126話 水晶の町
サリュエさんが向かう先にはぽっかりと開いた黒い穴があった。通路のようだったけど、灯りも何もなくて真っ暗だ。
「ライティング」
足元を照らそうとアルにーさまが魔法で明かりをつけると、そのすぐ前を歩いていたフォールさんが「ぎゃっ」っと声を上げてうずくまる。
わわわ。
どうしたの!?
びっくりして立ち止まると、先頭を歩いていたサリュエさんが袖で目を隠しながら振り返った。
「申しわけございません。その光は我々には眩しすぎます。どうか消していただけないでしょうか」
袖から少しだけ覗くサリュエさんの瞳は金色で、まるで蛇のような縦長の虹彩を持っている。
もしかして獣人さん……?
「すまない。だが、我々は暗闇の中では視界が効かないんだ。……これならどうかな」
アルにーさまは灯りをつけた左手にハンカチをかけた。そのハンカチからぼんやり明かりが灯る。
「お気遣いありがとうございます」
そっか。ずっと地下の暗い所で生活をしていたから、明るいのはダメなのかもしれない。
それでずっと目をつぶってたんだね。
「これくらいなら僕たちも足元が見えるから大丈夫だよ。それよりも君たちの目は大丈夫かい?」
「ええ。フォールもすぐに回復すると思います」
フォールさんは立ち上がって目元を押さえたままだ。
ラカンさんも光を直視しないように顔を背けている。
「俺が回復しといてやるぜ。癒しの風よ、汝に――」
「救世主様のお手を煩わせるまでもありません。これならばすぐに治せます。ヒール」
フランクさんがヒールを唱えようとしたけど、サリュエさんはそれよりも前にフォールさんのまぶたに手を当ててヒールを詠唱した。
おお。
神官さんたちみたいな長い詠唱を唱えなくても発動するんだ。
ってことは、ここは地上とは違う魔法の発展の仕方をしたってことなのかなぁ。
魔法を勉強する人なら比較すると楽しそうだけども。
「今の魔法はどうやったのだ。すぐに発動しておったが、どうやって魔素を集めた? ふむ。確かにここは上より魔素が濃いが、それでも詠唱は必要であろう。実に興味深いな」
カリンさんがビン底メガネをキランとさせてサリュエさんに詰め寄る。
それをゆっくりとした動きながらもしっかりと避けたサリュエさんは、爬虫類のような瞳でカリンさんを見下ろした。
こうして見ると、サリュエさんってかなり背が高いなぁ。
細いから一見分からないけど、フランクさんと同じくらいかも。
「魔素とおっしゃるが、ここに魔の者はおりませんよ」
「いや。そうではなく、魔法を発動するためには魔素が必要で、それが――」
「はいはい、カリン、ストップよ。今はそんな話をしている場合じゃないでしょう。どうしたら上に戻れるかを考えないと」
サリュエさんとカリンさんのかみ合っていない会話に水を差したのはアマンダさんだ。
私の足元を照らしてくれる為に、アルにーさまと同じように手の平にライティングの光を集めて、それをハンカチで覆って眩しさを減らしている。
「それに地下の町に行ったら新種のスライムがいるかもしれねぇぞ」
「そうか。ではすぐ行こう」
カリンさんはサリュエさんを追い越していきそうな勢いで歩き始める。
サリュエさんがここには魔のものはいないって言ってたんだから、スライムもいないと思うんだけどなぁと思いながらフランクさんを見ると、私と目が合ったフランクさんはヤンチャ坊主のようにニカッと笑った。
「ライティングで足元を照らしていても暗いから、ユーリはしっかりアマンダと手を繋いでおいで」
「分かりました、アルにーさま」
いきなり現れたサリュエさんが本当に味方なのかどうか分からないからか、アルにーさまたちが油断している様子はない。
ヴィルナさんも、耳をひくひくさせながら周囲の音を拾っているみたいだ。
地下の町は、上じゃなくてさらに下った場所にあった。
長い通路の向こうに、青白い光が見える。
一歩踏み出すと、そこには青い水晶でできた町が出現していた。
たくさんの大きな水晶の結晶が地面からニョキッと生えているんだけど、そこに入口らしきものと窓みたいなものが作られている。
他に建物らしきものはないから、これが家なのかなぁ。
それにしては、何ていうか生活感がないような気がするけど……。
私はアマンダさんの手をぎゅっと握りながら、辺りを見回した。
街の中は、燐光のような淡い光が水晶から出ているだけで、全体に薄暗い。
住人らしき人はいたけど、みんなサリュエさんみたいな白い服を着た人で、見る限り子供の姿は見当たらなかった。
私はなんだか寂しい町だなと思いながら、町の中へと足を踏み入れた。
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