第１１３話 練習の成果です
そうだ、こうすれば！
私はフランクさんやアルにーさまの横をすり抜けてアースドラゴンへ向かう。
「ユーリ！」
アルにーさまが私を止めようと手を伸ばす。
「私に任せてください！」
その手を振りほどいて。
「ステルス・サークル！」
アースドラゴンと私たちの間にステルス・サークルを張る。
「スパイダーウェブコート・セットオン！」
そして魔法陣が光って消える。
そこにアースドラゴンが――
「かかった！」
見えない蜘蛛の糸にからめとられて、アースドラゴンがその足を止めた。
もがくアースドラゴンは背中を丸めてトゲを飛ばそうとする。
そこに褐色の影が。
「させぬ。……双剣乱舞」
両手に持った細身の剣をくるくると回しながら、ヴィルナさんが飛んでくるアースドラゴンのトゲを切り落としていく。
今だ！
「サンダー・アロー！」
ヴィルナさんが離れる瞬間を狙って、ゲッコーの杖を振りかぶる。
いっけぇぇぇぇぇ！
ドオオオオオオオン、と大きな音を立ててサンダー・アローがアースドラゴンに命中する。
一度飛ばしたらすぐには復活しないのか、トゲの反撃はない。
「グウォォォォォォ」
アースドラゴンは、体を丸めて転がって逃げようとした。でも蜘蛛の糸がからみついて逃げられない。
よし。もう一回！
「サンダー・アロー！」
再び雷の矢がアースドラゴンを貫く。
「グァァァァァ……」
後ろ足で立ち上がったアースドラゴンは。
そのままドウと後ろに倒れた。
やった！ 倒した！
でもホッとするのもつかの間。
「癒しの風よ汝に集え、アマンダにヒール！」
フランクさんがアマンダさんを回復する声で我に返る。
そうだ。まだ集まってきた魔物の群れがいる。
慌てて振り向くと、アマンダさんだけじゃなくフランクさんとアルにーさまも戦っている。そこにヴィルナさんも加わって、魔物の群れを押し返している。
生徒たちはカリンさんの木のドームの中だから安全だ。
私も攻撃に参加したいけど、戦闘はアルにーさまたちに任せて、フランクさんと一緒に回復に専念しよう。
「アルにーさまにヒール！」
「癒しの風よ汝に集え、ヴィルナにヒール！」
「アマンダさんにヒール！」
「癒しの風よ汝に集え、ヴィルナにヒール！」
そうして数えきれないくらいヒールを飛ばして。
「終わった～」
全ての魔物を倒した時には、みんな肩で息をしていた。
「まだ油断はできないけど、このフロアの魔物は殲滅したんじゃないかな」
汗のしたたる茶色の髪をかきあげて、アルにーさまが通路の向こうを見つめる。
そこには既に生きている魔物の気配はない。
「クリーン」
アルにーさまが生活魔法のクリーンを唱えると、汗とか鎧についていた返り血が綺麗になった。
生活魔法は詠唱が短くても発動する。
私はなぜか覚えられないけど凄く便利な魔法だ。
「おい、カリン。もういいぜ」
フランクさんが声をかけると、カリンさんの作った木のドームがザワリと動いた。
ゆっくりと伸びていた枝が縮み、ドームがゆっくりと崩れていく。
やがて最後の枝がしゅるしゅるとカリンさんの手の平に吸い込まれ、種の形になった。
「あれほどの魔物を倒したか。さすがだな」
カリンさんは倒された魔物の群れを見回して、ビン底メガネをくいっと指で持ち上げた。
「こんだけ腕の立つのが揃ってりゃあ、大概はどうにかなるだろ。それに嬢ちゃんが大活躍だったんだぜ」
「ほう」
「がんばって魔法の練習をした甲斐があるってもんだな」
わっはっはと笑うフランクさんに、私も頷く。
「フランクさんといっぱい練習したおかげです」
えへへ。
「あなたたちは一体……」
騎士学校の先生が、呆然としたまま私を見る。
「騎士学校では、アースドラゴンは倒せないから遭遇したらすぐに逃げろと、必ず教えます。実際、今まで倒した者がいるなどと聞いたことがない。一時はもう駄目かと諦めかけました。それが、まさかこんなにあっさりと倒してしまうとは……」
それを聞いたフランクさんは「あぁ」と言いながら頬をかいた。
「俺たちはイゼル砦から来たからな」
「イゼル砦の騎士の方でしたか。生徒ともども助けて頂き、本当にありがとうございます。ところでその水色の鎧は……もしや副砦主のオーウェン卿でいらっしゃるのでは？」
その質問に、アルにーさまはにっこりと笑顔を浮かべた。
「我々がここに来たのはとある任務のためですので、このことは内密に願います」
「もちろんです！」
わぁ。
アルにーさまの名前を聞いたら、生徒さんたちだけじゃなくて、先生の目もキラキラしちゃったよ。
イゼル砦の騎士では、英雄と呼ばれるレオンさんだけじゃなくて、アルにーさまも凄く有名なんだね。
ちょっと鼻が高いかも。えへっ。
