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6個目

 翌朝、まだ鳥たちの声が聞こえない早い時間に浩太は目を覚ます。硬い床で寝たせいか、体の節々が痛みを上げている。


「いてて……ハツメさんはーー」


 暗闇のせいかはっきりは見えないが、ハツメの寝息が聞こえるため浩太はハツメがまだ寝てることを確認する。


「まったく、ハツメさんも冷たいぜ。寝る以外に何もする気はなかったのに」


 浩太はハツメへの文句を言いながら、さも当然のようにハツメのベッドへ侵入する。ベッドの中はハツメの体温によって温まっており、床で寝ていた浩太にとっては天国だった。更に、女性特有のいい匂いが浩太の鼻をくすぐる。


 自身の体が興奮してるのがわかる。心臓は激しく鼓動し、鼻息も荒くなる。もっと近くで嗅ぎたい。浩太は少しずつ物音を立てないようにハツメへと近づいていく。


 突如、浩太の動きが止まる。脳裏にある考えが浮かんでいたからだ。もしかしたら大変なことを自分はしているのではないか、と。


 目を閉じ、浩太は苦悩する。頭の中では欲望と理性が戦っている。少しの時間の後、欲望が浩太の頭を支配する。ここまできたらいけるとこまでいってやる、そう決着づけ、浩太は目を開け驚愕する。

 

 自身でも気づかないうちにハツメへと近づいており、少し顔を伸ばせばそのかわいらしい口に届く距離だ。しかし、驚くのはそこではなかった。ハツメの目が開いており、その目は浩太を見つめていた。


「おはようございます」


 ハツメは何事もなく、浩太へとあいさつをする。その声には一切の感情が含まれていなかった。


「お、おはようございます」


 二人は沈黙のまま見つめ合う。


「なにか言い訳はありますか」


 その言葉に浩太は考えるが、何も浮かばなかった。ただ自身の欲求のままにベッドに侵入しただけであり、当然そのことをいったらどうなるのかは目に見えていた。


「なにもないようですね。ではーー」


「ま、待ってください! ハツメさんの誘惑能力にやられただけですよ」


 浩太の言った通り、ハツメには多くの能力が付いていた。戦闘能力はもちろんのこと、支援能力、付加能力等、選り取り見取りだ。


「確かに……私にはその能力はありますがーー」


「そうでしょう! だから僕は悪くないんですよ!」


 ここぞとばかりに浩太は畳み掛ける。このチャンスを逃したら後はないことがわかっていたからだ。


「なるほど。私のせいで主人は変態行為をしてしまったと」


「へ、変態行為? ええ、そうですよ! ハツメさんのせいです」


「それで主人はベッドに入って私に何をする気でしたのですか」


「それはセッグッーー」


 浩太の言葉は最後まで発することはなかった。ハツメの右手が浩太の顔へとめりこみ、浩太は意識を失った。





 カチャカチャと食器の音が響く。現在、二人がいるのは宿屋の食堂だ。浩太はハツメの機嫌を取り戻すのに必死だ。


「ハツメさん~許してくださいよ」


「知りません」


「お願いしますよ~」


 浩太の情けない声が食堂に響く。


「これあげますから……許してくださいよ」


 朝食のおかずのウインナーをフォークに差し、ハツメへと差し出す。


「そんなもので許すと思ってるのですか」


 言葉とは裏腹にハツメはウインナーを素早く奪い取る。浩太の皿に残っている物もだ。あぁぁ、と浩太の悲痛の声が聞こえるがお構いなしに全てを食した。


「ご馳走様でした」


「俺の朝ごはん……」


 空になった皿を見つめながら浩太の腹の音がなった。





 宿屋を出た二人は武道大会が行われる闘技場を目指した。朝早くから街は活発に動き出している。いたるところに出店が出ており、浩太の視線を釘付けにする。


「すごいですね、ハツメさん。ほら、アレ見てくださいよ。あの店に行ってみましょうよ。きっと楽しいですよ」


 浩太は子供みたいにあちこちに関心をよせる。二人の手は現在結ばれている。当然、恋人のように手を結ぶわけではなく、どちらかというと親が子供を見失わないようにだ。


「後で見ればいいでしょう。今は闘技場に行くのが先決です」


 ハツメは浩太の手を引っ張り闘技場を目指した。


「うわ~でかいですね」


「ええ、なかなかの大きさです」


 二人の目前には巨大な闘技場がある。


 キャッシュ闘技場。かつて偉大な王が自らの権力を民に見せつけるために建設した闘技場だ。戦によって得た捕虜を処刑するためだけに存在していた。当時、その地面は捕虜の血によって赤く染まっていたと恐ろしい言い伝えも残っている。しかし現在ではその有様は見る影もなく、民の祭りに使われ、憩いの場として親しまれている。


「あちらに受付がありますよ」


 ハツメの言葉通りに長蛇の列が並んでいる。二人は最後尾に並び、浩太は憂鬱な気分になる。とても自分には敵わないだろうとわかる屈強な男たちが並んでいるからだ。


「嫌だ……やっぱり出たくない。大体ハツメさんが出た方が確実にいいのに」


 ぶつぶつと不満を述べていると浩太の番が来る。


「はい、こんにちは。武道大会に参加でいいですね。お二人で出場するのですか」


「いえ、こちらの男性、浩太様が出場します」


 受付の言葉に浩太が答える前にハツメが返す。


 コータと受付が声を出し、確認しながら名前をメモしていく。


「それでコータ様。大会の説明を受けますか」


 名前を書き終わった受付が浩太に問い、浩太も是非とお願いした。


「分かりました。まずコータ様には予選に出てもらいます。予選で勝ち残った4人だけが本選に進むことができます。ちなみに既に4人の方が本選に駒を進めています。こちらの方は前回の大会の上位者、優勝者もいます。最終的に8人でトーナメント戦を行い、最後の一人になれば無事コータ様の勝ちでございます」


「わかりました……」

 

 説明を聞いた浩太はトボトボと出口へと向かっていく。その後ろ姿は暗い。


 浩太が出口から出て行ったのを確認したハツメは受付に言葉をかける。


「すみません。私も出場します。名前はアカネでお願いします」


 受付がアカネと書いたのを確認した後、ハツメは浩太の後を追いかけて行った。

 

  



 

 




 



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