第1話 やっと念願の賢者になったー!
こちらはWEB版となります。
書籍版とは設定が違いますのでよろしくお願いいたします。
やったー!
苦節三年弱、ついに念願の賢者になりましたー!
はぁぁぁぁ。長かったなぁ。
私、九条悠里がこのエリュシアオンラインを始めたのは、今から三年前で15歳の時だ。
いわゆるよくあるMMOだったんだけど、日本の有名ゲームメーカーの作品でグラフィックにもストーリーにも定評があったから、おもしろそうだなぁと思って始めたのがきっかけだった。
ネットゲームなんて初めてで、何も分からずに右往左往して。
どこに行けばいいのか、何をすればいいのかも分からなくて途方にくれて草原をさまよってたんだよね。
その時、突然初心者キラーで低LV帯にたまに現れるレイドボスに遭遇しちゃって死にそうになったんだけど、あわやというところで、たまたま通りかかったエルフのお姉さまに助けられた。
そのエルフのお姉さまが、ゲーム初心者の私に色々教えてくれて。
見た目セクシーで美人なエルフだけど、実は中身はおっさんで私と同じ年の娘がいるって知った時には衝撃だったなぁ。もちろん、娘さんもゲームやってて仲良くなった。なぜか娘さんは男キャラで剣士だったけど。
その人がたまたまギルドマスターだったから、そのままそのギルドにお世話になったの。
毎日が本当に楽しくて、あっという間に時間が過ぎていった。
剣と魔法の世界だからなんて安易な考えで魔法使いを選んだ私は、勉強の合間にギルドの皆さんの助けもあって何とか魔法使いをLV99にした。
このゲーム、LV99になると他の職にも転職できるようになんだよね。それで次の職はギルドで不足している神官を選んだ。
いや、まあ、本当にギルドの皆にはお世話になったからね。恩返ししたくって……
そしてついに、ついに!
受験があったりしたから皆よりLV上げるのは遅かったけど、それでも何とか神官のLVも99にして、やっと上級職である賢者のクエをクリアして念願の賢者になりました!
やったー!これで攻撃魔法と回復魔法が使えて、さらになぜか剣も装備できる賢者に転職できたー!
ふふふ。やっと剣持ってAボタン連打でのLV上げができるようになるんだ。わーい。
はっ。そうだ。夢のAボタンの通常攻撃連打しながら、ネットサーフィンとかもできるかも!?
さすがに魔法使いと神官じゃそのLV上げはできなくて、剣士さんが羨ましかったんだよね。
こ……この喜びを誰かにフレンドチャットで伝えたい。
っと、その前にクエストをちゃんと終わらせないと……
私はPCの画面を見つめながらマウスを動かす。
『おめでとうございます。あなたは賢者に転職しました。LV1から始めることになりますが、よろしいですか?』
→はい
いいえ
もちろんここは『はい』で。
『悠里さんはこれから賢者となります。賢者にふさわしい礼節をもって冒険してください』
おお、なんていうか、さすが賢者だ。礼節をもって冒険だって。
『これから真のエリュシアに行きますがよろしいですか?』
へぇ。上級職になると新しいMAPに行くんだ。知らなかったなぁ。
私は基本的に攻略サイトを見ないでゲームをする派なので、初めてのメッセージに胸がワクワクする。
ここでも迷わず『はい』を選んで。
『それではあなたの新しい冒険をお楽しみください』
そのメッセージが流れると、いきなりPCから目を開けていられなくなるほどのまぶしい光が溢れ出てきた。
気が付いたら何だか草むらみたいなところに寝ていた。
草の丈はそんなに高くなくて、体を隠すほどじゃない。
さっきまでゲームしてたはずだから、これは夢かな。
そのまま寝ちゃったのかなぁ。
それにしてもリアルな夢だなぁ……
私はゆっくり体を起こして周囲を見回す。
お尻の下にはさわさわと揺れる小麦色の草。見上げれば雲ひとつない青い空。そして小高い丘から見下ろした先にある、うっそうと茂った森。
視線をめぐらせば、森の反対側には灰色の道らしきものが伸びている。
道……ってことは、とりあえずこの近くに人が住んでるって事よね。なんでこんなトコにいるのか分からないけど、とりあえず行ってみようかなぁ。
まあ、どうせ夢だしね。
そう思って歩き出して、なんともいえない違和感に気がつく。
普通に歩いているのに、なんとなくいつもと感覚が違う。
夢だからいつもと違うのかなぁ。
ふと足元を見下ろして、サンダルのようなものを履いている足に気がつく。
小さい……?
いつも見ている足よりも小さい気がする。そして皮で編んだようなレトロなサンダルを履いていた。
ああ、ゲームで装備する初心者用のサンダルってこんな感じかも。
ってことは、ゲームがいわゆるヴァーチャルネットゲームとかになったらこんな感じなのかな。
だったら夢とはいえ、お先に体験って感じ?
ふふ。なんか得した気分だね。
でもそれにしても私の手とか足ってちっちゃくないかな。
こんな小さいキャラにはしてないんだけどなぁ。
もしかして……と、胸のあたりをペタペタとさわる。
な……ないっ。
ささやかだったけど確かにあったはずの胸がないっっっ。
はっ。ひょっとして男の子になっちゃったって事は……
……あ、こっちもない。
良かったぁ。性別は変わってなかった。
でも……
私、ちびっこになっちゃった?
さらに顔とか体とかをペタペタと触ってみる。
なんかよく分からないけど、全体的に縮んだ感じ……?
私はそこでクスっと笑う。
変な夢。
ほんと変な夢。
でも……なんだか楽しいしワクワクする。
そう、この感覚は、いつもゲームしてる時に感じるのと一緒。
だからワクワクしたままの私は、灰色の道から土煙が上がるのを、楽しい気分で見つめていた。