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不死身の異世界人  作者: ぱにっく
9/17

走って吐いて、俺の純潔

不定期ですみません!


文句ならうちのオーナーに言ってください!

車で仮眠を取らせるとかブラックにもほどがあるわ!

ポートレスの中心地にある広場。そこから北に数分歩いたところに旨くて安いと評判の飲食店がある。そこに慎也とメルディはいた。


「うぅー…」

「そんな落ち込まなくてもいいじゃん」

「でもでも、私も歓喜の震えを見たかったですー…」

「あそこで酒なんか飲むからだよ。てか、この国は何歳から飲んでいいんだ?」

「えー?20歳からですけど…」

「だったらメルディはまだ飲めないじゃんか!うわー止めときゃよかったな…」

「えー!ひどいですシンヤさん!私のこと何歳だと思ってるんですか!」

「え?同い年くらいかと…」

「私、こうみえても23歳ですけど!?」

「うぇえええ!?」


良いから覚めたメルディに今までの経緯を話すとだいぶ落ち込んだので、この飯屋で慰めようとしたのだが…衝撃の事実に開いた口が塞がらない慎也。

というより、この町は衝撃の事実が多すぎる。


「ひどいです!私のこと、子供だと思って!」

「ご、ごめんって…ほら!このワイルドボーの湯で肉うまいぞ!食ってみろよ!」

「食べ物でごまかさないでください!ハムッ」

(でも食べるんかい)

「ムグムグ…で、どうします?」

「どうって?」

「いや、せっかく新しい武器も手に入りましたし、私もパートナーになりましたし…実践練習とか」

「ああ、そうだな…明日朝一で依頼を受けに行こうと思うんだけど」

「朝一で?第一の鐘でですか?」

「うん、早い方がいいかなって」

「そうですね…手頃な依頼はすぐ無くなりますし…そうしましょうか」

「おう、で、手頃なやつってどんな奴だ?」

「んーどうでしょうか…オークやリザードマンあたりですかね?」

「ほーん、リザードマンはまだ闘ってねえな」

「じゃあ、あればそれで行きましょうか!」

「了解、じゃ、とりあえずは飯だな」


そう言って並べられた料理を平らげていく二人。

食べ終えてメルディを送り、自分も宿へ帰ろうとする慎也。ふと空を見ると綺麗な満月が出ていた。

(そういえば狼男って、満月を見ると変身するんだよな…)

