125話 救世主さま!?
三人ほどいる白い人たちは、目をつぶったままゆっくりと私たちの元へと一直線に向かってくる。
白い衣装はふわりとした布だけで、何の装飾もついていない。
ずるり、ずるり、と足を引きずっているような音がするけれど、裾の広がった服からは足の様子は見えない。
敵か味方か分からない状況で、アルにーさまたちはいつでも戦えるように身構えていた。
「救世主さま――」
先頭の人がそう言っていきなりひざまずくと、後ろの二人もそれにならった。
救世主?
一体、何のこと?
「我々は神の怒りに触れ地底に落とされたもの。救世主さまがお越しになったということは、やっと我らの罪が許され、地上に還ることができるようになったのですね」
白い人たちは頭を深く下げてそのまま動かなくなる。
ええっと……。これってどうなってるんだろう?
困って視線を泳がすと、皆も困ったような顔をしている。
やがてアルにーさまが剣に手をかけたまま一歩踏み出した。
「君たちは――いつからここに?」
ゆっくりと穏やかに、相手を刺激させないような柔らかい口調で尋ねる。
目をつぶっていて見えない相手とはいえ、一分の隙もない。
「古き世が去り、新しき御代になって以来でございます」
それって神様がこの世界を創ってからってことじゃないの!?
えええっ。
そんな昔から、ここに……?
私は金色に光る空洞を見回す。
草は生えてるけど、何もないとこだけど……。
あ。
住んでるトコは別かも。
それはそうだよね。だって水も食べ物もないところで、人は生きていけないもんね。
でも地中だと日の光もないってことで。
ああ。だから真っ白なのかな。
光が差さない場所で暮らす生き物は、真っ白だって聞いたことがある。
「救世主と言ったけれど……僕たちが何をするのか知っているのかい?」
えーっと。つまり、この地底に住んでる人たちを地上に連れていけばいいのよね。
でもこの人たちはずっとここにいたわけで。
そうすると、どうやって上に戻ればいいんだろ? 落ちた穴から戻るしかないのかな。
顔を上げて天井を見る。
でも光りゴケに覆われた天井にそれらしき穴はない。
え。なんで?
「我らに伝わっているのは、救世主さまが我らを救ってくださるということだけでございます。どうか……どうか、我らをお救いください」
再び頭を下げられて、私たちは当惑するしかない。
でもこの人たちの望みが地上に戻ることなら、私たちと一緒なんだから、協力すればいいんじゃないかな。
アルにーさまはフランクさんやアマンダさんたちを見た後、最後に私と目を合わせた。
うんうん。私はアルにーさまの判断にお任せしますね!
「僕たちが君の言う救世主かどうかは分からないけど、地上に戻りたいという気持ちは同じだ。協力できるところはしていこう」
「おお。感謝いたします」
嬉しそうに顔を上げる白い人は、目を閉じたままだ。
そのままゆっくりとした動作で立ち上がると、アルにーさまの方へ顔を向ける。
「私は神官のサリュエと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
そして優雅にお辞儀をした。
後ろの二人も立ち上がってゆっくりとお辞儀をする。
「救世主さま、私は神官のラカンと申します」
「私はフォールと申します」
三人とも白いから、まるで三つ子のようにそっくりに見える。
「一つ聞きたいんだけど、君たちの言う救世主というのは誰のことを指すんだい?」
アルにーさまの質問に、サリュエさんは首を傾げた。
「この神の御座に降臨なさった方が、我らの救世主となる方であると伝えられております。ですからここにいらっしゃる皆さまが我らの救世主ではないのでしょうか?」
これがゲームなら「地底人を救え」とかっていうクエストが始まりそうな展開だなぁ。
クエストをクリアすると地上に戻れて、更に玄武を攻略するためのヒントをもらえるってところだろうか。
「残念ながら、僕たちは偶然によってここに落ちてきたにすぎないんだ。君たちの救世主になれるかどうかは分からない。だからただの人として一緒に地上に戻るための協力をしてもらえないだろうか」
「……ただの人、ですか」
三人の内で一番偉いのがサリュエさんなんだろう。ラカンさんとフォールさんは何も言わずにサリュエさんが口を開くのを待っている。
「私には皆さまが大いなる運命に導かれているように見えます。それゆえ、ここにいらしたのだと……。ですが、皆さまがそれを望まないのであれば、そのようにいたしましょう」
サリュエさんはそう言って見えない目を私たちに向ける。
「よろしければ、皆さまのお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「僕はアルゴ。こちらはフランク、アマンダ、ヴィルナ、カリン、ユーリだ。よろしく」
「皆さま、どうぞよろしくお願いいたします」
ペコリとお辞儀をする。
腕の中のノアールは大人しくじっとしている。
……ノアールたちのことも紹介した方がいいのかなぁ。
でも生き物がいないのに、どうやって紹介すればいいんだろう。
うんうん唸って悩んでいるうちに、サリュエさんがすっと来た道を手で示した。
「ではこれから私たちの町へご案内いたします。こちらへおいでください」
わぁ。町があるんだ!
地底の町ってどんな風になっているんだろう。
サリュエさんみたいな人がいっぱいいるのかな。
こんな時だけど、ワクワクしちゃうね!
どんなところか、楽しみ♪