第13話 ヒール飛ばし
女性騎士の建物から出て、執務室のある建物の方へ向かう。そういえば女性騎士の建物って基本的に男子禁制なんだって。神官さんだけが入れるみたい。
まあ、いわゆるお医者さんみたいなもんだもんね。訪問診療してくれるってことかなぁ。
そのままフランクさんに抱っこされて執務室へと向かう。
ドアを開けると、壁に貼った地図らしき物を見て話し合ってるレオンさんとアルゴさんがいた。
「アルゴさん!もう体は大丈夫ですか?」
「ユーリちゃんのおかげで完全復活したよ。ユーリちゃんのほうこそ大丈夫かい?魔力切れって聞いたけど……」
「少し休んだら大丈夫みたいです。ご心配おかけしました」
「いや……僕のせいでゴメンね」
アルゴさんが近寄ってきて、頭をぽんぽんと撫でてくれる。
うん。近くで見ても、顔色はいいみたい。
はあ。良かったぁ。
「ユーリ、体調が悪いのに来てもらってすまない。私も立て込んでいてここを離れる訳にはいかなくてな。ああ、フランク。ユーリはそこのソファに座らせてやってくれないか」
レオンさんに言われて、フランクさんは私をそっとソファーの上に置くと、そのまま横に立った。
う……なんか皆立ってると圧迫感あるなぁ。
「さて、と。まずは昨日、ユーリが使った魔法について聞いてもいいだろうか?」
「あ、はい。なんでしょう」
色々聞かれるんだろうなと思って、ちょっと背筋を伸ばしてみる。
別にちっこいのを、少しでも大きく見せようとしてるわけじゃないからね。
「団長。こんな風に皆で見下ろしてたら、圧迫感凄いんじゃないかなぁ。ユーリちゃん、めっちゃ緊張してるみたいですよ」
「あ、いや、別にそんな」
「ふむ。ではこうしよう」
アルゴさんの言葉に頷いたレオンさんは、大きな机の向こうにある立派な感じの椅子を持ってきて、私をひょいと抱え上げた。そしてそのまま私を膝に乗せて椅子に座った。
ふえええええぇぇぇぇ?
「お前たちは、ソファに座るといい。これで目線は変わらないだろう」
はいいいいいいい?
いや、そうだけど。でも何ですか、この恥ずかしい恰好!
「団長……あ、いや、別にいいです。はい」
アルゴさああああん。そこは諦めないでぇぇぇ。
「それで昨日の魔法だが、小さい盾のようなものが体の周りを回っていたが。あれは何だ?」
うーわーーー。
背後から聞こえるテノールって、強烈ですううう。
「あれはエリア・プロテクト・シールドとエリア・マジック・シールドです」
「聞いたことがないな。身体強化魔法の一種か?」
「えと、エリア・プロテクト・シールドは、範囲の物理耐性強化の魔法で、エリア・マジック・シールドは範囲の魔法耐性強化の魔法です」
効果時間って30分だっけ?1時間だっけ?
後でちゃんと確認してみようっと。
「そんな魔法があるのか……。確かに、ゴブリンの攻撃による体感ダメージは少なかったな」
レオンさんは、ふむ……と呟いて何かを考えているようだった。
「ユーリの国の魔法は我々が知るものとは少し違うんだな」
「えっ、そうなんですか?」
「まず呪文を唱える時に、術名だけで魔法は発動しない。魔力を高めるために、ある程度の長さの詠唱を必要とするんだ」
ああ、それはアルゴさんも言ってましたね。
「それに身体強化系の魔法は、自分にだけしかかけられない。ユーリのように他人、それも複数の人間にかけられるなど聞いた事がない」
ほ~。そうなんだ。
やっぱりゲームとは違うって事かなぁ。でも私が使ってるのはゲーム仕様の魔法だよね?
どういう事だろ……?
「ヒールも、触れずに回復する事はできない。それに……攻撃魔法と回復魔法の両方を使うものはいない。ユーリの国では普通にできる事なのか?」
「普通っていうか……ある程度、時間をかければできるようになる……かも?」
「ユーリがその魔法を覚えるのには、どれくらいかかったんだ?」
「えーと5年かなぁ」
「ユーリは今、何歳だったか?」
うっ。ここは何て答えればいいんだろう。元は18歳ですけど、今は8歳なんですとか?
「えーっと、なんていうか18歳なんだけど、今は8歳っていうか、えーっと」
「ん?つまり8歳か」
「……今はそうだけど、本当はそうじゃなくて、えーと」
「どう見ても8歳にしか見えんが」
「ですよねぇ……」
こ……これって年齢詐称になるのかな。でも本当の事言っても信じてもらえないだろうし……。何て言えばいいんだろう。
「では3歳から魔法の修業をしたということか……魔法国家なのか……?」
いえ……ただオンラインゲームで遊んでただけです。修業なんてしてません。
ど……どうしよう。多分、レオンさんたち、色々と激しく誤解してると思う。でも、その誤解を解くにはゲームやってたらこの世界に来ましたって話をしないといけないし……
「霊峰メテオラの頂きから登る、神々の住まう国、エリュシオン……そこに住まう神の一族はすべての魔法を使えたという」
フランクさんが、そう呟いた。
え?何なの、そのいきなり壮大な設定は?!
でも、え?え?
エリュシオン?
エリュシアオンラインと似てるけど、何か関係があるの?!
いや、でも私、普通の人間ですから!
神様じゃないですからあああああぁぁぁぁぁ。