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5個目

 浩太の粘りの結果、宿屋の主人が先に折れた。鍵を受け取った浩太がその手を高く持ち上げると、周囲からは驚嘆にも近い歓声が上がる。


 少し離れた場所にいたハツメを見つけた浩太は鍵を見せながら近づく。右往左往あったが無事に今夜の止まる場所を確保できたのだからハツメさんも褒めてくれるはずだ、そう淡い考えを持っていた。


「やりましたよ。ハツメさん」


 ハツメは返事を返すことなく浩太の手を掴み、鍵に書かれた203という番号の部屋へと直行する。その顔は少し赤みがかかっている。 


「主人に任せた私が馬鹿でした」


 ハツメは部屋に入ると直ぐに浩太を罵倒する。


「いや、でも俺のおかげで部屋は借りれましたよ」


 その言葉にハツメの口は止まる。確かに部屋を借りれたのは浩太のおかげだった。ただ、あんなに恥ずかしい借り方はあんまりではないか、女のように泣きながら抱き着き、物乞いをするかのように自らの主人が懇願をしてる様を見たハツメの心は酷く荒れた。


「もう……いいです。それよりどうするのですか? 宿屋の主人が言ったお金はどうやって工面するのですか」


 ハツメが言ったように宿屋の主人は浩太に一つの条件を付けた。部屋を貸す期間は一週間、部屋を出る一週間後に5000という宿泊代を払えと要求したのだ。その時、払えなかった場合は即刻憲兵へと叩きだす、と。


「大丈夫ですよ」


 ハツメの心配をよそに浩太は気楽に答えた。


「宿屋の主人が言った武道大会に優勝すればいいんですよ。大金が手に入るって言ってたじゃないですか」


「なるほど。その大会に主人が出場、そして優勝すればいいのですね。果たしてそううまくいくのですかね」


「いや、ハツメさんがーー」


「嫌ですよ。私は出ませんよ」


「なんで! ハツメさんは強いはずですから圧勝じゃないですか!」


「主人が出ればいいじゃないですか。不死身なんですからいつかは勝てますよ」


 頼りのハツメが出場することがないことに浩太は焦りだす。何度もお願いをするが、ハツメは宿屋の主人とは違いその首を縦に振らなかった。


「私の主人は浩太様です。そした私は貴方の従者であり、従者を養うのは主人の役目ですよ」


 主人を養うのも部下の仕事では、浩太はそう思ったが口にはしなかった。口にしたところで彼女が大会に出場してくれるとは思わなかったからだ。そのため浩太は自らが大会に出場することを決意する。


「わかりましたよ……俺が出ますよ」


 自分には魔法石があるから大丈夫、浩太はそう自分に強く言い聞かせ、自らの決心が鈍らないようにする。


 話は終わりと言わんばかりにハツメは部屋にあったベッドに寝転がった。


 この203号室にはベッドが一つしか存在していなかった。それはそれは大きく、たとえ二人で寝ても快適に寝ることができる大きさだ。


 せめて寝てる時に少しぐらいお触りしてもいいはずだ。いや、触るだけじゃなくてハツメさんを抱き枕にして寝るのも最高だ。


 だって俺のおかげで部屋を借りれたし、武道大会にも出場する羽目になった。少しぐらい主人を養ってくれるはずだ。


 浩太は下心と期待を胸にハツメがいるベッドの布団に手をかけ、入ろうとした瞬間にハツメの足によってその身を追い出された。


「痛い! なにするんですか、ハツメさん」


「女性のベッドに入る気ですか」


 ハツメの目は冷たく浩太を射抜く。その視線に浩太は後ずさるが負けてはなかった。


「いや、一つしかベッドがないですから仕方ないじゃないですか」


 浩太の言葉を聞き、ハツメは笑顔を浮かべる。今まで見たことがない優しい笑顔だった。


 そしてハツメは地面を指差す。


「まさか地面で寝ろと……いくらなんでも酷すぎますよ! 俺だってーー」


 浩太は叫びながら何度もベッドに突撃し、何度もハツメに蹴られ追い出された。浩太が諦めるまでハツメは浩太をベッドには入れなかった。


「床が冷たいぜ。それに硬い……」


 巨大なベッドはハツメによって独占され、その様子を見ながら浩太は冷たい床を濡らし眠りについた。












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