ちょっと期待して見つめてみるが一向に変身しないので、諦める。


「そういや、初めての依頼だな…ドラグロの調子やメルディとの連携をしっかり確認しないとなー。あと、捕食吸収も試してみたいし」


オーガを捕食して以来、魔物の肉は食っているが魔力は増えていない。何か条件があるのかもしれないそのスキルを試そうと思っていたのだ。


「生食じゃなきゃダメなのか、それともどこか固定の部位を食べなきゃダメなのか…」


考えても仕方がないので他のことを考える。

メルディにはまだ能力を話していない。行きの途中で軽く説明しておかないとパニックになるかもしれない。


「なーんて説明しようかなー」


そんなことを呟きながら、夜は更けて行く。





「あー…馬車、借りてくりゃよかったな」

「それすると利益が少なくなりますよ?」

「そうだなー」


朝の鐘がなり、ギルドで落ち合った二人は掲示板でオークの討伐依頼を受けてすでに出発していた。

ただし、目的地のレイド村までは徒歩では半日かかるのだ。

慎也のみならば3時間ほどで着くが今回はメルディがいるのだ。どうしようもない。


「人力車とかねえかなー…あ」

「どうかしましたか?」

「ちょい待ってて」

「あ、ちょっと…!」


突然慎也は走り出し、農家の人に話しかける。そのあと、お金を払ったかと思うとリアカーを引いて帰ってくる。


「あ、あの…」

「メルディ、これに乗ってくれ」

「…はい?」

「メルディ、このまま歩いてたらすげー時間かかるよな?」

「…はい」

「俺だけなら3時間あればいけると思うけど、メルディには無理だろう?」

「はぁ」

「だからこれだよ」

「いや意味がわかりません!」

「ん?人力車だよ人力車」

「じ、人力車?」

「まーとりあえず乗って乗って!」

「ち、ちょっと!」


抵抗虚しく荷台に乗せられるメルディ。

慎也はリアカーの持ち手を持つとメルディに話しかける。


「メルディ、今から俺がこいつを引っ張って進む。俺の力を使うからよく見ててくれ」


そう言うなり、身体に魔力を纏っていく慎也。完全なウェアウルフではなく、獣人と呼べる形態へ。獣耳、尻尾が生えて所々も毛深くなっている。


「し、シンヤさん…それは…」

「これが親父から受け継いだ能力だ。俺を育ててくれたのは人に成ることができる狼だったんだよ」

「では、シンヤさんは…獣人…なのです…か?」

「いや、能力で狼の力を得ただけであって、俺は普通の人間だよ」

「そうですか…」

「蔑むかい?」


この町ではちょくちょく獣人を見かけるので差別の文化はないようではあるが、バルド本人が口にしていた。


穢れた血の一族


と。それは何を基準に判断しているのかわからないが、もしかしたら獣人でないのに獣化できるこの能力こそがそうなのではないかと慎也は考えた。ならば、メルディに蔑まれても仕方ない。パーティを解散しても諦めようと思っていたのだが…


「あの!」

「なんだ?」

「えっと…あの…その…耳を……触っていいですか?」

「………………………おう」

「ほんとですか!?わー!!きゃー!!可愛いー!!!」

「おおう…」


シリアスな考えなど吹っ飛ぶかのようなハイテンションに、安堵する慎也。


(よかった…敵対しないでいてくれて)


例えメルディであろうとも、この力を侮辱すればタダでは済まなかっただろう。それは慎也の心が子供なせいで許せないのではなくて、侮辱したものを許すつもりがないからである。まぁ…逆にここまでのテンションになるとは思ってもいなかったが。


「ま、まぁ…そういうわけで、これで俺は早く走れるから。メルディはしっかり荷台に捕まっててくれよ?」

「はい!わかりました!」


メルディの了承も得られたので、かっ飛ばしていく慎也。風を切って走るのは気持ちよくて、気分も最高潮に達していた。


「ひぃぃぃぎぃぃゃあああああ!!!!」


後ろのメルディを無視して。





「どうせ、慎也さんにとって私の存在なんてどうでもいいんですよね。そうなんですよね。

はぁ、私は路傍の石ですか。それを眺めるように私をみてたんですか。あれですか。私をパーティに誘ったのは、子供が気まぐれで石ころ拾ってくるみたいな、そんな感じですか。

あーあ。私、バカだなぁ。やっと相棒と、相方と呼べる人を見つけたと思ったら…あーあ。

後ろで泣いて叫んでも聞く耳持たないし。

いざ到着したら、キラキラした目でどうだった?って聞いてくるし。

はぁ。怖かったですけどなにか。

もういいですはい。所詮、支援しかできないようなくそ魔術師なんていらないですよね。



…ちょっと…ちょっと…ちょっとお花摘みに…」

「大変申し訳ございませんでしたぁぁぁああああ!!!!!」


慎也がリアカーを引いてレイド村まで走っている間、メルディはひたすら吐いていた。

吐いて、泣いて、叫んで、吐いての繰り返しである。


最後の方は泣き叫ぶ元気がなく、ただ淡々と後ろに向かって履き続けていた。童話のヘンゼルとグレーテルがパンのかけらを残していたように、メルディは吐瀉物で出来た一本道を残していた。


乙女にあるまじき行為をさせたのだから、今回慎也はひたすら謝るしかなかった。


「本当にごめん!」

「うぅ…ひどすぎです。もうお嫁に行けません」

「安心しろ、俺がもら…」


慎也は思い出した。冗談で言ったことをそのまま鵜呑みにされたことを。

このまま、俺がもらってやるから、なんて言った日にはゴールインまで行ってしまう。


「…?何か言いました?」

「い、いや…なんでもないよ。メルディは可愛いから、引く手数多だから安心しなよ」

「そ、そんな!可愛いだなんて!!」

(よし、機嫌は治ったみたいだな!)

