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第102話 『ちびっこ賢者』2巻発売記念SS

2月23日(土)に、皆様の応援のおかげで

『ちびっこ賢者、Lv.1から異世界でがんばります!』2巻が発売です!

そこで、お礼のSSをUPいたしました。

43話の前の話です。三人称となります。

「それで、ユーリをオーウェン家に迎え入れる用意はできたのか?」


 執務室にある大きな机には、いつものように書類の束が積み重なっている。書類を見ながらサインしていたレオンは、手を止めて同じように書類をめくっている自らの副官を見た。


「ええ。あとは陛下の承認を得れば完了です。団長に頂いた推薦状もあるので、問題ないでしょう」


 副官のアルゴとは騎士学校で出会って以来の仲だ。だがそれよりも前に王宮で遊び相手として引き合わされていたから、生まれた頃からの付き合いと言ってもいいかもしれない。


 王族として生まれたレオンハルトが、この世で唯一背中を預けられる相手――それが、アルゴ・オーウェンという男だ。


「そろそろ貴族共がかぎつけそうだな」

「あれだけの魔法を放っていれば、秘匿(ひとく)しろというほうが無理でしょう」

「確かに」


 突然魔の森の近くに現れた異国の少女は、何もかもが常識はずれの存在だった。


 その魔力はもちろん、見たこともない魔法を使い、更にはあのダーク・パンサーを従えてみせた。しかもただのダーク・パンサーなどではない。変異種のダーク・パンサーだ。


 その存在をずっと隠したままでいられれば良かったが、二年も早くやってきた魔の氾濫で、ユーリの持つ高威力の魔法が知れ渡ってしまった。


 ユーリが男であればまだしも、少女であると知られれば、婚姻で身内に取りこもうとする貴族が増えるだろう。


 そしてその懸念は既に現実の物となっている。

 レオンの元へは少女の素性を問い合わせる書状が何通も届いているのだ。


「レーニエが動くらしい」

「それは……厄介ですね」


 レーニエ伯爵は、貴族としては非常に有能だが、抜け目がなさすぎる。さすがに法に触れることまではやらないが、油断のできない相手だ。レオンは知らず、ため息をついた。


「でも珍しいですね、団長がそこまで気にかけるのは」

「……そうか?」

「確かに、団長を怖がらない子供は珍しいですからね」


 おそらく身にまとう覇気が怯えさせてしまうのだろうか。


 レオンを見た子供は、大抵例外なく泣き叫ぶ。だからあの年頃の子供と触れ合う機会は皆無だった。


 自分も子供の頃はどうだったかと考えて、周りにいたのは貴族の子女ばかりだったから、ユーリのように正面から好意を示されたことはなかったなと思う。


 だから気になるのだろうか。


「でも分かりますよ。あの子のそばにいると、なんだか気が休まるんですよね」


 優し気な顔立ちだが、アルゴは決して優しいだけの男ではない。貴族らしく、表ではにこやかに微笑み、陰で策を練るタイプだ。


 そのアルゴがわざわざオーウェン家の養女にしてまであの少女を庇護したいと言い出した時は、本当に驚いた。


 だが、分からなくはない……と、レオンは思う。


 真っすぐで素直なユーリが悲しい思いをしないようにと、この自分ですら、そう思ってしまうのだから。


「王都から養子縁組の書類が来たら、すぐに伝えよう」

「お願いします」


 いずれユーリは母国へ帰るために、賢者の塔を目指す旅に出るだろう。


 また、会えるだろうか。


 レオンはふと窓の外の流れてゆく雲の合間から差しこむ光を見ながら、ユーリとの再会を願った。


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