾濫へ向かってはくれないだろうか?」
魔物を倒すのならゲームではたくさんやってるけど……
昨日のゴブリンの群れを思い出す。
ここは現実で、魔物の流す血も、レオンさんたちの流す血も、現実の物。
私に……魔物を倒すなんてことができるんだろうか……?
後方支援ってことは、エリア・プロテクト・シールドをかけたりするって事だよね?それなら……できるかな……?
昨日のアルゴさんの姿を思い出す。
もし私が何もしないでここにいる誰かが死んでしまったら、と考えて背筋が凍る。
嫌だ、それは絶対に嫌だ。
私にできる事はしようって決めたんだもの。
だったら、できる限り、がんばろう。
「分かりました。がんばってみます!」
「ありがとう、ユーリ」
賢者LV1のユーリ・クジョウ。魔物退治をがんばります!