「さて、まずは宿を取らないとな…」

「そうですね、このレイド村には宿は一つしかありませんので、そこに行きましょう」

「わかった」


二人して宿に向かって歩く。どうやら本当に機嫌は治ったようだ。

しばらく歩いてついた宿は緑のタヌキ亭と言うらしい。

ここでは無難に一人部屋二つを選択し夕食を食べて眠ることにした。

慎也が自室でドラグロの手入れをしていると、ノックの音が聞こえる


「誰だ?」

「あ、メルディです」

「鍵はかかってないよ」

「し、失礼します!」

「で、どうしたの?」

「あのー…私の魔法って、気にならないんですか?」


メルディの言うことはもっともである。

本来できたてのパーティなどでずっと組んでいく場合は、お互いの力を確認するものである。そうでなければ命の危険に晒されるからなのだが、慎也はメルディに聞かなかった。


それは、メルディがどんな魔法を使ってこようとも対処できるからだったのだが、メルディにとっては信頼していないと言われているような物なのだ。


「あー…いや、気にならないっていうか…ほら、俺って一人で闘うことをずっと考えてたから!だから、そこに意識がいかないっていうか…メルディは支援なんだろ?なら、実際闘ってる時に体験しても大丈夫だし!」

「むう…確かに、一理ありますね」

「あー因みにだけど、どんな魔法を使うんだ?」

「えっとですね、パワー上昇、ディフェンス上昇、スピード上昇などが基本です。他には任意の場所に簡易的な結界を張ったりできます!」

「へー結構便利な魔法だな」

「そうでしょうとも!」

「んじゃ、明日な」

「…え?」

「ん?確認は済んだだろ?」

「いや、あの…え、大丈夫なんですか!?」

「俺は大丈夫だけど?」

「前もって見ておかないと!いざ実践の時にがっかりされても困りますし!」

「そんなことにはならないだろー」

「そんなことになります!…以前、そうだったんですから」

「以前?」

「はい。同じように確認せずに戦闘に入って、支援を行ってたんです。そしたらリーダーの方から攻撃の指示が私に来たんです。でも、知っての通り私は攻撃魔法は使えませんし…。

結局、倒すことはできたんですけど…そのあと口論になって…」

「だから、前もって確認ってことか」

「私のせいで、雰囲気を悪くするのも嫌ですし…あ、なんかすみません!」

「いや、大丈夫だよ」


最近の主流は攻撃と支援の両立なため、そのリーダーはメルディが攻撃できないとは思ってなかったのかもしれない。


「俺はメルディが攻撃できないのを知ってるから。それに、火力でいうなら俺がいれば十分さ。

メルディはサポートと、俺に癒しをくれたらいいんだからさ」

「シンヤさん…」

「ほら、明日には実際に闘うんだ。早く寝ようぜ」

「…はい」


そういってベッドに入り目を閉じる慎也。メルディはその場に立っているがやがて口を開く。


「あの!シンヤさん!」

「なんだ?」


意を決したような雰囲気に、不安から解放されてやる気になったかと考えた慎也はなるべく優しく聞き返す。


「一緒に眠っていいですか」












「断る」


そんなことになれば明日の依頼に響く。

彼女がいたことがない慎也にとって添い寝は刺激が強すぎて精神的にやばい。


「うう…シンヤさんのけち!」

「うるさい!早く寝ろ!」


多感な時期の男の子を舐めるなと思いながら、慌てて意識を手放そうとする慎也。

なるべくメルディを考えないように、なおかつバーンズの筋肉を思い浮かべて気持ちを落ちつかせる。


余談ではあるが、地球での慎也は

彼女が作れないんじゃない、作らないんだ!

と、公言して、周りから温かい目で見られた過去を持つ。


そうして、夜は更けていく。

私は彼女募集中です。


誰かもらってやってください。



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